天使なんて嫌いだ。

愛だ正義だと言っておきながらあっさりと仲間を見捨てる。

その言葉は全て胡散臭い。


何もかも信じられない。


だから、

















「そっか。やっぱりな」
目の前に座る男が仕方ないという顔でため息をつく。
「悪かったな、太一」
「いいよ。別に」
苦笑を浮かべるその人に、太一はぶっきらぼうに答えた。
「眞王には俺が報告しとくよ」
「お願いします」
軽く頭を下げて太一は踵を返す。
「太一」
部屋の戸に手をかけたところで、男が呼んだ。
「行っていいぞ。行きたいなら」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
ちらっと振り返り、けれども何も言わず部屋から出ていく。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・相変わらずだな」
気配が消えてから、男は小さくため息をついた。










今は何もない部屋。
机や棚は残っていても中身は空だ。

少し前まで上司がここにいた。
仕事は出来るクセにやらないで、誰にも告げずに何処かに出かけて、またふらっと戻ってくる。
何度雷を落としても効果はなく、ヘラヘラと笑っていた。

『ちゃんと戻ってくるから』

いつもそう言って出て行っていたのに。

「・・・・・・・・・・・・・・・戻ってくるって言ったクセに・・・・・・・・・・・・・・・・」
ぽつりと呟いて、その部屋を後にした。










そんなに人間界はいいのだろうか

眼下に広がる人間の建造物は無機質で、虚勢の塊にしか見えない。

天使が住む屋根の上に腰を降ろし、見慣れない、しかし管理しているはずの世界を眺める。

せわしなく一日を過ごし、夜には眠る。
「地界とどこが違うんだよ」
まだ安定と安全が保証されてる分、あっちの方がいいじゃないか。
「・・・・・・・・・・・・・やっぱりワカンナイヨ」
「太一くんじゃないっすか!!」
太一が小さく呟いた時、下から声がした。
「そんなとこで何してるんすか?」
ふわりと白い羽根が羽ばたいて、太一の横に舞い降りる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・お前・・・・・・・・・・・・・・・・」
片手には買い物袋。買い物帰りらしい。
「長瀬です。リーダーのとこにお世話になってる」
にかっと笑う。
「あぁ、バカ天使か」
「バカって酷いっすよ!!せめてボ」
「それ以上近寄んな」
あからさまに嫌悪の表情を見せて、太一は泣きつこうとした長瀬を拒絶した。
「見てるだけでも嫌なのに・・・・・・・・・・・・吐き気がするっ」
太一のその言葉に長瀬は一瞬固まり、そして叱られた犬のような顔をした。
「・・・・・・・・・・・・・・・すみません・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しょんぼりと買い物袋片手に地面に降りる。
そしてとぼとぼと家に入っていった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・ホント、アンタの気が知れないよ」
「あんまきつくあたると可哀そうやで」
やんわりとした声が誰もいなかったはずの後ろから返ってくる。
「どないやって?」
「知らない。眞王に直に言った訳じゃないし」
「ほーか」
ぶっきらぼうな答えに城島は馴れた様子で相槌を打つ。
そして何も言わず、太一の横に腰掛けた。

「キレイやと思うねん」

突然ぽつりと、沈黙を破ってそう洩らした。
「・・・・・・何が」
「・・・・・・ボクらなぁ、殺されへん限りは永遠やろ?
人間はちゃうねんな。限られた時間しかあらへん。短い命のサイクルつないで、そん中で精一杯もがいて、一生懸命生きとる」
煙草を1本取り出し火をつけた。
「殺し合ったりするんはボクらと何等変わらへん。でもなぁ、何や、幸せそうやん」
吐き出された紫煙は風に流れていく。
「長い時間を生きるボクらより幸せそうなん見たら嫌になってん、あっちにおるの」
「・・・・・・約束と違うよ」
「・・・・・・それは、すまん」
それっきり太一は黙ってしまった。
短くなった煙草を灰も残らないように完全に燃やし、城島は立ち上がった。
「無理にとは言わんよ。
でもはよボクを見限って眞王の元に行くべきや。地界を捨てたボクが、好戦的な奴等によく思われとるわけないからなぁ」
そう笑って下に降りる。
玄関先には長瀬とは別の天使がいた。

『ボクを見限って』

「・・・・・・んな事、出来るもんならとっくにやってるっつーの・・・・・・」
小さな声は風に溶けていく。

あんな事を言いながら城島は自分を見捨ててないんだろう。
むしろ出来るなら、と自分を望んでくれてもいる。

傍にいたいと思う。

でも天使に近付きたくないとも思う。

思いが相反して、動けない。



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2006/02/26



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