「・・・・・・・・・何があったん?」
ちょっと目を放した隙にとても仲良くなっていた自分の部下と半同居人の様子に、城島はそう呟いた。










「それはひどいよ!!何、リーダーそんなことしたの!?」
「ヒドイだろ!?俺、何でこの人の部下になったんだろうって本気で悩んだって!!」
「そんなことって何やねん・・・・・・・」
目の前で繰り広げられる愚痴&慰め大会のテーマはどうやら自分であることは理解できた。
しかし“そんなこと”とはどんなことだろう。
「・・・・・・・心当たりありすぎて分からんわ・・・・・・・・」
「・・・・・・・そっちかよ」
傍で同じく話を聞いていた山口がツッコミを入れた。
「眞王も眞王でさ・・・」
「うんうん」
だんだんとテーマが城島の上司に移っていく。
松岡は話を聞きながらもしっかり治療は行っていた。
「マボって器用ですね」
「せやねぇ」
「料理も美味いし。いい奴捕まえたよなー」
バリバリと煎餅を頬張りながら長瀬が呟く。その横にはほのぼのとお茶をすする天使と悪魔。
「そういえば太一君ってどうするんですか?」
「あ?決まってんじゃん。お前の部屋よこせ」
長瀬の疑問に太一が尊大に答える。
「えぇぇぇぇぇええええ!!!?俺どこで寝ればいいんすか!!?」
「床」
「えぇぇぇぇぇえええ!!!?風邪ひくじゃないっすか!!!!」
その答えに長瀬が叫んだ。
「そこツッコむのかよ」
「太一がここに住むのは異存ないんやね」
「みんなここに住むんだねー」
治療を終えた松岡が小さく呟く。
「松岡も来るか?」
その呟きを受けたかどうかは分からないが、城島が訊いた。
「は?何言ってんの。今来てるじゃん」
「ちゃうちゃう。太一も来たし、長瀬が床で寝るならまだ部屋余っとるし、ここに住まんかな思て」
「それいいっすね!!お腹空いたらいつでもマボ飯食えるし!!」
城島の提案に長瀬が乗ってくる。
自分の部屋がなくなるかもしれない可能性には気付いていないようだ。
「え・・・」
「何、アンタの飯美味いの?」
「美味いっすよ!!天界のご飯より美味しいですもん!!」
「ならいてよ。俺リーダーの作るのはヤダ」
「何でや!!」
「美味しいけど、作ってる過程が謎だもん。何入ってるか判んないし」
「いつでも飯食えるのは魅力的だなぁ」
当事者の松岡を無視して話が進んでいく。
「ちょ・・・・俺の意見は無視かよ!!
 俺は居候は嫌だぜ!!俺は自活してくって親父とお袋に誓ったんだから!!」
硬直から復帰した松岡の言葉に4人は黙った。
「・・・・・・・・両親いないんすか?」
「・・・・・・・5年前に死んだ」
「・・・・・・ごめんなさい・・・・・・・・」
その台詞に長瀬がシュンとなる。
「・・・・そのご両親が亡くなられた時に、松岡はそう誓ったん?」
「そーだよ。自力で大学卒業して、自立するって決めたから、居候になるのは嫌だ」
松岡の真剣な口調に城島は少し考え込んだ後、こう言った。
「なら、僕がこの家の余った部屋を下宿先として提供するんはどうや?」
「は・・・?」
「余った部屋に君が来る。君はその部屋代を僕に払う。後は今までと変わらん。
食費は作ってもらう分、僕が全部出すし、光熱費も要らんわ。どうせ今のアパートも基本料金以外は払っとらんのやろ?」
「まぁ、そうだけど・・・」
「勿体無いやん。そういう条件でどうや?」
このやりとりを見ていた山口が、不意に小さく笑った。
「・・・・・何でそんなに同居にこだわる訳?」
「楽しいやん。大勢の方が」
そう言って、やんわり笑う城島。
松岡は俯く。
「・・・・・・・家賃」
「おん?」
「家賃いくら!?それだけ言うからには安いんだろーね!!」
どうにでもなれ、というように松岡が言った。
その言葉に長瀬の顔が明るくなり、太一が苦笑混じりにため息をついた。
「今のトコの半額でどうや」
「よし、のった!!」
意地とお金を天秤にかけた結果、後者が勝ったようだ。
「やったー!!マボいらっしゃいー!!」
長瀬が嬉しさ全開で松岡に飛びつく。
それに便乗して山口もタックルをかましていた。

「どーしたん?えらい素直に了承したやん」
「何が?」
ギャンギャン騒ぐ3人を笑って見ながら城島が太一に話しかける。
気まずそうに顔を背けて、突っ慳貪に太一は答えた。
「ここに住むの。天使は嫌やったんやないの?」
「松岡から聞いたけど、アンタほっとくとどうなるか分かんないし。
 天使は嫌だけど、俺が嫌いな奴等とは違うみたいだから。お試し期間」
アウトだったら坂本くんに雇ってもらうから。
そう言って背を向ける。
「・・・・・・・大人になったなぁ」
しみじみと城島が呟いた。
「何言ってんのさ!!俺はいつでも大人だろ!!」
そして、照れ隠しに放った太一の魔法で、リビングの一部が吹っ飛んだ。
























何だかんだで、人間と天使と悪魔が人間界の片隅で、一つ屋根の下で暮らし始めた。

超マイペースな天使と悪魔に振り回される日々が始まり、同居を了承したことを松岡が後悔するのは、数日後の話。






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2006/3/15



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