光になって消えていく太一を抱きしめて、長瀬が泣いていた。
此処に来て、初めての涙かもしれない。
やっと、見つけた。
「智也」
声をかける。
泣いて、目を腫らした顔で振り返ったのは、小さな子ども。
「・・・・・・いくか?」
そう訊くと、智也は小さく首を振る。
「・・・・・・・・・・大丈夫だ。太一が待ってる。早くしないと、置いてかれるぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・達也君は?」
「俺もすぐいく。此処の片づけしなきゃなんないから」
茂君に頼まれてるんだ。
智也は、俺の顔を不安げに見た。
「・・・・・・・・・・・・・太一君、怒ってない?」
「怒ってないよ。もし怒ってたら、一緒に怒られてやるよ」
「・・・・・・・・・・茂君も帰ってくる?」
「太一と一緒にお前を待ってるよ」
「・・・・・・・・・・・・・・マボは?またご飯作ってくれるかな・・・・・・・?」
「あぁ、作ってくれるさ。また、5人で、昌宏の飯を食べよう」
「・・・・・・・・・・・・・うん・・・・・・・・・・・・・・」
返事と同時に、智也の身体が淡く光り始めた。
輪郭がぼやけ、だんだんと光の粒が空気に拡散していく。
「一人でいけるか?」
「うん」
「俺もすぐいくよ」
「・・・・・・・・・・ぐっさん、今までありがとう」
長瀬が、笑った。
「もう、いいだろ?」
俺の言葉を皮切りに、周囲の景色が真っ黒に変わる。
何も無い、果ての無い、無限に広がる黒い世界。
『ごめんなさい』
何処からともなく響く声。
『苦しめるつもりは無かった。何の罪も無いのに殺されていく貴方達を、幸せにしてあげたかった。
でも、結局、貴方達の願いを、私は歪めてしまったね。・・・・・・・・・・・・・・・・・・重荷だったでしょう?』
それは初めて死んだ時に聞いた誰かの声。
「腹は立ってた。黙って、眠らせてくれればよかったのにって」
結局、そのせいで歪んでしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも、感謝もしてる」
もう一度会えた事。
これが無かったら、もう一度生まれてきても、会えなかったかもしれない。
絆は弱いままだったかもしれない。
「これだけ因縁があれば、アナタの力を借りなくても、また出会えるでしょ」
『・・・・・・・・・必ず』
その返答に、意識せず、笑みが浮かんだ。
「・・・・・・・・・・多分、アナタが力をくれたから、憎しみを溜め込まずに今までこれたんだと思う」
大勢の人間の命を奪った事は許されない。
だから、何も出来なかった事は、その事に対する罰。
でも、それが無かったら、俺が狂ってた。
身体が光を発し始める。
光は空気に溶けていって、指の先からだんだんと透けていく。
これでやっと全部終わる
縛り付けられる痛みも
何も出来ない苦しみも
間違った憎しみも
従えない事への心苦しさも
置いていかれる寂しさも
全部終わって、やっと新しい生が始まるんだ
『もう、貴方達を縛るものはないから』
全ての糸が切れていく。
残るのは、たった1本の、頼りなくも決して切れない絆だけ。
『幸せに、なって』
誰もいなくなった闇に訪れたのは、永い間待ち望んだ、終末
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