「未来から来たって、今日はエイプリルフールでも何でもないぞ!?」
後輩の声が聞こえた。
頭を上げると、俺を負ぶっていたヤマグチ君が足を止めた。
「都合の悪いところはないか?」
少し振り返ったその顔は困惑が浮かんでいた。
「あ?ちげーな・・・・・・・・・何だっけ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「?」
「・・・・・・・・・ダメだ・・・・・・・・・さっきので言語データが一部イカレちまったか・・・・・・・・・」
小さなため息が耳に届く。
言葉は理解できるのに、言ってる意味がよく分からない。
「首以外には?」
「・・・・・・・・・何ともない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・無事って事か?」
それに対して頷くと、再び歩きだした。
「ナガセ。連れてきたぞ」
その声に、口論をしていた2人がこっちを向く。
「タイチ君!よかった!」
「あんまり無事じゃねーかも。ちょっと間に合わなかった」
「タイチ君!?どうしたの!?」
マツオカが顔色を変えて走ってきた。
「首、見てやって」
ヤマグチ君は俺を降ろしてマツオカに引き渡す。
そして自分はナガセの方に歩いていった。
「・・・・・・・・・首?・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?どうしたのこれ!!」
俯く俺の首を覗き込んで、マツオカは声を上げた。
「・・・・・・・・・絞められた」
「しっ・・・・・・・・・!?誰に!?何で・・・・・・・・・」
鬱血しているだろう首に手をやる。
咽喉はまだ痛みが残っていた。
「シゲル君は?」
「とりあえずまいてきたけど、すぐ来ると思う」
ナガセとヤマグチ君のやりとりが聞こえる。
「2人とも、とりあえずついてきてほしい」
そしてヤマグチ君は俺達を見た。
「日付変更まであと4時間ある。道すがら事情は説明するから、とにかくここから離れないと」
その言葉にマツオカが眉間にシワを寄せて困った顔をする。
「行こう」
歩きだした2人の背中を見ていると、マツオカが手を出してきた。
「歩ける?」
「大丈夫」
とりあえず感謝の意だけは伝え、手は借りなかった。
早足の2人の後ろを歩きながら、俺は必死に頭の中を整理していた。
だって、信じられない。
シゲル君に殺されかけるなんて。
Cry for the Moon
─ hinter ─
さきざきも、申さむとおもひしかども、『かならず心まどはし給はん物ぞ』とおもひて、いままで過ごし侍りつるなり。
『さのみや』はとて、うちいで侍〈り〉ぬるぞ、己が身は、この国の人にもあらず。月の都人なり。
それをなむ、むかしのちぎりありけるによりてなむ、この世界にはまうできたりける。
いまは、かへるべきほどになりにければ、十五日にかのもとの国より、むかへに人々まうで来むとす。
さらにまかりぬべければ、おぼしなげかむがかなしき事を、この春よりおもひなげき侍るなり
マツオカの話によると、どうやら俺がこの人を見付けたのは、ナガセと同時期だったようだ。
何で家に連れてこようと思ったのかは今でも判らない。
本当に『何となく』そんな行動を起こしていた。
話を聞いてみると、いわゆる記憶喪失のようだった。
初めの内はなかなか話が通じなくて、よくイライラしたものだ。
でもだんだんと状況が掴めてきたのか少ししたらそんなこともなくなった。
行く場所がないと言うから、家にいれば良いと言うと、ありがとうと笑った。
その日からずっと家にいる。
どこにも行かないで、ずっと家にいて。
窓の外をぼんやりと眺めているだけ。
ただ、定時になると食事の準備を始める。
けれど買い物になんて出ないから、冷蔵庫の中にあるものを使ってた。
さすがに冷蔵庫の中身が空っぽだった時には冷蔵庫の扉を開けて固まってたけど。
シゲル君が作ってくれた料理は美味しかった。
どうかと訊いてくるから、美味しいといえば、嬉しそうに笑った。
でも料理しているところは見なかった。
一度見た事があったけど、危なっかしくて見ていられなかったから。
でもこの1年、家で誰かが待っていてくれると思うと嬉しかった。
得体の知れないヒトではあったけれど、それでも俺は幸せだと思えたんだ。
「・・・・・・未来から来た、ロボット?」
「そう。俺達を作ったのはアンタ達だ」
「・・・・・・もしかしてシゲル君も?」
「はい。シゲル君が一番初めです。タイチ君とマボが共同してシゲル君を造りました」
「世界初の人型ロボットさ。それから運動性の向上を目的として、タイチが俺を、マツオカがナガセを造った。
シゲの用途は情報処理がメインだったから、もっと人間らしい動きを再現するためにな。
俺達が出来てからシゲにもフィードバックされてるから、あのヒトも今はスムーズに動けるけど・・・・・・」
表情を固めたまま黙っている俺たちの様子を見て、ヤマグチ君は喋るのをやめた。
「・・・・・・・・・・うっそだぁ。俺とタイチ君がそんなすごいことできるわけないじゃん」
「じゃなかったら俺もぐっさんもシゲル君も今ここに存在してないんですけど・・・・・・・・・・・」
「ま、可能性の一つだよ。将来的に、アンタらが俺らを造るっていう可能性があるんだよ」
ヤマグチ君がそう笑う。
その動きはまるでロボットだなんて想像できない。
人間そのものだ。
「マボが義体の第一人者で、タイチ君がプログラミングの第一人者だったんです」
「・・・・・・・・・・・俺が?」
「はい!俺もぐっさんもシゲル君も、人格プログラムはみんなタイチ君が造ったんですよ!」
嬉しそうに言ったナガセに、俺は言葉を失った。
そしてマツオカの視線も感じた。
2人の話が真実だとして、何で俺はあんな性格にしたんだろうか。
「で、本題に入るけど」
悩んでいるとヤマグチ君がそう遮った。
「俺たちがこの時代に来た理由は2人が殺されるのを防ぐため。そうしないと俺らの存在が消えるからね」
「というか、これ以上、シゲル君にあんなことさせたくなかったんです・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・あんなことって、何したの・・・・・・・・・」
悲しそうな顔をして、俯いたナガセにマツオカが訊いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・シゲル君は、未来のタイチ君とマボを殺したんです」
人型のロボットを造ることに力を注いでいた2つのグループがあった。
2グループの開発進度は常に拮抗していて、どちらが先に発表するか競っていた。
そして、ついに片方が完成させた。
それはもう一方のグループが完成させようとしていたものとは完成度が全く異なっていた。
誰がどう見ても人間。
問いかけに対する受け答えも、その仕草も、表情も、人間そのものだった。
完成させたグループは多大な賞賛を受けた。
それまでの友好関係が変わってしまうくらい。
2つのグループはライバルとして、互いに支えあって研究をしていたはずなのに、
完成させられなかった方のグループは、完成させた方を妬み始めた。
そして、最高の仕返しを思いついた。
それを実行するために、彼らは世界初の人型ロボットにこっそりと、あるプログラムを組み込んだ。
ちょうど、3体に増えた人型ロボットの内の1体の誕生日の事だった。
ロボットは、組み込まれたプログラムに従って、製作者をその手にかけた。
「・・・・・・・・そんな・・・・・・・・・・・」
「話には続きがある。そのプログラムはウィルスも組み込まれてた。
それは1年の時間をかけて、シゲのメモリーやオペレーションシステムを破壊してく。
・・・・・・・・製作者を殺した上、製作者の事を忘れていく。ロボットはそんな非情な存在なんだと世間に思わせるためだ」
悔しそうな表情を浮かべてヤマグチ君はそう言った。
「だから、タイチがシゲを拾った時、憶えていることがないとか言ったと思うけど」
「・・・・・・・・言ってた。名前と誕生日以外分からないって」
「多分、時間を遡った影響もあったと思うけど、ウィルスの影響もあると思う」
「・・・・・茂君が過去に来ちゃったのはたまたまなんです。
研究室に、たまたま時間転移装置があって、それを動かしちゃったんです。
未来では、2人とも死んでしまったから組み込まれたプログラムは終了したんです。
でも過去ではまだ2人は生きてる。もしかしたらまたプログラムが動き出すかもしれない」
「だからこっちに来たんだ。過去の2人に死んでもらいたくなかったから・・・・・・・・。
シゲの中のプログラムが動き出した時のためにナガセがマツオカを、俺はタイチの様子を見ながら、シゲを探してた」
その言葉に、松岡が首を傾げた。
「え?でもヤマグチ君、タイチ君とは誕生会の時に初めて会ったんじゃ・・・・・・・」
「でもずっと様子は見てたよ」
「・・・・・シゲル君が家にいたのは気付かなかったの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
俺の問いかけに、ヤマグチ君が黙る。
「・・・・・・・・・気付かなかったんだ」
「そういえば、ナガセもあの時にビックリしてなかったか?」
マツオカの言葉にナガセが頷いた。
「してました。でもプログラムが働き出した感じではなかったから、このままでもいいかなって」
「でも今日、プログラムが動き出した。だから、タイチが・・・・・・・・・・」
俺は無意識に首に手をやっていた。
突然、首を絞められたのだ。
あの時のシゲル君は、ありえないくらい無表情だった。
「多分、日付変更後にシゲは機能停止すると思う。ウィルスは機能停止させることが最終目的だから。
・・・・・・・・・だから、それまで逃げ切れば、俺らの勝ちだ」
悲しそうな顔をして、それでも勝ち誇ったようにヤマグチ君は言う。
「・・・・・・・シゲル君は死んじゃうけどでもしょうがないです・・・・・・・・・。そうしないとタイチ君とマボが死んじゃう・・・・・・・」
ナガセは今にも泣きそうな顔をしていた。
「だから、一緒に来・・・・・・・・・・・・・・・」
ヤマグチ君は最後まで言わず、足を止めた。
そして、俺とマツオカが自分の後ろに来るように、前に出た。
「・・・・・・・・・情報処理専門のクセに、何で俺らに追いつけるかな」
自嘲気味に呟きながら、ヤマグチ君は体勢を低くする。
次の瞬間。
「ナガセ!2人連れて下がれ!!」
叫ぶと同時に前に跳んだ。
その進行方向にシゲル君がいた。
動きを止めようと突っ込んでいったヤマグチ君を軽く避けて、こっちに走ってくる。
「マボ!!」
一瞬動きが遅れたマツオカが茂君に服を掴まれた。
「うわぁ!!?」
そしてそのまま投げ飛ばされて、コンクリートの壁に思いっきりぶつかる。
「マボ!!マボ!!!」
ナガセがマツオカの方に走っていく。
それと擦れ違いにシゲル君が俺のほうに走ってきた。
「・・・・・・・・わぁあああ!!」
「何やってんだナガセ!!」
ヤマグチ君の怒声がして、シゲル君が視界から消える。
少し横手で、2人が取っ組み合っているのが見えた。
「・・・・・シゲ!!頼むから、そんなプログラムに負けんなよ!!もう止めてくれ!!!」
泣きそうな声。
対するシゲル君は、表情がなかった。
しかし、その能面のような顔が一瞬動きを止めた。
「・・・・・・・・・シゲ?」
それにつられてか、ヤマグチ君も動きを止める。
そして次の瞬間、山口くんの体が宙に浮いた。
「・・・・・・・・え?」
力がなさそうなのに、ヤマグチ君を軽々と持ち上げて、そのまま投げ飛ばす。
「!!」
吹っ飛ばされたヤマグチ君は勢いよく壁に激突し、そのまま動かなくなった。
「っあ・・・・・・・・・・・・!!」
次の瞬間世界が回り、気がついたらシゲル君が俺の上に馬乗りになっていた。
表情のない顔が映る。
──── 俺は、俺の“子ども”にこんな顔をさせちゃうんだ
そんな考えが頭を過ぎる。
悲しいな。
そう思うと同時にシゲル君が首に触れる。
そして力が込められた。
「・・・・・・・・・・・・ぐ・・・・・・・・・・・・」
ギリギリと音がしそうだ。
苦しくて掠れていく意識の中でシゲル君を見る。
カチン
その瞬間、小さく、小さく、音がした。
同時に咽喉にかかる力が緩む。
そしてそのまま手は離された。
「・・・・・・・・・・・・うぇっ・・・・・・・・・・・・けほ・・・・・・・・・・・・」
とっさにシゲル君を突き飛ばす。
うずくまって咽喉を触ると同時に、咳と生理的な涙が出た。
「・・・・・・・・・・・・ごめん・・・・・・・・・・・・」
小さく声が聞こえた。
息が落ち着かないまま振り返る。
申し訳なさそうに眉を下げたシゲル君がいた。
「・・・・・・・・・・・・間に合って良かった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・タイチ・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・シゲル君・・・・・・・・・・・・」
「ごめんなさい」
シゲル君は膝を着いて顔を手で覆う。
「・・・・・・・・・・・・こんな風になるなんて思わんかった!」
『ナガセの誕生日に、シゲはタイチとマツオカを殺した』
「家で見たことあったから、2人と仲良く話しとったから、信じたんに・・・・・・・・・・・・!!」
『2人を妬んだ科学者が報復するために、シゲにそういうプログラムを組み込んだ』
「だって、それを読み込んだら、もっと役立つことができるよって・・・・・・・・・・・・!!」
『それに従ってシゲは2人を殺したんだ』
悲鳴のような懺悔の声。
このヒトは、未来の俺のために、何かをしようとしてくれてたんだ。
それが、聞いたような結果になって。
一番傷ついてるのはこのヒトじゃないか。
「・・・・・・・・・・・・シゲル君は間違ってねぇよ」
本当に、このヒトの人格プログラムを俺が作り上げたなら、未来の俺も、このヒトにこう言うだろう。
「・・・・・・・・・・・・疑うなんてプログラムを、俺は組み込まないから」
疑うなんて、学習して身につけてしまうだろう。
だからそんなもの組み込まない。
「そんな自分を責めないでよ。未来の俺は、苦しんでほしくてアンタを造った訳じゃない」
幸せになってほしい。
信じることで得られる幸せを味わってほしい。
いつだって、俺はきっと、そう願ってプログラムを組んでいるんだ。
それは未来の俺だって、変わらないはずだから。
「それが信じた結果なら、それはそれでいいよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう・・・・・・・・・・・・」
シゲル君が、顔を上げて、泣きそうな顔をしながらそう言った。
「いつの時代でも、タイチはそう言ってくれるんやね・・・・・・・」
それでも嬉しそうな表情を作る。
将来、マツオカはこんな高度な感情を表現できる機体を造れるようになるんだなぁと、頭の片隅で思った。
「・・・・・・・・・・・・記憶なんて、バラバラの断片しかもう残ってへん・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・でも、それでも残っとるのは、全部、楽しいもんばっかりや」
『残されたウィルスは少しずつシゲの中のデータを消してくんだ』
「・・・・・・・・・・・・今のタイチに言っても解らへんと思うけど、でも、造られてからこっちに来るまで、僕は幸せやったよ。
これまでの1年間も、僕はすごく幸せやった。得体の知れない僕を拾ってくれて、一緒に暮らしてくれて、本当に・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・このままずっとあの生活が続いてくれたらって、何度も思ってん。
・・・・・・・・でも、僕はもうダメや・・・・・・・・・・・・これがもう、最後・・・・・・・・・・・・」
悲しそうに視線を下げた。
それでもすぐに視線を俺に戻して、最上級の笑顔を浮かべ、シゲル君は言った。
「今までありがとう」
そして次の瞬間、糸が切れたようにその場に倒れた。
「シゲル君!!!?」
俺は慌てて駆け寄る。
泣いているように表情を歪めながら、ナガセもやってきた。
「シゲル君!!シゲル君!!」
「・・・・・・・・・・・・ダメです・・・・・・・・・・・・完全に機能停止してる・・・・・・・・・・・・」
「うるせぇよ!!・・・・・・・・・・・・何だよそれ!!ふざけんな!!言うだけ言って、俺の言葉は何にも聞かねぇのかよ!!」
「・・・・・・・・・・・・動力炉の反応・・・・・・・・・・・・止まりました・・・・・・・・・・・・」
急激に躯が冷たくなっていく。
そこで初めて金属の塊だと頭の片隅で納得した。
「・・・・・・・・・・・・ふざけんなよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・畜生・・・・・・・・・・・・。ひでぇよ・・・・・・・・・・・・何だよ、それ・・・・・・・・・・・・」
ヤマグチ君がマツオカに肩を貸してこちらにやってくる。
「・・・・・・・・・・・・シゲル君・・・・・・・・・・・・?」
マツオカがそう呟いた。
ヤマグチ君はマツオカをその場に降ろして、シゲル君に触れた。
「・・・・・・・・・・・・シゲ・・・・・・・・・・・・」
表情を歪めて、小さく名前を呼んだ。
反応はなかった。
「・・・・・・・・・・・・ありがとう」
そして俺を見てそう言った。
「シゲ、幸せそうだった」
「・・・・・・・・・・・・死なねぇよ」
「・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・?」
悲しそうに、それでも笑ったヤマグチ君に、俺は言った。
「俺もマツオカも死なねぇよ」
「・・・・・・・・・・・・タイチ君?」
「やだよ、俺。何で自分の『子ども』にこんな顔させなきゃなんねぇの?お前だって嫌だろ、マツオカ」
振り返ると、マツオカが泣きそうな顔をしていた。
「絶対死なない。アンタになんて殺されてやんねぇよ!!」
こんな悲しい思いをさせたくて、未来の俺は3人を造ったんじゃないはずだ
絶対に、殺されてなんてやらないから
「俺も、絶対死なない」
死にたくないとマツオカが呟く。
その時だった。
シゲル君の躯が淡く光り始めた。
「・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・」
「ヤマグチ君もだよ!!」
呆然としていたヤマグチ君もナガセも、躯が淡く光りだす。
そして末端から薄くなって、消え始めた。
「・・・・・・・・・・・・っ何で!?タイチもマツオカも死ななかったのに、未来が変わった・・・・・・・・・・・・!?」
だんだんと消えていく3人の姿。
どうしようもなくて何も出来ずにいると、ナガセが叫んだ。
「マボ!タイチ君!俺、また2人に会いたいです!!だから辞めないで!!今度はちゃんと守るから!!」
「また5人でパーティやろうぜ!!」
ヤマグチ君もそう声を上げた。
それに答えようと口を開いた瞬間、3人の姿は完全に消え失せた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・消えちゃった・・・・・・・・・・・・」
マツオカの呟きがやけに耳についた。
3人がいた痕跡なんて、影も形もなかった。
ここはどこだろう
真っ白で何も見えない
ロボットにも死後の世界なんてもんがあるんかな
タイチが
タイチが何か言いたそうだったのに、聞けなかった
カミサマはヒドイ
だってマツオカには何も言えなかった
マツオカも僕を造ってくれたヒトなのに
マツオカにもありがとうって言いたかったのに
あぁ、でも、楽しかったな
みんなで歌って、ケーキ食べて、お酒飲んで
酔っぱらうことなんてないけど、みんな笑ってた
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もっと、一緒にいたかったなぁ
『────』
え?
誰やろう?
誰かが呼んでる
目を開けろ?
何で ────
強い光が当たっているようだった。
瞼を開いて認識された光は予測よりも強くて、入ってくる光量を減らそうと目を細める。
次第に焦点が合っていく視界に、見慣れたものが映った。
「おはよう、シゲル君」
「・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・・・・・タイチ・・・・・・・・・・・・・・・・?」
そこにいたのは、さっきより幾分老けたように見える、別れを告げたはずの人。
「・・・・・・・・夢?」
「ロボットが夢見るかっつーの。アンタ常時ネット接続してんだから、調べてみなよ。今の時間」
ケラケラと笑い声が聞こえて、そんな言葉が投げかけられた。
「シゲル君、躯、動かしにくいところとかある?」
そして覗き込んできたのはやはり見慣れた顔。
「・・・・・・・・マツオカ・・・・・・・・?」
問いかけに、彼は起きあがる。
見慣れた機材が並ぶ見慣れた部屋。
でも記憶に残っているのは、ぐちゃぐちゃになったこの部屋の光景と、息絶えた2人の姿。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
状況が把握できず、プログラムが異常を訴えていた。
耳に響く警報に眉を寄せた瞬間、扉が開く音とともに躯の横から衝撃を受けた。
「シゲルくん〜!!」
首に腕を回されて、きつく抱きしめられているようだ。
「うわあああん!!よかったぁあ!!」
その声に、彼は抱きしめてくる人物を見た。
「・・・・・・・・ナガセ・・・・・・・・?」
「タイチ君がシゲル君のバックアップとってくれてたんです〜!!!!」
「・・・・・・・・訳解らん・・・・・・・・」
ギリギリと躯が悲鳴を上げるほどの力を込める『弟』に好きなようにさせながら、彼は首を捻る。
「未来が変わったんだよ」
それに対して、笑いながらタイチが答えた。
「俺もマツオカも、何が起こるか知ってたからね。ちょっとした細工をアンタにしてた。
上手くいくかは一か八かだったけど、それが上手くいって、俺らは死ななかった」
「だからシゲル君があっちで機能停止したと同時に時間転移装置を作動させて、3人ともこっちに戻したのよ。
で、こうやって修理して、シゲル君は壊れずに済んだってわけ」
タイチとマツオカが楽しそうに笑う。
「アンタ、情報処理専用に造ったのに、よくヤマグチ君投げ飛ばしたよね。
ウィルスのせいでリミッターが外れたのかな?よく判んないけど」
ケラケラ笑うマツオカの後ろから、ヤマグチが姿を現した。
「シゲ、おかえり」
嬉しそうに笑うヤマグチに、彼は夢じゃないと結論付けた。
「ね、シゲル君。今日が何日か調べた?」
「・・・・・・へ・・・・・・・・?」
タイチにそう言われて、瞬時に時刻を調べる。
「・・・・・・・・・・・11月17日?」
「正解。今日はさ、アンタを初めて目覚めさせた日だよ」
その瞬間、山口が持っていたクラッカーを鳴らす。
「!」
「おめでと、シゲ!」
「おめでとうございます!シゲル君!!」
2人の『弟』が嬉しそうに彼に言葉を送った。
「あの後、ホントはシゲル君の誕生日会をする予定だったんだよ。でも出来なかったからさ」
「だから今やろう。ちょうどいいでしょ」
そう言って、マツオカがケーキを持ってくる。
「じゃあロウソク立ててー」
準備をしている4人を彼はぼんやりと眺めた。
「ほら、歌うよ!」
そして歌が流れ出す。
Happy birthday to you!
今度の歌は初めからきれいに揃っていた。
Happy birthday to you!
途中でタイチとマツオカが音程を変えてハモリを入れる。
Happy birthday dear Shigeru!
最後のフレーズに、彼は泣きそうな顔をした。
Happy birthday to you!
歌い終わって、4人が拍手をした。
「おめでとう、シゲル君。おかえり」
タイチが彼にそう、声をかける。
その言葉を皮切りに、彼は泣き出した。
「・・・・・・・ただいま、ありがとう」
おめでとう
もう二度と会えないと思っていたアナタに、もう一度会えたことが嬉しい。
今ここで、こうやって一緒に笑い合えていることが、嬉しいんだ。
Happy birthday, Shigeru !!
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37歳おめでとうございます!!
歳をとってきて、若返っているような気がするんですが気のせいでしょうか?
去年も言いましたが、加齢臭がしてようが、腹がたるんできてようが、素敵なアナタが大好きです。
ギター弾いているときのあなたのカッコよさには惚れ惚れします。
これからも、エロカッコいいギタリストとして素敵なアナタでいてください。
どこまでもいつまでもついていきます!
と、いうことで、完結です。
相変わらす祝ってませんねー。もう諦めてます。
個人的にすごく楽しい設定だったんですが、上手く消化しきれませんでした(汗)
非常に残念です・・・・・・・・・・。
というかギリギリになってしまいましたね・・・・・・・・。本命なのに・・・・・・・。
でも17日中にUP出来たので良しとしましょう。
では今回も、もしお気に召していただけましたら、お持ち帰りください。
改めまして、おめでとうございます!!
2007/11/17
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