風は放浪。
地は傍観。
火は不従。
水は従属。
樹は不変。
宿命は性情。
彼らはそれに流される。
「・・・・・・・・・茂君?」
「おん、僕」
彼はにっこり微笑んだ。
「何でいるの?ここに来ちゃダメなのよ?」
イスに座っていた青年は困ったように立ち上がった。
「じゃあ何で自分はおるん?」
「え・・・・・・・俺、は・・・・・・・」
「おいで」
彼の逡巡を一蹴するように手を差し出す。
「一緒においで。会わせたい奴がおるんよ」
その言葉と同時に、頭をある映像が過ぎった。
「・・・・・・・」
けれども彼は、少しだけ迷った後、差し出された手を取った。
薄暗い部屋。
窓から僅かに入る日差しだけが部屋の中を照らしている。
床は畳張りで、部屋の作りはここだけ和風だ。
その奥にいるのは青年。
着物を緩く纏い、布団の敷かれた部屋の隅でうずくまっていた。
「長瀬」
彼は青年の名を呼んだ。
「・・・・・・・山口君」
虚ろな目で青年は彼を見上げる。
「どうした?」
彼は膝をついて青年と視線を合わせた。
「・・・・・・・太一君が来てくれないんです・・・・・・・・・」
「・・・・・・・忙しいんだよ、あいつも」
「何で?何度も呼んでるのに!!」
青年がヒステリーを起こして叫ぶ。
「何回呼んでも来てくれない、ろくに話もしてくれない!!どうして!?どうしてなんすか!!」
青年は畳に額をつけてうずくまった。
「・・・・・・・ヒドイ・・・・・・・ヒドイ・・・・・・・皆おれを置いてくんだ・・・・・・・太一君も茂君もマボも・・・・・・・」
「長瀬・・・・・・・」
「ぐっさんは!!達也君はおれを置いてかないよね!!俺を見捨てませんよね!?」
縋りつくように長瀬は山口の服を握りしめる。
「・・・・・・・もう寝ろ。身体に障る」
そう言って、彼は長瀬の頭を撫でた。
「・・・・・・・うん・・・・・・・」
山口の言葉と行動に青年は安心したような笑顔を浮かべる。
「おやすみ、長瀬」
青年が眠りに落ちるのを待って、彼は部屋を出た。
突然、部屋の戸がノックされた。
「・・・・・・・誰だ」
誰だ、と言ってもここにいるのは俺を含めて4人しかいないから予想はつくんだけれど。
『・・・・・・・その声・・・・・・・太一君!?』
けれど、扉の向こうから聞こえた声はその人じゃなかった。
勢いよく扉が開く。
その向こうには長身の男。
「・・・・・・・松岡・・・・・・・?」
「太一君!!」
松岡は走って部屋に入ってくる。
「太一君!!いたんだ!!」
「松岡?ホントに松岡!?」
「そうだよ!!俺に決まってるでしょ!!」
「また生まれてきてないんだとばっかり・・・・・・・」
「ヒドイよ、太一君!!」
俺の言葉に松岡は笑った。
「奥にいたんだ、長瀬の傍に。ずっと」
「知らなかった・・・・・・・」
「・・・・・・・来なかったもんね、太一君」
その顔には苦笑いが浮かんでいた。
「奥にいた、って、じゃあ何でここにいんの?」
「・・・・・・・茂君、が、・・・・・・・つれてきてくれたのよ」
「茂君?」
「そう。何にも言わないで、一緒に来いって」
松岡は肩を竦める。
「その茂君は?」
「あ、どうしたんだろ・・・・・・・・・・」
振り返った先には何もない。
そこに人がいた形跡なんて、微かにも残ってはいなかった。
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