前を歩く背中を追いかけて、その名前を呼んだ。
「たいちくんっ」
止まってくれない彼の横に走り追いつく。
「あれは何揉めてたんですか?ていうか城島くんですよね、これ」
「そうだよ」
彼がようやく足を止めたのは、普段でも人通りの少ないテラスだった。
「4曜前に出てって、帰ってきてない。相手は七大天使の1人だ」
「え・・・・・・もしかして死神・・・・・・」
「いや、違うけど、状況は変わんない」
彼は小さく息をついて床に視線を落とす。
「リーダーが暴走してた。今一瞬止まったみたいだけど。
それを止めにいくのも援護に行くのも認めないってあのヒトは言ってる」
「・・・・・・だから坂本君・・・・・・」
俯いて黙ってしまったその姿に、彼が声をかけようと口を開いた時、騒がしい足音がやってきた。
「2人ともこんなとこにいたし!!」
その声に顔を上げると、息を切らせた井ノ原が走り寄ってきていた。
「2人とも結界張るの得意でしょ!?」
「得意じゃないよ」
「得意じゃないです」
断定的な問いかけを即答で否定した2人に、井ノ原は顔を引き吊らせる。
「そこでハモらなくていいよ!!」
そして2人の腕をがしっと握り、ずるずる引っ張っていく。
「人手が足らないの!!このままだとここが吹っ飛んじゃうかもだから協力してよ!!」
「何かあったんすか?」
「稲垣君が見たって」
「何を」
太一の問いに一瞬井ノ原が言葉に詰まる。
「・・・・・・一曜後に天界地界の半分が吹っ飛ぶって」
「それは何で見たって?」
「水鏡」
「なら急ぐぞ。外れる確率が低い」
井ノ原の歩む早さを越えて彼は走り出した。
「太一君っどうしたんですかっ!?」
慌てて追いかけるように走り出して、その背中に声をかける。
「天界にいた頃は有名だったんだ、あいつの予知能力。夢、白昼夢、鏡、炎、水鏡の順に精度が上がってく」
井ノ原が先ん出て、行き先を示す。
「口寄せじゃなくて良かったよ」
「何で?」
「言葉による予知は、何をしても絶対に外せないからさ」
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どれだけ何をしても消えない。
頭を支配していた怒りが少しずつ治まってきて、攻撃の手は止めないまま、満足感を噛みしめる。
今までは明確な意志が無いままでも相対する全てが消えていたのに、目の前の天使は明確な意志を持ってしても消えない。
それどころか逆に追いつめてくる。
『楽しい』とはこういうことか
理解出来なかった言葉の意味に今ようやく思い当たった。
しかし、確かに楽しいとは思ったが。
攻撃を避けた瞬間、足から力が抜ける。
「・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・」
気持ちに身体がついていかない。
初めの暴走の分も含めて、体力は限界に近づいていた。
あぁ、ヤバいなぁ。
ふとそんな事を思ったとき、攻撃が止んだ。
「?」
「・・・・・・・・・キリねぇな・・・・・・・」
楽しいけど、と山口が息をつく。
「・・・・・・・・・限界だろ、アンタ・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・バカにしとんのか・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・体力無さそうだし・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・やかましいわ・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺も疲れた・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
小さくぼやきながら空を見上げた。
「・・・・・・・・・なぁ」
そして彼に視線を戻す。
「一発勝負で決めようぜ」
「・・・・・・・・・何するん・・・・・・・・・」
「俺は残りの力全部注ぎ込んでアンタにぶっ放す。アンタもそうすりゃあ、一発で勝負決まるだろ?」
生き残った方が勝ちだ。
そう言って口角を持ち上げた。
「・・・・・・・・・分かりやすすぎやろ、それ。単純なやっちゃ」
くつくつと咽喉を鳴らして笑いながら、彼は頭を上げた。
「えぇよ。受けて立ったるわ」
そして山口に手を向ける。
「・・・・・・・・最後に訊いといたる。名前は?」
「山口だ。アンタは?」
「城島や」
「恨みっこなしだぜ?」
「そっくりそのままお前に返したるわ」
互いに笑みを浮かべながら、それぞれに構えをとった。
集まりだした力に空間が軋み始める。
しかし2人は構わず続けた。
「絶対負けん!!」
「それはこっちの台詞!!」
そのやりとりを合図に、同時に力を解き放った。
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「城島君と山口君がね、全力でぶつかり合うんだよね」
どこか緊張感のない口調に、相変わらずだと太一は思った。
「まぁ、でもこうやって動き出したなら未来も変わってきてるだろうね」
「・・・・・・・ならいいや」
小さく息をついた太一に、彼は小さく笑った。
「・・・・・・・久しぶり?」
「うん。久しぶり」
疑問形の言葉に太一は笑う。
「君もいつか来るとは思ってたけど」
苦笑を浮かべながら彼は太一を見た。
「良かったね。命があって」
その言葉に太一は眉を寄せる。
「彼は死んでしまったからね」
「・・・・・・・・・・・・・・草薙君?」
「いや、剛は生きてる。ここにいるよ」
「え・・・・・・・あの時死んだって俺は聞いたけど・・・・・・・」
「俺もね、途中で逃げたから事の顛末は木村君に聞いただけだけどね。
・・・・・・・剛が暴走して、それを木村君が止めて、そのままこっちに連れて来たみたい。
火のエレメンツが今や七王に近いくらいの悪魔になっちゃって・・・・・・・」
彼は小さくため息をついた。
「稲垣君だって」
「俺は逃げただけだよ」
「もう羽根は黒いんでしょ」
「君は来たばかりだから仕方ないよ」
言外の意図を読みとって彼は苦笑する。
「いい加減終わればいいのにね。まぁ、俺は何もしてないけど」
そしてふと、頭を上げた。
「あぁ、来たよ」
その視線の先に目を向けると、見たことのある長髪の男がいた。
「全員話は聞いたな。今から障壁を張る。煉獄王と七大天使がぶつかるから気を抜くな」
通る声が響く。
一瞬でざわめきは消えた。
「ただ闇雲に張るだけじゃだめだ。力の強い奴が柱を造り、それに沿って他の奴が補強しろ。そうだな・・・・・・・」
男が周囲を見回して眉を寄せた。
「・・・・・・・坂本君いればいいのにねぇ」
「ホントだよ。どこ行ったんだか、あのヒト」
それを見て呟いた大野に、井ノ原が不満そうに声を上げる。
「いてほしい時にいないんだから。ホント役立たず」
「誰が役立たずだって?」
さらに文句を続けた井ノ原の真横で低い声がした。
「そんなの決まっ・・・・・・・」
その問いかけに答えながら勢いよく振り返って、井ノ原はそのまま固まった。
「あ、坂本君」
「何してんだ、これ」
固まったままの井ノ原を無視して坂本が訊く。
それに彼が淡々と答え、坂本は頷いて男に近付いた。
「木村君と坂本君がいるなら大丈夫だね」
話し合う2人の姿を見て、大野が呟く。
「井ノ原っ!!ウチの奴ら全員呼んでこい!!」
「了解!!」
坂本の言葉に井ノ原が逆方向に走り出した。
そして指示を出し始めた2人を見て、太一が小さくため息をつく。
指示を受け動き出した波に乗る前に、男と目が合った。
「・・・・・・・」
その視線に太一は急いで目を逸らす。
そして流れに沿って、逃げるように立ち去った。
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目の前に現れた上司に、彼は思わず息を飲む。
「どこに行っていた」
「散歩に行っていました」
まさか悪魔に会っていたなんて言えない。
いつもと変わらない受け答えを心掛けながら、彼は嘘をついた。
「・・・・・・・・・あまり出歩くな。それより、山口と煉獄王が戦っているのは知っているな」
「はい」
「これからここにも損害が出るほどの衝撃波が来る。ついて来い」
「・・・・・・・・・・何故そんなことが分かるんです?」
上司の命令に返答する前に、彼は訊いた。
その問いかけに、上司は面白くなさそうな様子で片方の眉を上げた。
「以前、未来を見ることの出来る者がいたんだ。それから力を預かった」
上司はそれだけ言い、歩き始める。
彼は納得いかないまま、それでもその後をついていった。
──── “預かった”なんて嘘だ
何となくそんな事を思った。
“未来を見ることの出来る者”を彼は知っていた。
知っているだけではなく、話したこともあった。
だから、その人物が力を預けることが有り得ないということも、何となく解っていた。
──── “預かった”ではなく“奪った”んだ
その人物がいなくなる前、そんな言葉を聞いたことがあった。
『とられちゃったよ』
苦笑混じりのその顔は、今でも忘れることは出来なかった。
何故なら、その言葉を最後に、その天使は堕天してしまったから。
その後に起きた事件がきっかけで、天界上層部は大きく変化した。
彼は、それに関しては蚊帳の外の存在ではあったが、後から聞いた情報を元に考えれば、
それは明らかに仕組まれたようなイメージが強い事件ではあった。
その時、上司が振り返った。
「山口と煉獄王は相討ちする。衝撃波が収まったら、地界側が回収に来る前に止めを刺してこい」
嫌だと思うのに、身体は意思に反して勝手に反応する。
このヒトの、この眼が、嫌いだ。
「・・・・・・・・はい」
頭の中が霞がかったようにぼんやりし始めた。
命令以外の『余計なこと』が考えられなくなる。
心の中で、自分を造り上げてきた全てに対する不信感は強まっていくのに、未だそれに逆らえない。
──── 嫌だなぁ
そう思っても、決定権は彼には無かった。
──── 助けてよ、坂本君
伝えたい言葉は音になる前に、闇の底に沈んでいった。
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全員が配置についた。
どこからか情報が流れてきて、衝突はもうすぐなのだと悟った。
坂本の配慮ゆえか、太一は最前線に立っていた。
爆発が収まると同時に助けに行け。
井ノ原からこっそりと耳打ちされたのは、坂本からの伝言だった。
「太一君、迎えに行くんですか?」
太一の横で座っていた大野が、伺うような目線で見上げてくる。
「行くよ」
「怖くないんですか?」
太一の言葉に、大野はそう訊いた。
「・・・・・・・・・・俺は、怖いです」
ぼんやりとした視線のまま、正面をじっと見据えて、口を開く。
「不安なんです。俺の周りから、だんだんヒトがいなくなってく。翔君だって、この間死神と戦って死にかけて帰ってきた!
俺の、部下だって、今までにどれだけ入れ替わったか判んない!!あの時も、俺は、アイツでさえ、助けてやれなかった!!!」
「大野!」
悲鳴のように上がった声に、太一はガマンできず遮った。
「もういいよ。それ以上言うな。・・・・・・・・今は目の前のことだけを考えろよ」
それ以上聞いていられなかった。
誰も彼も、いろんなものを失くしてる。
でも、今目の前にあるものだけは、失くしたくなかった。
突然、空間が歪むように、耳鳴りがした。
「来るぞ」
太一が小さく呟くと、横で大野が気だるそうに立ち上がる。
「・・・・・・太一君は、絶対に助けて帰ってきてください」
小さな小さなその願いに、太一は頷いた。
「分かった」
「約束ですよ」
「総員配置につけ!!!!」
指揮官の声が響いたと同時に、正面の地平線が閃いた。
瞬間、全力をもってシールドを展開させる。
そして、今だかつて対峙したことのない程の衝撃に襲われた。
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※素地図出てますが、別人になってしまっています。注意※
押さえてくる力が弱くなって、太一は一足早くシールドを解除した。
「代わります」
「頼んだ」
大野の言葉に短く返し、太一は爆心地に向かって飛び出す。
辺り一面荒野になっていて、ところどころ生えていたはずの木もなくなってしまっていた。
ダメかもしれない
そんなことを考えてしまった自分に怒りを覚えつつも、その考えを捨てることが出来ない。
不安で仕方なくて、太一は翼を大きく羽ばたかせ、より一層速度を上げた。
シールドを解いた後には安堵感が漂っていた。
稲垣は周囲を見渡して、先に見ていた光景との違いに息をつく。
「外れた?」
「喜ばしいことさ」
背後からかけられた声に、振り返りもせずに言葉を返した。
「お疲れさん」
「もう後悔はしたくないからね」
横に立った男の顔を見てそう笑う。
その瞬間、稲垣が突然ふらついた。
「吾郎!?」
木村が慌ててそれを抱き止めると、額を押さえてうめくように声を上げる。
「おいっ!!どうしたんだよ!?」
「・・・・・・・・・そんな・・・・・・・・・太一が・・・・・・・・・?」
「あ?太一?」
「・・・・・・・・・太一は!!?太一はどこにいる!?」
木村に掴みかかるように稲垣が問いかける。
「知らねぇよ」
「このままじゃ太一も城島君も死んじゃうんだ!!」
「ほっときゃいいだろ」
木村の冷めた言葉に、稲垣は掴んでいた手を離した。
「変わったね、木村君」
「・・・・・・・・・は・・・・・・・・・?」
「昔の君だったらそんなこと言わなかった」
立ち上がり、木村から一歩距離を取る。
「太一が天使だったから?それともアレに関わってたから?」
最後の言葉に、木村が眉をしかめた。
「君が天使を憎んでる気持ちも原因も、俺は理解してるつもりだよ。
でも、それとこれとは別でしょう?助けられる命を見捨てるつもりなら、木村君が憎んでるヒトたちと何も変わらないよね」
「・・・・・・・・・!!」
「俺は、見捨てないよ。今俺が存在している場所で、失われて悲しむヒトがいるなら、その命を助ける。それが俺の決意だから」
それだけを言い切って、稲垣は背を向けた。
足早にその場を去る。
何も言えずに残された木村は、苦虫を噛んだような表情を浮かべ、その背中を見送った。
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濛々と舞っていた砂埃が治まってきて、次第に光にやられていた視界もはっきりと像を結び始めた。
霞む視線の先、微かに人影が見える。
その姿が、自分と同じく立っているという事に気付いて、何故かホッと息をついた。
同時に足に力が入らなくて、勢いよく地面に膝を着き、そのまま倒れこんだ。
音が遠くに聞こえる耳に届いたのは、自分が地面にぶつかる音と、もう一つ同じような音だった。
「・・・・・・・・・・・・・・生き、てんの・・・・?」
予想以上にはっきりと出た声に自分自身で驚きながらも、視界の隅に引っ掛かっている影に声をかけた。
「・・・・・・・・・死ねるか・・・・・・・・・部下に怒られるゆーたやろ・・・・・・・・」
影が僅かに動いて、相も変わらず皮肉を投げかけてくる。
「・・・・・・くっく・・・・・死んだら喋れもしねーのに、怒られっかよ・・・・・」
身体を揺らすと激痛が走ったが、こぼれる笑いを抑えることが出来なくて、痛いと思いながらも笑って言い返す。
「・・・・・アホか・・・・・・・審判に呼ばれたら生きとる死んどる関わらず接触取れるんやで、悪魔は・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・は・・・・・・・・・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・何が『は』じゃ・・・・・・・・・・・・・こっちが生きもんの死後を管理しとるん知らんのかいな・・・・・・・・・・・・・」
山口が上げた、間の抜けた声に、城島は不愉快そうな視線だけをそちらに向けた。
ほとんど身体は動かせる状態ではなかったから。
「・・・・・・・・・そんなん知らねーよ・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・んなアホな・・・・・・・・・・・・そうやって死を管理しとるから、僕らんこと悪魔呼び始めたんやないんかい・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・悪者だから殲滅しろって言われただけ・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・なんやねん・・・・・・・・・・・・それ・・・・・・・・・・・・・・・・」
溜息をつくように、城島はそう呟いて沈黙した。
話が違う。
山口は、はっきりとそう思った。
聞いていたのは、悪魔が行った悪行の数々。
戦争が始まった理由は、それを辞めさせるためと聞いていた。
全ての生き物が不幸になるのは悪魔のせい。
悪魔を殲滅させるために、創主は天使を御創りになった。
それが真実だと思って、今まで戦ってきたのに。
「・・・・・・・・・・・・・ありえねぇ・・・・・・・・・・・・」
唯一動く腕を持ち上げて、刺すように降ってくる太陽の光を遮る。
訳が解らないと小さく呟くと同時に、足元に影が出来た。
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「マシな方か」
目の前の光景を眺めて、坂本は小さく呟いた。
雷霆王の治める土地のため、元々荒野ではあったのだけれど。
それでも岩石や少ないながらも木々が根付いていた景色は、一瞬で真っ更な土地に変わってしまっていた。
「・・・・・・・・・無事だと良いけどな」
そう息をついた時、後ろから走る足音が聞こえた。
何となしに振り返ると、足音の主は稲垣だった。
「坂本君!」
「どうした?」
「もし出来るなら今すぐ太一を追いかけてほしいんだ」
「は?何で?」
深刻な口調に眉を寄せつつ問い返すと、稲垣は視線を落とした。
「・・・・・・・・・先が視えたんだ。このままだと太一も城島君も死んでしまうし、判らないと思うけど、長野君も消えてしま」
「長野?もしかして長野博か!?何でアイツが消えるんだ!!!?」
「え?・・・・・・・・・何で長野君のこと・・・・・・・・・」
「そんなことどうでもいいんだよ!何でアイツが消えるんだ!!」
鬼気迫る坂本の様子に、稲垣は目を白黒させる。
「何でだよ!!」
「・・・・・・・・・そ、そこまでは判らないんだ。でも長野君は無理にあんな事させられてて・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・剛もそうだった。強いられて、あんな事・・・・・・・・・!」
滅多に声を荒げない稲垣が語尾を強めた。
「あんな・・・・・・・・・無理矢理やらせるから、精神に負担がかなりかかるんだ・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・あの酷い実験のせいで森君はいなくなってしまったし、剛だって目を覚まさない!
あの時と同じなんだ!!このままじゃ長野君も・・・・・・・・・!!」
「おいっ!」
ヒステリーを起こしかけていた稲垣の肩に勢いよく手を置いて、坂本は呼び掛けた。
「ここに来る前に、お前に何があったかは知らねぇ。でもこのままだと不味いってのは解った。
俺が介入すればその未来は変わるのか?」
そして、稲垣の目を見据えてそう訊いた。
「変わるんだな?」
「・・・・・・・・・ど・・・・・・・・・どう変わるかは解らないけど・・・・・・・・・」
「解った」
言うが早いか、坂本は肯定の言葉が耳に届いた瞬間には、すでに窓から身を乗り出して翼を広げていた。
「・・・・・・・・・っ絶対に、長野君に殺させないで!」
飛んでいくその背中に向かって、稲垣は声を張り上げる。
だんだんと小さくなる姿を、見えなくなるまで見送って、胸の前で手を組んだ。
「・・・・・・・・・間に合ってくれ・・・・・・・・・」
------------------------------------
足元にできた影は山口に目もくれず、城島の傍に歩み寄って、その姿を見下ろした。
「散々だね、嘘つき」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・約束は守った、やろ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「今は、でしょ」
悲惨なまでの様子なのに笑みを浮かべた城島に、太一は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「・・・・・・・・・努力はしたで・・・・・・・・・?」
「してないクセに」
城島の弁明を一言で切り捨てて、太一は傍らにしゃがみ込む。
「俺、アンタを持ち上げらんないから、自分で歩いて」
「・・・・・・・・・僕より先にあっちやったって・・・・・・・・・」
その言葉とともに指し示された方向を、太一は勢いよく振り返った。
そして瞬間的に怒りで顔が赤く染まる。
「・・・・・・・・・っ何で!!何で俺が天使を助けなきゃなんないんだよ!!!」
太一は吊り目がちの目をさらに吊り上げて激しく怒りを吐き出した。
「天使なんて助ける必要ないだろ!!」
「・・・・・・・・・・・・命令な。やれ」
「っ!!」
ハッキリとした口調で、トーンも低く、城島は言い切る。
その視線を受けて、太一は言いかけた言葉を飲み込んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・仰せのままに」
命令に対する肯定の言葉を、しかし不満をあからさまに表した口調で城島に返し、立ち上がって山口の傍に歩み寄る。
そして無言のまま、治療を開始した。
「・・・・・・・・・何のつもりだよ」
いぶかしいな表情を浮かべながら、山口は城島に問いかける。
しかし身体が動かないため、治療を拒否することはできずにいた。
「ははっ、残念やったな。借し作っといたるわ」
ケラケラと笑い声が聞こえる。
掠れ気味だった声は、もうすでに元の調子に戻りつつあった。
「ふっざけんな、要らねぇよそんなもん」
「いやいや、もう受け取ったやろ?」
「卑怯だっ」
「1回だけやんか〜。僕の部下が来たら1回だけ見逃したって」
その言葉に、太一がちらりと城島を振り返る。
「・・・・・・・・・もう嫌やねん、しょーじきな話。戦う意味無いやんか」
ため息混じりの声。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・だったら、何でアンタは戦ってたんだよ。嫌ならやらなきゃいいのに」
返ってくるだろう答えは予想しつつ、ため息混じりに言葉を返した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・やって、戦わんかったら大事なもん、壊されてまうやんか」
先にも言うたような気ぃするけどな。
言いながら、城島は再度息をつく。
「・・・・・・・太一ぃ」
その言葉と同時に、太一は山口の治療を止めた。
「何」
「寝るわー・・・・・・・・・・・」
「ダメ。自分で歩け」
「えー・・・・・・・・・・・・」
治療の甲斐があってか、辛うじて起き上がれるまでには回復していた。
山口は何とか上体を起こすと、すぐさま離れていってしまった太一を目で追いかける。
どっかで見たことがある気がする
そう思いながら、悪魔2人のやり取りを眺めていた。
そんな時だった。
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B A C K / N E X T
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