背の高い青年を、背の低い青年が引き摺るように連れて行く。
その姿を見えなくなるまで見送って、立ち上がった。
─────────── シゲルくん
頭の中で、声が響く。
懐かしく思いながら、海に向かった。
s e p i a
「ねぇ」
夕日が沈む。
セピア色の世界が少しずつ黒ずんでいく。
呼びかけられた声に、振り返った。
「何や?」
「シゲルくんて、初めのヒトなんでしょ?」
背後に立っていた、小柄の青年が、表情もなく、そう訊く。
「せやで」
「なら知ってるでしょ?人間になる方法」
「知っとるよ」
「教えて欲しい」
青年の言葉に、身体ごと彼の方を向いた。
「理由を聞かせてくれんか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・触れたい人がいるんだ」
彼は俯き加減にそう呟く。
「彼女に触れたい。抱きしめたい。彼女の力になりたい。でも・・・・・・・・・・・・・・今のままじゃできない」
「せやね」
「だから人間になりたい」
瞳を上げた彼の視線に、目を閉じた。
「・・・・・・・・・・・・高い所から、飛び降りる。全てを捨てて、地上に落ちる。そうすれば、人間になれる」
そのまま口を開いたことに、青年は驚きの表情を浮かべた。
「・・・・・・・・・・・・・・こんな簡単に教えてくれるなんて思わなかった・・・・・・・・・・・・・・・」
「お前が決めたなら、反対する理由はあらへんよ」
「・・・・・・・・・・・・・ありがとう」
青年の口からそのような言葉が出たことに驚いた。
けれど、その穏やかな表情に、満たされたように感じた。
「・・・・・・・・・・・一つ、訊いていい?」
「何や?」
「・・・・・・・・・・・・・・何でシゲルくんは人間にならないの?初めのヒトは、みんな人間になったんでしょ?」
その問いに、彼は曖昧な笑顔を浮かべるだけで、答えることはなかった。
『色が在り過ぎて気持ち悪い』
圧倒的に異なる世界への驚愕
『こんなにも、世界は大きかったんだね』
狂おしいほどの孤独感
『これが“あたたかい”という感覚・・・・・・・・・』
咽喉から手が出る程に求めたぬくもり
『君に会うために、俺はここに来たんだ』
引き裂かれる痛みに耐えて手に入れた幸せ
『・・・・・・・・・・・・・・・・どうして君が逝かなきゃならない』
失われる悲しみ
『君がいなかったら、生きていく理由なんてないのに』
先の見えない絶望
『・・・・・・・・・・・・・・・君の、分まで』
捨てられない生への欲求
その全てが、永遠の命と引き換えに手に入れたもの
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぁ、タイチ」
彼は海を眺めながら小さく呟いた。
「僕まで人間になってもうたら、お前らの最期を導く奴がおらんようなるやろ?」
誰も答えることなく、波の音だけがその声を飲み込んでいく。
「タツヤも、マサヒロも、お前も、ちゃんと僕が迎えに行くから、思うままに、生きぃよ」
彼は、うっそりとその目を閉じた。
「シゲルくん」
呼ばれた声に振り返る。
背の高い青年が1人、立っていた。
「行かないんですか?」
「行くで。ごめんなぁ、トモヤ。待っとってくれたん?」
彼は青年に向かってそう笑いかけ、足を進める。
「さぁ、行こか」
そして彼らは黒褐色の世界へ消えていった。
fin
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lostとwingsの補完です。
この話は『シティオブエンジェル』を元ネタにしてます。
ヴェンダースの『ベルリンの詩』ではないんです。でも『シティ〜』の原作はこれなので、正解になるかと。
『ベルリン〜』の方は見てないので、そっちの名前が出てきた時はビックリしたんですが(汗)
『シティ〜』はそれほど有名ではないんでしょうか。どうなんだろう・・・・・・・。
でも、それも結構昔に見てそれっきりなので、あまり再現できてないと思いますが・・・・・・・・・・・。
つまり、シゲルもタツヤもタイチもマサヒロも、天使です。
この天使には羽根はありません。でも、見えない羽根を持っているので、人間世界の物理法則には従いません。
仕事は人の最期を見守り、その人が道に迷わないように天国に連れて行くこと。
彼らは痛みを感じません。そもそも感覚がないので何も感じません。世界はモノクロで、色を感じることもない。
『初めのヒト』つまり一番初めに創られた天使だけが羽根の捨て方を知ってます。
シゲルさん以外はもう天使を辞めてしまいました。
そうそう。『シティ〜』でのセス(主人公の天使)役がタイチさんですね。
細かくは書いてないですけど。
てな感じのパクリな設定のお話でしたが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
よろしければこちらもお持ち帰りください。
改めて、山口さん、松岡さん、誕生日おめでとうございます!!
2007/01/11
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