聞いてほしい
決して絶望した訳じゃないんだ
ただ・・・・・・・・・・・・・・
l o s t
傷だらけで発見された。
打撲に裂傷。骨折もしていた。
何があったのか。
訊かれても何も判らない。
生年月日も、年齢も、どこの生まれかも、今までのことが全く判らなかった。
唯一判るのは自分の名前だけ。
タツヤと、呼ばれていたことだけだった。
目を覚ます。
まだ見慣れない白い部屋。窓が開いている。風に吹かれてカーテンが揺れていた。
タイチが開けてくれたんだろう。
1年前、ボロボロの状態の俺を助けてくれたのはタイチだ。
退院しても身寄りのなかった俺を引き取ってくれたのも。
理由を訊いたら、一緒に暮らしていた人がいなくなって同居人がほしかったから、と言っていた。
部屋を抜け出して、1階に降りる。
人の気配はなかった。
タイチはいないようだ。テーブルの上にメモ書きがあった。
『買い物に行ってきます』
また寝てしまっていたらしい。
この家に住み始めてからなのかは判らないけれど、よく眠るようになった。
突然眠たくなる。
いつ眠ってしまうか判らないから、未だに定職にも就けない。
タイチが急がなくても良いと言ってくれてるから助かってるけれど。
外に目を遣る。家の裏は海だ。
何となく、足を向けた。
そういえば夢を見ていた。
黒いコートを着た男が横に立っていた。
2人で海を眺めていた。
俺が何かを言うと、そいつは目を海から逸らさずに言った。
『■■は■■とは違う』
視線を落とす。
『良いこともある。でも辛いことの方が多い』
そのまま俺に視線を向けた。
顔は判らない。
『それでも望むなら、僕は止めない』
悲しそうな笑顔だった。
日の沈みかけた海。
光の拡散で橙に輝いている。
誰もいない浜辺を一人歩く。
懐かしい感覚。
知らないのに。
波打ち際で足を止めた。暗い碧の上に金色が光る。
『前にもお前みたいに言った奴がいた』
『そいつも■■になった』
『前例はある。■■も許してくれる』
『僕ら■■にも、選択権は与えられてる』
「きれいでしょう?」
突然横から声が聞こえた。
目を向ける。
男がいた。
黒いコートを着ていた。
「ええ。心が落ち着きます」
足音もなくて驚きはしたが、俺は答えた。
「僕には判らんのですけどね。色がない世界なので」
「え?」
「生まれつき、色が感じられんのですよ」
そう言ってそいつは笑った。
「世界は鮮やかですか?」
『方法は1つだけ』
「・・・・・・・・・・・・・・・はい」
意味の解らない質問に、それでも無意識に肯定の返事をした。
『でもそれで確実に■■になれる』
「なら、これを差し上げます」
男が差し出したのは真っ赤なバラ。
鮮やかな、赤。
躊躇われたが、それを受け取る。
「何色ですか?」
「・・・・・・・・・・・きれいな、赤です」
俺がそう答えると、そいつは笑った。
そして、俺は何となく海に視線を戻した。
空は赤く染まっていた。
「・・・・・・・・・・・・・おめでとう、タツヤ」
呼ばれた名前に慌てて視線を戻す。
そこには誰もいなかった。
突然、涙が出てきた。
止まらなかった。
悲しいわけでもなくて、どうしてなのか解らないけれど、涙は止まらなかった。
『高い所から飛び降りろ』
ごめん
この世界が嫌になったわけじゃないんだ
でも、色のある世界に生きてみたい
橙に輝く夕日を眺めて、鮮やかな花を愛でて、痛みや悲しみを感じて、この世界と共に生きていきたい
人間と触れ合って、温かさを感じたいんだ
『初めは激痛が襲うだろう』
『しばらくは眠たくて仕方なくなる』
『今、僕が言ってる意味は解らないかもしれないけれど、それが人間なんやで』
足下に広がる忙しなく、それでも惹かれて止まない人の世界を視界に入れて、鉄筋の中継塔から、飛び降りた
さようなら
灰色の世界
Happy birthday, Tatsuya !!
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35歳おめでとうございます!!
リーダーとは1歳しか離れてないはずなのに、まだまだ若い貴方が大好きです。
今年も意外と辛口なコメントを保ちながら、たくましくあってください。
(けれどオネェ側には行かないでください/切実)
と、いうわけであんまり祝ってないのは相変わらずですね(汗)
言わずもがな、明日のマボ誕に続いてます。
そして、最後の辺で気づいた方もいらっしゃるかもしれませんが、この話は元ネタがあります。
私が好きな映画です。ほとんどオリジナルと化してますけど・・・・・・・・・。
続きは11日に・・・・・・。
では、よろしければお持ち帰りください。
改めまして、おめでとうございます!!
2007/01/10
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