下に降りると山口がいた。
「アナタの後輩?」
「おん」
「そっくりだね」
くつくつと咽喉で笑う。
「どこが」
「頑固なところ、意地っぱりなところ、素直じゃないところ、気が強いと」
「もぉええよ」
指折り数える山口に城島は苦笑いするしかない。
「天使が嫌なの?」
家の中に入りながら山口が訊いた。
「許せへんのやて」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ、堕ちたのか」
要領を得たとばかりに山口は頷く。
「一つ前の大戦で上官に捨て駒にされたそうや。家柄が悪いんに2位まで上り詰めたんを疎まれたとか」
「・・・・・・・・・・四隊のクソだな」
「知っとるん?」
「あぁ。副将が堕ちたって有名だったんだ。あのクソ野郎がここぞとばかりに家柄主義を主張しやがって」
「家柄が悪いから堕ちたんや、て?」
「そう。生まれが良くても堕ちてる奴もいんのに。
 俺と長野以外のやつらは賛同しやがって、上位には名家の奴しかなれなくなったんだ。だから長瀬が8位なんだよ」
あれだけ力あるのに。
忌々しげに呟いた。
「まぁ、俺が堕ちてるわけだから揉めてるだろうけど」
くくく、と意地悪そうに笑う。
「せやね。よく考えたら達也も堕天使やんか」
「そうなんだよね。天界見限っちゃったから。まぁ天使はやめてないけど」
あっさりと山口は認めてしまう。
「いいの?悩んでんじゃん、あいつ。音が乱れてるよ」
天井を見つめて指さした。
「無理矢理はあかんやん?やっぱ」
「待ってんじゃない?アナタの命令をさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・命令でどーにかなるもんやあらへんよ、こればっかりは」
静かに、扉は閉まった。















「おい」
街中をふらふらとしていると、急に声をかけられた。
人間界に知り合いなんていないのに。
そう思いながら振り返ると見たことのある顔。
「お前、まだあの裏切り者に従ってんのか?」
あの裏切り者。
それが誰を指すのか言われなくても判った。
そして、思い出した事が1つ。

平和主義者が多くても、裏切りは許さないと考えている悪魔は多い。
特に、"元天使"に。

気配だけから数えても、自分と同一ランクが10人はいる。下の奴も結構いるだろう。
勝ち目はない。

でも、

見限るなんてことは出来ない。
「・・・・・・・・・・・・・・だったらどうなんだよ」
どうにでもなれ、と太一は笑みを浮かべた。















一瞬、寒気がした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・どったの?」
いつもより早めに来た松岡が城島を覗き込んだ。
「あー、いや、何か寒気がしてん・・・・・・・・・・・・・・・」
「風邪?てか悪魔もひくわけ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
突然難しい顔をして黙り込む。
「リーダー?」
「ちょお出掛けてくるわ」
慌てた様子で出ていった。
「?」
眉間にシワを寄せた姿など見たことのなかった松岡は呆然としてそれを見送った。















死ぬんだろうな。
漠然と太一は思った。
同位の奴等を5人、下位の奴等を20人ほど叩きのめして、太一は限界に来ていた。
「・・・・・・・・・・・・くっそ・・・・・・・・・・・切りがないな・・・・・・・・・・・・・」
魔力も体力も、もうほとんど底をついている。
それでも相手はまだかなり残っていた。
「あー、もう、ふざけんなって・・・・・・・・・・・・・・」
目の前の奴が今までで最大級の呪文を放つ。
逃げる気力もなく、笑うしかなかった。
「・・・・・・・・・・・意地張んないで行けば良かったなぁ・・・・・・・・・・・アンタんとこへ・・・・・・・・・・・・・・」
そして、目を閉じた。















「ただいまー」
腹減った、と玄関から声がした。
長瀬と二人、ぼんやりテレビを見ていた松岡はお帰りと山口を出迎えた。
「どこ行ってたの?」
「バイト代貰いに行ってて・・・・・・・・・・・ってシゲは?」
「さっき突然眉間にシワ寄せて出てっちゃったよ」
肩をすくめて松岡が言う。
「長・・・・・・・・・・・」
「ぐっさん、何か変な力感じるんすけど…」
山口の呼びかけを遮って長瀬が心配そうに口を開いた。
「どんな?」
「すっごく微かになんですけど、・・・・・・・・・・・・・悪魔・・・・・・・・・・かな・・・・・・・・・・・・・・」
長瀬は首を傾げる。
「数が多い?」
「はい。・・・戦ってるのかなぁ・・・?2人といっぱいの人に分かれてる」
「ならいいよ。大きな力の後に気配が2つになったら教えてくれ」
山口はあっさりと話を終わらせる。
「何だったの?」
心配そうに松岡が山口を見た。
「大丈夫だって。あ、今日の晩飯もう一人分増やしといて」
「は?」
「多分1人増える」
クックッと笑って山口は自室に引っ込んだ。



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2006/02/26



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