響いた足音に振り返る。
「・・・・・・・ビックリした」
「久しぶり」
振り返った先には穏やかな、見慣れた笑顔。
「久しぶりだね、シゲ」
「ここも大して変わらへんねぇ」
「『不変』だからね」
そう言って、彼は苦笑する。
「それ、山口はどう思っとるん?」
傍にあったイスに腰掛けながら城島は訊いた。
「俺は『傍観』だから意見はしないよ」
「宿命云々、全部とっぱらったら?」
「・・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・正直なところ・・・・・・クソくらえだね」
「そうか」
その答えに彼は笑った。
「・・・・・・・どうするつもり?」
「もう限界やろ。お前も太一も松岡も、長瀬自身も」
「・・・・・・・」
返答は無言で、彼も言葉なく立ち上がった。
「・・・・・・・長瀬は、壊れてきてる・・・・・・・・・・」
ぽつりと山口の呟きが漏れる。
「僕は壊すしか出来へんよ」
「俺は動けない」
「・・・・それが性情だからなぁ」
彼は小さく笑った。
「何かあったらフォローしてや」
「・・・・・・・何で今なんだよ」
絞り出すような声。
その視線から、切実な想いが伝わってくる。
「前にも機会はあったはずだし、まだ、動かなくてもいいだろ!?」
「確かに、前にも機会はあった。でももう放置は出来へん。このまま崩れたら、戻らんようなる」
彼は戸に手をかけて、山口を振り返った。
「僕は何もかも失ったとしても、絆だけは失いたくないんよ」
そう微笑んで、城島は扉を閉めた。



















「太一君は・・・・・・・」
「何だよ?」
誰もいない、人気のない廊下で、2人は座り込んでいた。
当てもなくウロウロしたものの、いたはずの城島も、長瀬のいる部屋へ続く道も見つからない。
そこで、松岡がぽつり、口を開いた。
「長瀬が嫌い?」
唐突な質問に、太一は返答に詰まる。
「・・・・・・・何で?」
「や、来なかったからさ。あそこに」
松岡はもたれ掛かっている壁に頭を預けて言った。
「・・・・・・・嫌いじゃない。でも不変は認めない」
「それはアイツの性情でしょ?」
「こんな不変は不自然だ!!」
声を荒げた太一に、松岡は寂しそうに俯いた。
「・・・・・・・太一君は、この絆は要らない?俺は・・・・・・・5人でいたいと思う俺は不自然?」
「・・・・・・・っ!!何でだよっ!!何でお前もそんなこと言うんだよっ!!」
太一は泣きそうな声で、たまらない、と言う顔で、叫びを上げる。
「俺はそれが、一緒にいたいと思うことが不自然って言いたい訳じゃない!!俺だって一緒にいたい!!
 どうしてこの5人だったのかなんて判んないけど、でも此処が俺の居場所だから、ずっと一緒に居たいさ!!
 でも、おかしいって思わないか!? 何度も死んで生まれて、生まれる度に魂は同じでも前とは違うはずだろ?
 時間とともに人も自然も世界も全部変わっていくのに、どうして俺達は変われないんだ!!?」












『約束しましょう。貴方達5人に。永遠の絆を』












「・・・!!」
不意に頭に響いた誰かの声。
懐かしく、憎らしい、永遠を約束してくれた ──────────

「太一君!?」
頭を押さえ俯いた太一に松岡が慌てて駆け寄った。
「大丈夫!!?」
「・・・・・・・・・・・・松岡は・・・・・・何を覚えてる?」
太一はゆっくりと頭を上げる。
「何、を?」
「昔を。俺が覚えてるのは、不変に嫌悪を感じ始めた頃からと、誰か知らないヤツの声だけなんだ」
松岡は逡巡して、躊躇いながらも口を開いた。
「俺が覚えてるのは、泣き叫ぶ智也と、地面に突き立った木の棒か何かの前で1人泣いてる兄ぃと、
 女の人なのか男なのか判らない、誰かの声だけだよ」
「最後の声は、何って言ってる?」
「『つらかったでしょう?しばらく眠りなさい。次に目を覚ましたときには、皆一緒だから。
 約束しましょう。貴方達5人に。永遠の絆を。今度こそ、けして離れてしまわないように』」
それは、ついさっき頭に響いたのと同じフレーズ。
「・・・・・・・・何で俺らはこんなふうに縛られてるんだろう・・・・・・・・・・・・・」




ただ、一緒にいられれば良かったのに




確かに、あんな別れ方、つらくて仕方なかったけれど、




こんなふうに生を繰り返したかったわけじゃなかったんだ








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