何かを求めているとか


そういうわけじゃなかった


ただ、知りたかった






















w i n g s





















「行っちゃったんだね」
俺の言葉に、シゲルくんは曖昧に笑った。
シゲルくんの横で兄ぃが泣いていた。
兄ぃの手にはバラが1本握られている。
あれは赤い色をしているらしい。
でも、俺の目には灰色にしか映らない。
海を見る。
消炭色の揺らめきの向こう、淡灰色の空とのラインに白い光が沈んでいく。
誰もかれも、この時だけはここに集まる。
振り返る。
海岸線の何処も彼処もひしめき合っている。
立っている奴もいれば、しゃがんでいる奴もコンクリートに腰掛けている奴もいる。皆一様に光を見つめていた。
でも、こうやって海岸線を埋め尽くしているのに、もう兄ぃに俺達は見えない。普通の人間なんだ。

兄ぃが去っていった。
その足取りをどいつも目で追いかける。
「マサヒロ、行くぞ」
ヨシヒコの声に振り返る。
日はもう沈みきっていた。
「マサヒロ」
行きかけた俺をシゲルくんが呼びかける。
「何?」
「人間になることが全てやない。でも、死に逝く人を迎えるだけが全てでもないんやで」
言ってる意味は解らなくもなかった。
でも、わざわざ人間になる気持ちは解らなかった。

「なぁ」
声をかける。
横に立つヨシヒコが視線をこちらに向けた。
「どうして兄ぃは人間になったんだろう」
「俺が知るかよ」
俺が黙り込むと、ヨシヒコは天井を見上げた。
「・・・・・・・・・・・・・・仕事が嫌になったんじゃねぇの?」
部屋の主が息を引き取った。
「そうかな」
ヨシヒコが立ち尽くす彼の元に行く。
彼が道に迷わないように、逝くべき先を指し示した。
ヨシヒコは彼と共に、光の向こうに消えていく。
俺はその場から立ち去った。

「兄ぃはどうして人間になったんだろう」
日の出を眺めていた時に小さく呟いてみた。
「やったら何でマサヒロは人間にならんの?」
少しずつ姿を見せる太陽の光を受けて、シゲルくんが逆に訊いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何でだろう」
「それと同じやと思うで」
そして、シゲルくんは視線を右手に向けた。
誰もいなかった所に1人、突然現れる。
そばにいたツヨシくんがそいつに近付いていた。
「欠員の補充やね」
それを眺めていたシゲルくんが呟く。
「兄ぃの分?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・さぁ」
何事もなかったように誰もが動き始める。
日はすでに昇りきっていた。




兄ぃは仕事を始めたらしかった。
毎日、朝早く出掛けて、フラフラになって帰ってくる。
それでも楽しそうに見えた。
幸せそうに見えた。




「兄ぃはどうやって人間になったの?」
日没の時にシゲルくんに訊いてみた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前もなりたいん?」
「ううん。興味があるだけ」
「・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・高い所から飛び降りればええんよ」
シゲルくんはあっさりと教えてくれた。
「僕らには見えない羽根がある。それがあるから何処へも行ける。だから、それを捨てれば人間になれんねん」
「そうなの?」
「羽根があるから空中も歩ける。なければ落ちる。だから、自分の意思で落下すれば羽根は無くなる」
「・・・・・・・・・・・兄ぃはそれを実践したの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・さぁな」
シゲルくんは曖昧に言葉を濁して、海岸からいなくなった。
日はもう沈んでいた。




兄ぃはどうして羽根を捨てて人間になったんだろう


この仕事が嫌になった?


灰色の世界に飽きた?


解らない


解らないよ、兄ぃ




「お前、最近おかしい」
ヨシヒコに突然言われて、俺は首を傾げた。
「タツヤくんばかり見て、やることをやってないだろ」
「やることはやってる」
「やってないから言うんだ」
ヨシヒコの視線を避けるように、俺は顔を背けた。
「・・・・・・・・・・・・・・・行きたいのか?」
「判らない」
「何で見てる?」
「・・・・・・・・・・・・・何でだろうな」
俺は言葉を濁して視線を兄ぃに戻した。

そう言ったけれど、本当は判ってた。

知りたかったんだ、俺は。

突然羽根を捨ててしまった理由を。




何で俺を置いていった?


俺には何にも言ってくれなかったのはどうして?


見ていればそれが解ると思った。


でも、解らない。


世界が違うから?


俺も兄ぃみたいに羽根を捨てれば理解できる?




「マサヒロ」
夜明けを待って、太陽に背を向けた。
そして呼ばれて振り返る。
シゲルくんは砂の上に腰を下ろして海を見ていた。
「気ぃつけや」
決してこちらを向かないで、そう言った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい」
申し訳ない気分が沸き起こってきて、俺はシゲルくんに謝った。
その背中を目に焼き付けて、そして、背を向けた。
もう、浜辺には誰もいなかった。


そばにあったビルの屋上に降り立つ。
1歩踏み出して、フェンスの上に立った。
足元を見る。
遙か下に小さく車が見えた。


兄ぃもこんな所から飛び降りたんだろうか

何を思って降りたんだろう


振り返る。
屋上の入り口の辺りにヨシヒコがいた。
「行くと思った」
「止めに来た?」
「好きなようにしろよ」
ヨシヒコはそう言って、小さく笑った。
「マサヒロ」
「何?」
「お前が俺を見れなくなっても、俺を忘れてしまっても、俺はずっとお前を見守ってるよ」
「俺も絶対忘れねぇ」
俺が笑顔で答えると、ヨシヒコは笑った。
「ありがとう、ヨシヒコ」






そして俺は両手を広げて、自然の力に従った。






何かが千切れていく感覚。
鋭いものが身体を貫いていく。
俺を通り抜けたそれらは、ガラスのように煌めいた鳥の羽根のようなもの。




羽根が千切れてるんだ




そう思った瞬間、激しい衝撃が全身を襲った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
同時に何とも言えない不快感。
うまく動かない身体を何とか動かして、俯せになる。
手や地面が液体で濡れていた。
それは今まで見たことのない色。
「お前まで来ちゃったか」
視界が少し暗くなる。
手を見ていた視線を上げた。
「・・・・・・・・・・・・・・タイチく・・・・・・・・・ん・・・・・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・覚えててくれたんだ」
そのヒトは嬉しそうに笑った。
「タツヤくんは衝撃が強かったみたいで記憶も飛んじゃったけど」

覚えてる。

記憶に残る笑顔。

会ってすぐに消えたヒト。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それが『赤』だよ」
タイチくんが俺の手を掴んで言った。
「血の色。灰色の世界から出て初めて目にする色だ。そして身体が気持ち悪いだろ?それが痛みだよ」
混乱している頭を何とか整理して、身体を起こす。
そのまま空を見上げた。
灰色じゃない、抜けるような深い色。
「これが青空だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あお・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「これが世界だよ」
瞬間、涙が出てきた。
「大丈夫か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
声にならない。

赤も青も名前も知らない他の色も、色とりどりに世界を彩っている。
鮮やかな、世界。
今自分がこの世界に存在しているという、感覚。
圧倒されるほどの孤独。
今まで存在していなかった感情が溢れてきて、止まらない。


今、俺は生きてる。


その事に、喜びも悲しみも感じてる。
綯い交ぜにされた感情に反応して、涙が止まらない。
「全部無くして全部手に入れたんだ。気が済むまで泣けばいいよ」
そう言って、俺の頭を撫でる。
温かい感触。
今まで感じたことのなかった“ぬくもり”。



・・・・・・・・・・・・・兄ぃ


兄ぃはこれが欲しかった?


俺は、きっと、アナタからのこれが欲しかった


だから、羽根を捨てることができたんだ



「・・・・・・・・・・・おめでとう、マサヒロ。お前は今、この世界に生まれたんだよ」
タイチくんがそう言った。


ああ、そうか。


これから、俺は、この世界で生きていくんだ。
















はじめまして


彩りの世界











Happy birthday, Masahiro !!


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30歳おめでとうございます!!

兄ぃもそうですけど、貴方も30代突入とは思えませんね!
自分大好きリーダー大好きな貴方が大好きです。
30代初めの1年、舞台で始まって大変だと思いますが、素直に甘えられない可愛い貴方でいてください(笑)

ま、やっぱり祝ってないですね(汗)もういいです。諦めてますから。
元ネタに気付いてくださってる方がいるみたいですね!
実は正確に言うと違ってたりするんですが、問題ないです!

次に補足として少し話を作りましたので、よろしければそちらもどうぞ。


こちらもよろしければお持ち帰りください。


改めまして、おめでとうございます!!

2007/01/11

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