ゴオン、と音を立てて、扉は閉まった。
周囲は真っ暗。
お互いの姿は確認できるものの、足元や、1m先も確認できない。
その中で、2人は突っ込んできたそのまま、城島を下に山口がその上に倒れこんでいるという体勢で、乱れた息を整えていた。
周囲に響くのは荒く呼吸をする音だけ。

そのまま少しして、山口がようやく口を開いた。
「・・・何してんのさ、ったく…せっかくヒトが助けてあげようと思ってんのに…」
「・・・自惚れんな、ボケ。1人で助かってどうすんねん。さっきのお前の台詞、そっくりそのまま返したるわ…」
「・・・意地っ張り」
「意地っ張りちゃうで。僕は欲張りやねん」
山口の言葉を、ふふんと鼻で笑う。
「どっちかなんて嫌や。どっちもがええわ」
「・・・ホント欲張りなヒトだね」
城島の開き直りに山口は苦笑混じりにため息をついた。
「それでも僕に着いてきてくれるんやろ?」
「何を今更」
城島が山口の肩に腕を回す。山口も城島の肩を持った。
「絶対2人で元の世界戻るで!!」
「あったりまえ!!」
2人が立ち上がった時、後ろに気配。
慌てて振り返ると、無表情でブロードが立っていた。
「・・・何やねん。さっきの部屋はクリアしたやんけ」
「・・・確かにそうだけど、あれは反則だよね」
城島の言葉に、もし見えるならば真っ黒だろうオーラを発しながらブロードが答える。
「おい、何してる!!?」
その後ろにヒールが現れた。
「ウルサいよ、ヒール」
肩に手をかけたヒールを振り払う。
「・・・もういいよ。そっちがそのつもりなら2人とも連れてくから」
「何言ってんだ!!それこそルール違は」
「楽に死なせてなんかあげないから!!」
ヒールの言葉も聞かず、ブロードが2人に向かって攻撃を始めた。
「うわっ、走れ茂君!!」
「もう限界やっちゅーねん!!」
そう言いながら走り出す。
「ブロード!!止めろっ!!」
「ウルサいっ!!」
逆上したブロードはヒールを吹っ飛ばして追いかけ始めた。














「・・・ちょっ!!何が起きてんだよっ!!」
音声だけで聞こえる異変に松岡が声を上げた。
「えっ、判んない、何でブロードキレてる訳っ!?」
事態を見ていたはずのウェルまで動揺している。
聞こえるのは爆音と悲鳴と怒号。何が起きているのかは全く判らない。
「何とかしろよっ!!お前等は手ぇ出さないって言ってたじゃねぇかよ!!」
長瀬がウェルに掴みかかる。
「だっ、だってそういうルールだから出さないはずだったんだよっ!!」
「じゃあ何だよ、コレは!!」
「ねぇ、死神さん」
長瀬の怒声とは対照的に、にこやかな声がウェル後ろから聞こえた。
「はい?」
咄嗟にウェルが振り返る。
振り返った先にはさわやかな太一の笑顔と、がっちり握られた左の拳。
「ぐはっ!?」
それはそのまま顔面に直撃し、ウェルはその場に倒れた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「お休みなさいませ〜」
最高の笑顔を浮かべて太一が言った。
ウェルはそのまま動かず、長瀬と松岡は目の前で行われた暴挙に硬直する。
その瞬間、ガラスが割れるような音がして、床が砕けた。
「ぎゃあああああああああああ!!!!!落ちてるぅぅぅううううううううう!!!!!」
マツオカが半泣きで叫ぶ。
「ジェットコースターみたいっすね!!!!」
何故か長瀬は楽しそうに太一に言った。
その太一は壊れる前の部屋にあったイスを持っていた。
「・・・・・・・・太一君、何でイス持ってんですか?」
「これさ、俺が持ってた以外のイスってどうなった?」
「・・・・・・そういえば無いですね」
「そんなこと言ってないで、何とかしてよ太一君!!!!!!」
普通に会話する太一・長瀬の横で、松岡が絶叫する。
「松岡、よく見ろって。落ちてないよ」
「はっ!!!?」
「俺の髪はなびいてないだろ。下も上も真っ暗なんだから、落ちてるように思えるかもしれないけど、
それはお前がそう思ってるから落ちてるだけで、浮いてると思えば落下は止まる」
「そういえば俺も落ちてないや」
太一の言葉に長瀬が遠回しで同意した。
「う、浮いてるって・・・・・・・・ぅおっ、止まった・・・・・・」
呆気に取られた様子で松岡が静かになった。
「話し戻すな。で、イスだけど、あそこにあった家具は無いのに俺が持ってきたイスはある」
「・・・・・・・もしかしてさ、それって今の俺と一緒じゃない?」
太一の言葉にようやく落ち着いた松岡がおずおずと言った。
「そう、そういうことなんだよ!!」
その仮定を聞いて、太一が嬉しそうに言った。
その横で長瀬の頭はオーバーヒートを起こして煙が出ているようだ。
「・・・・・・・・どういうことっすか?」
「つまりさ、思い込み?俺は落ちるって思ったから落ちてたんでしょ?
なら、イスを持ってきたのだからイスはある、と思ってるからある、とか?」
「じゃあ欲しいものを思い浮かべたら出てくると!!?」
「極論はそうだな」
「じゃあ練乳とかもですか!!?」
「何でそこで練乳なんだよ!!!!!!」
嬉しげに発言した長瀬の後頭部に太一の蹴りがクリティカルヒットした。
「・・・・・・・冗談は置いといてですね、ってことは、思い通りになるってことですよね」
後頭部を摩りながら長瀬が真面目な顔で言う。
「・・・・・・・冗談はいらなかったと思うよ、俺は」
松岡が小さく呟くも、長瀬には聞こえていないようだ。
「その通り。だから、考えようによってはリーダーと山口君のところに行けるかもって事」
ニヤリ、太一が笑う。
「ああ!!!そうか!!!」
「そういうことっすね!!」
3人は顔を見合わせて、笑った。
















どすっと鈍い音がして、走っていた山口が勢いよく転ぶ。
「山口!!!」
少し後方を走っていた城島が慌てて走り寄った。
「・・・・・・・ってぇ・・・・・・・」
左足を抱えて山口はうずくまる。ふくらはぎからは鮮血。
「追〜いつ〜いたっ」
そんな物騒な台詞とともに爽やかな笑顔。
咄嗟に城島はうずくまる山口を庇う。その城島の右肩も真っ赤に染まっている。
「そんな事しても無駄だよ。どうせ2人とも逝くんだから」
「・・・・・・・・笑顔で殺すなんて、マジで死神やね」
「最高の褒め言葉をありがとう」
少しでも時間を稼ごうとする城島を、知ってか知らずか適当にいなす。
ブロードを見上げて、一瞬固まって、城島は眉間にシワを寄せた。
その視線の先はブロードのはるか向こう。
「?・・・・・まぁいいや。一息に行かせてあげ」
「いたっ!!!!!!!!リーダぁー、ぐっさーん!!!!!!!!!」
「長瀬ぇ!!!?」
そして、城島の視線の先から長瀬が落ちてきた。
「ぎゃああああああああああ!!!!太一君の嘘つきー!!!!!!!!!!!!」
「嘘はついてねぇだろ!!!!!!!」
さらに絶叫しながら、太一と半泣きの松岡も落ちてきた。
「なっ!!!?」
そっちを見て、ブロードが固まる。
「長瀬っ!!行け!!!!」
「ぎゃん!!!」
太一の蹴りで長瀬の落下速度が上がり、そのままブロードの上に着地した。
「リーダーっ!!!山口君!!!」
倒れているブロードとその上で目を回す長瀬の背中に太一が華麗に着地し、呆然としている2人に近寄った。
その少し後ろで怖がりながらも華麗に着地した松岡も、よろめきながら走ってくる。
「生きてる!!?」
「山口君は怪我してるけど大丈夫そう。リーダーは逝きかけ?」
「生きとるがな!!!」
太一の言葉に思わずツッコむ。
「大丈夫。生きてる」
笑いながら、太一が手を差し出した。その後ろでは松岡が叫びながら山口を介抱している。
「立てる?」
「・・・・・・・そこまで衰えとらんよ」
嬉しそうに城島はその手をとった。
「何で自分らここにおるん?」
「それは後で。長瀬起こして早く出なきゃ」
松岡が山口の肩を支えて立ち上がり、太一がまだ目を回している長瀬の元に歩いていく。
「早く起きろっての!!」
長瀬の首筋を掴んで、ずるずる引き摺って戻ってきた。
「・・・・・・・・・う〜ん・・・・・・・・・・もう食べれない・・・・・・・・・・」
「何アホな事言ってんだ。起きろ」
太一が長瀬の頭をぶん殴る。ハッとした様子で長瀬は飛び起きた。
「長瀬がつぶした奴が起きる前にここから離れよう」
「出口は?」
「とりあえずあっち行ってみればいいんじゃない?」
「んな適当な・・・・・」
太一の発言にため息をつきながらも、松岡は山口を背負って、走り出す準備をしている。
「おわっ!!!長瀬っ危ないで下ろしてや!!!」
「大丈夫ですよ!落としませんから!!」
長瀬は城島を肩に担いですでに走り出していた。
「ぎゃああああああ!!!下ろしてぇ!!!!」
「大丈夫ですって!!!!」
「・・・・・・・・元気だな・・・・・・・」
ぼそり、山口が呟く。
「兄ぃ大丈夫なの?」
「足いてー・・・・・・・・・・」
「山口君、ちょっと走るよ」
「・・・・・・・・・・・何でお前らここにいるんだよ・・・・・・・・・・」
「それは後で」
そう言って2人は長瀬の後を追った。



が。




走っても走っても、辺りは黒一色。


「・・・・・・・・ねー、太一君。どこまで走るの?」
「んー。どっか」
「何よそれ!!!」
太一の答えに松岡が叫んだ。
「何か策があるかと思ってたけど、もしかしてないの!!!?」
「とりあえず離れようって言っただけじゃん、俺」
「〜〜〜〜!!!!」
開き直る太一に、松岡が絶句する。
「・・・・もうええよ」
城島がぽつり、言った。その言葉に太一が眉間にシワを寄せる。
「・・・・・・・・何でそういう事言うかな。せっかくここまで来たのに」
「今思い出してん、僕ら事故に遭うたんよ」
「知ってるよ。事故に遭ったって。全部聞いてる。このゲームをクリアすれば帰れるってこともね」
「なら置いてけよ。俺らを置いてけばお前らだけでも助かるだろ」
山口が苦しそうに言う。足を動かせないはずなのに、身を捩って松岡の背から降りようとする。
「ちょっと、兄ぃ!!!何してんの!!!」
「下ろせ。あの、何とかっていう嫌味な奴に言って、お前らだけでも元の世界に」
「帰らないつもり!?」
その行動に、太一が声を上げた。
「ここまで頑張ったの、誰のためだと思ってんだよ!!!2人がいないと意味ないんだよ!!」
「そ、そうだよ!!!俺たちだけ生き残ってどうすんのよ!!!」
「やっぱ5人揃っての俺たちじゃないっすか!」
長瀬が、笑顔でそう言った。
「って、あ!!!太一君、マボ!!と!!!」
「“と”?」
突然声を上げた長瀬に太一と松岡が振り返る。その視線の先には扉。
「「「出口!!!」」」
慌ててそちらに駆け寄った。
そこにはやはり扉。
「・・・・・怪しくない?」
「かなりね」
「でも行ってみるしかないっしょ!!」
長瀬の声に3人はニヤリ笑う。
「帰らないなんて言わせませんよ!!」
「嫌だって言っても無理やり連れて帰るからね!!!」
「さっき帰らないって言ったのは、戻ってからこってり絞ってやるんだから!!」
その言葉に城島と山口は顔を見合わせた。
そして。
「お手柔らかに頼むわ」
「程々にしたってや」
苦笑を浮かべた。
「よっしゃ!!帰るぞ!!!」
「「おぉ!!!」」









5人は扉を開いて、一目散に飛び込んだ。














←back   next→