自然界には青いバラは存在しない。


それは、バラに存在する青い色素を作り出す遺伝子が機能してしないからである。

そのため、どんなに交配しても花弁の真っ青な種が生まれることはない。

それは遺伝子工学が進歩した今でも、未だ達成されていない。

それ故、青いバラは不可能の象徴。










purple rose




















人間、というかほとんどの生き物の血液は赤い。
酸素を運搬する赤血球に含まれるヘモグロビンが赤いからだ。

けれど、この世には赤以外の血の色をしている生き物だって確かに存在してる。
例えばタコなどの軟体動物やエビなどの甲殻類。
ヤツラの血は赤ではなく青。
ソイツらの血にはヘモグロビンではなくヘモシアニンという色素が含まれてる。
何が違うって、それを構成してる金属イオンが違うのだ。
ヘモグロビンには鉄。
だから舐めると鉄の味がする。
対してヘモシアニンに含まれてるのは銅。
その銅が鮮やかな青色を示すのだ。


俺はこれまでに、そのことを耳にタコができるくらい聞かされてきた。
つまりはそういうことなのだ。
俺の血が赤くない理由は。


先天性血球青色症候群。
通称BBSと呼ばれる遺伝病がこの世には存在してる。
ヘモグロビンを作り出すはずの遺伝子に異常があって、それではなくヘモシアニンを作り出してしまうのだ。



つまり、BBS患者の血液は赤ではなく、青い。



ヘモシアニン自体も酸素を運搬する能力は持っているから、致命的な障害ではないけれど、
やはり正規なモノに比べると酸素運搬能力は劣る。
だからBBS患者は慢性的に貧血状態にある。
それだけならまだいい。
BBS患者は他の遺伝子疾患も持ってることが多い。
例えば色弱・色盲、血友病なんて持っていて当たり前。
そして、どの患者にも言えることだけど、生きているのが不思議なほど、身体が弱い。
本当なら、この病を持って生まれてきた奴は、99%の確率で10歳までに死ぬ。
酷ければ、母親の腹の中で日の光を見ないまま生を終える。



そんなBBS患者も万人に一人の可能性で成人できることがある。


それは障害が少なかったからか、偶々なのか。


けれど、生き残ったBBS患者はこう呼ばれてる。


その意味と色に準えて、『ブルーローズ』、と。




















ごうごうと空気が震える。
細かい火の粉とともに熱気が飛んでくる。

苦しい。
心臓が破裂してしまいそうだ。

それでも俺は足を止めなかった。止まらなかった。
気を抜けば飛んでいきそうな意識を何とか保って、空を見上げる。
空は赤に染まっていた。

後ろの方から声がした。

あそこだ。
捕まえろ。
もういい。
射殺しろ。

どうやら俺の処分はあっさり決まったらしい。

いいさ。
そんなこと構わない。
治療という名の人体実験はもうゴメンだ。
いっそ死んでしまったほうが楽になれるかもしれない。



でも、死ぬのは怖い。



ぱん。ぱん。

聞きなれない破裂音。
ヤバイ、と思ったと同時に腹に衝撃。
その反動か、俺は飛び込み前転の要領で一回転して、地面に伏せた。
「・・・・・・・いてぇ・・・・・・・・」
背中を丸めて小さくなって、衝撃を感じた箇所を触るとぬるりとした感触。
襲ってきた痛みを堪えて手を見ると、その手は紫色に染まっていた。
「痛いっつーの・・・・・・・・・・」
苦しくて痛くて、このまま楽になってしまいたくて、一瞬全てを投げ出そうと思った。

けれど。

「いたぞ!!」
「射殺しろ!!これ以上外に出すな!!」
バっと顔を上げると怒りに顔を染めた研究者達と俺の眉間を的確に見つめる銃口。


嫌だ。

死にたくない。

怖い!!


「うああああああああああああああああああああああああ!!!!」
瞬間、視界は真っ赤に染まっていた。














真っ赤な水溜りを踏みしめる。
金属臭い。
これが、“血”の匂い。

それに酔ったのか、身体がもう限界なのか。
まっすぐ歩いているつもりでも、ふらふら。ともすれば倒れそうになる。
腹から流れ出てくる紫色の液体は、全く止まる気配を見せない。

出来るだけ遠くに行かなきゃ。
そうだ。
あの森に行けば何とか逃げられるかもしれない。
俺は朦朧とする意識の中、鬱蒼と目の前に広がる暗い森に足を踏み入れて、
木々の土臭い臭いを鼻に感じて、意識を失った。
























真っ暗で何も見えない。
このまま死ぬんかな。
このまま死んだら楽になれるかね。
でも、死ぬのは怖い。
死にたくない。

助けて


───誰?

声がした。

───どうしたの?

血が止まらない。

───どこにいるの?そのままじゃ死んじゃう

判んない。

───死にたいのか、生きたいのか。どっち?

別の声が訊いた。
そんなの決まってる。
死にたくない。

───じゃあ行くから

行くってどこに?
そしてアンタは誰なんだ?
血が出すぎて幻を見てるのか?それを言うなら幻聴か。

死にたくない。


でも、生きるのも辛いんだ。








見知らぬ天井が視界に広がる。
同時に見知らぬ人が覗き込んできた。
「お、起きたか」
わずかに見えた白衣。
反射的に身体が竦む。
「あ、何しとん!動いたらあかんて!自分血友病やろ!傷口開いたらどないすんねん!」
逃げようとした俺に、その人は怒った。
「折角ヒトが難儀して血ぃ止めてやったんやから傷塞がるまで大人しゅうしとり」
俺の頭を軽く叩いて、その人は部屋から出ていった。
人の気配が消えたことを確認して、改めて部屋の中を見回す。
俺が寝ているベッドと、薬品ビンや包帯などが雑多に置いてある小さな机。
そしてカーテンすら付いてない窓とさっきの人が出ていった扉。
至る所に貯まる埃以外は何もない。
ふと腹に目を遣る。
真っ白な包帯が目に痛い。
でも血が出てくる気配は全くなかった。
あぁ、あの人が止めてくれたんだっけ。
考えてみればお礼も言ってない。
失礼なことをしてしまった。

──起きた!?

小さくため息ついたときに声がした。
驚いて辺りを見回すが、全く人の気配はないし、窓や戸が開いた様子も誰か入ってきた様子もない。
でも次の瞬間、扉が曲がる勢いで開いた。
「やっぱ起きてた!!おはよー!!」
同時に彫りの深いデカい男が入ってきた。
「大丈夫!?もう痛いところない!?血が止まってよかったね!!俺たちが見つけた時にはヤバかったんだって!!
 何で判るかって、それはリーダーが言ってたんだけど、死ななくてよかっ」
「アホっ!!」
ベッドの際に走ってきて、呆気にとられる俺の手を取ってブンブン振りながら嬉しそうに一方的にまくし立てた男は、
後ろから現れた小柄な奴に蹴飛ばされて床にキスをした。
「痛いです!!」
「何絶対安静の怪我人の腕ブンブン振ってんだよ!!」
「うぅ・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・俺だって病人だもん・・・・・・・・・」
「病人なら大人しくしとけ!!」
「太一君だって病人じゃん!!」
「減らず口叩くなー!!」
いきなり現れた2人はいきなりケンカを始めて、今ではプロレスに発展していた。
「ギブギブ!!苦しいっ!!」
首を絞める『タイチ君』の腕をぺちぺち叩く。
「しゃーねぇな」
ニヤニヤ笑いながら『タイチ君』は腕を放して、こちらを向いた。
「あんた名前は?俺は太一。太いに数字の1ね。こっちはバカ」
「ヒドい!!俺は智也だもん!!バカじゃないもん!!」
いきなりそう訊かれて、名乗られて、半泣きで男が講義して。
あまりに早い展開に、俺はいまいちついていけず、呆然として答えた。
「・・・・・・・・松岡・・・・・・・・昌宏・・・・・・・」
「まさひろ・・・・・・・・・・・・じゃあマボですね!!」
「何でそうなるんだよ。だからバカなんだよ」
自信満々で嬉しそうに俺のあだ名を決定した智也が太一君に殴られる。
「それにしても良かったな。死ななくて」
「あ・・・・・・・はあ・・・・・・・」
展開に飲まれて、曖昧に俺が答えると、太一君は首を傾げる。
「あれ?お前死にたくないって言わなかったっけ?」
そんなこと言っただろうか。
思ったことはあっても、口にはしてないのに。
「太一君違うよ。言ったんじゃなくて俺が聞いたんだよ」
智也がすくっと立ち上がって太一君に言う。
「あぁ、そっか。じゃあいいや、何でもない」
太一君は頭を振って話を終わらせる。
『聞いた』ってどういうことだろう。
不思議そうな顔をしていた俺に太一君が笑った。
「俺達もお前と一緒ってことだよ」

















ここ数日、動けない俺に代わって、太一君と智也が代わる代わるやってきた。
2人はいろいろな話をしてくれた。
この家にいるのは2人含めて4人であること。
その中の1人である、あの白衣の人はリーダーと呼ばれていること。
リーダーは医者で、今は家の裏にあるでっかい温室で花を育てているということ。
まだ顔を見ないもう1人は山口君という名前であること。
この家を修理したのも、温室を作ったのも彼であるということ。
それと、智也もBBS患者であるということ。

「俺ね、血友病じゃないんだって。でもそれってすごく珍しいことなんだって」
「へぇ」
「でも俺の血も青いんだよ」
「・・・・・・・・お前もBBS患者なのか」
「BBS?」
俺の言葉に智也は首を傾げた。
「え?血が青いのは病気で、その病気のことをBBSって言うんだけど」
「あ!ブルーローズのこと?そういう名前なんだ!!おれブルーローズって名前だと思ってた」
へぇー、と感心した様子で声を上げる智也に、コイツはバから始まってカで終わる印象を持った。
「でもマボの血の色ってきれいだよね」
そんな事を言って、突然智也は、太一君が呼んでる、と部屋を出て行ってしまった。
「・・・・・・・今誰の声も聞こえなかったんだけど・・・・・・・・・・」
あいつは何だかよく判らない。








朝目覚めると気分が良かった。
傷も痛くないし、体も軽くて、時計を見ると早朝だったから、音を立てないようにこっそりと部屋から出た。
そっと歩いても廊下が軋む。相当のボロ家を直したんだろう。所々に新しい木材が充てられていた。
外に通じる扉を開ける。甲高い音がして、慌てて振り返る。
人の気配はなくて、ほっと胸をなで下ろした。

空気が冷たい。
まだ夜明け前だったらしい。薄暗い空の中、東の方の空が少しずつ明るくなってきている。
西の方には森。暗緑色の世界に少しずつ光が射し込んでいく。
何となく、生きててよかったと思った。



家の裏に回る。
教えられた通りのどデカいガラス張りの温室があった。
ガラスの向こうに見えるのは濃い緑。
入り口と思われる扉が少し開いていたから、そこからこっそり中に入る。
中は、秩序なく植物が繁茂していて、何がなんだか判らない状態。
見たことあるようなものからないようなものまで、様々な花や低木が植わっていた。
どの植物も花はまだつぼみで見た目は少し寂しい。
ゆっくりと辺りを見て回るうちに、唯一花をつけている低木があった。
とてもきれいな青。
いや、青紫の花を咲かせて、大きく枝を広げている。
「・・・・・・・・バラ・・・・・・・?」
茎に棘がある。巻かれた花びらから、それがバラであることが判った。

青いバラは存在しないんじゃなかったっけ

そんなことを思いながら、花に手を伸ばす。
棘に気を付けて触れるが、外側から染めた様子はない。本当にこの色なんだ。
「それはシゲが作ったんだよ」
突然後ろから声がして、慌てて振り返る。
すぐ側に設置してあったベンチに人が座っていた。
人の気配なんてぜんぜんしなかったのに。
「そんなにビビんなって。元々ここで寝てたんだから気配なくて当然だろ」
ケラケラ笑いながらその人は俺の傍まで来る。
「ペンキで色塗ったんじゃないぜ?これ。バラ自体がこう発色してんだ」
「うん。触れば判るよ」
俺の言葉にその人は笑った。
「生意気言うじゃないか。松岡、だっけ?」
「・・・・・・・え・・・・・・・名前知って・・・・・」
「太一と智也から聞いた。シゲも言ってたしな」
おもしろそうに目を細めながら、その人は言う。
あぁ、この人はもしかして。
「・・・・・山口・・・・・君?」
「そう、山口君。あいつらから聞いてるだろ?」
くるり背を向けてベンチの方に戻る。
どっしり腰掛けて、彼は言った。
「もう良いのか?」
「何とか大丈夫です」
「そういえば、お前の血。シゲから貰って検査させてもらったけど、結果知りたい?」
突然の言葉に俺は勢いよく振り返った。
「・・・・・・・なん・・・・・・・」
「んな構えるなよ。治療に際して一応調べただけだ。別にお前を被験体にしたいわけじゃない」
俺の不安をあっけらかんと言い当てる。
「今まで調べられたことはあってもその結果を教えられたことはねぇだろ?」
「・・・・・・・ない・・・・・けど、何で?実験しないなら何で俺を助けたのよ。俺は化け物なんでしょ?」
血が赤くないから人間じゃない。
青い血なんて化け物の証拠だ。
ずっとそう言われ続けてきたし、俺もそう思ってた。
「だから実験に使われる以外は何の役にも立たないんだ。なら俺は必要ないじゃん。
 あのまま死なせてくれればよかったのに!」
そこまで言い切って、山口君の眉間にシワが寄るのが判った。
「なら何で助けを求めた?死にたくない、助けてと言ったのはお前の方なんだろ?」
「俺はそんなこと言ってない!」
「口にしてなくてもそう思ったなら同じだ。お前の助けを求める声を智也が拾ってんだから」
「拾っ・・・・・・?」
拾ったとはどういうことだろう。
「・・・・・・・・・・・・・あー。そうか。お前知らないのか」
めんどいな、と呟きながら頭をボリボリと掻く。
「・・・・・・・・・・・・・・とにかくこうやって生き延びたんだ。死なせてくれれば良かったなんて言うな」
説明無しにそう言って、彼は藪の向こうに消えた。
「あれ?松岡?」
消えた方を見ていると、不意に後ろから声がかかる。
「あ、太一君」
振り返った先には小柄な影。
「早いな。もう起きていいのかよ」
「うん。今んとこ大丈夫だよ」
「そっか。よかった」
太一君はにっこり笑った。
「太一君も早いね」
「何か早く目が覚めちゃってさー。散歩してきた」
スタスタとさっきまで山口君がいたベンチに歩いていって座る。
「山口君に会った?もしかして」
ふと思い出したかのような様子で太一君は俺に訊いた。
「うん。さっきまでそこにいたよ」
「どう?印象は」
「・・・・・・・・・・・謎の人?」
「あははっ!違いないや!」
太一君は大きな声で笑った。
「あの人解んないよね。俺ずっと一緒にいるけど、これが山口君だ、っていう具体的なモノないもん」
「何者なの?あの人。あとリーダーもわけわかんないんだけど」
眉間にシワを寄せると、太一君は面白そうに笑いながら足をブラブラさせる。
「松岡が前いた所にいた白衣の人と同じもの。ちなみに俺はお前と同じ」
「・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・」
俺と同じ?何が?病気が、ってことか?
というか、何で白衣の人を知ってるんだ。俺が前いた所とか、俺は一言も言ってないのに。
「なんで・・・・・・・・・・・・・・」
「『何で言ってないのに知ってるの?』って?智也がお前の無意識拾っちゃったらしくて、引きずられて泣いてたから」
また出た。
『拾った』ってどういうことだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その『拾った』って、どういうことなの?」
「ん?テレパスだよ。智也のESPはテレパスなんだ」
わけがわからない。
テレパスって何だ?ESPって何だよ?
本当にわけがわからないことばっかりだ。
「・・・・・・・・・・・あれ?もしかして知らない?」
俺の様子を見て、太一君が首を傾げる。
「知らないよ!何も教えてくれなかったんだ!アイツらも、リーダーも山口君も!!」
教えられたのは自分の病気のことだけ。
血が青いということだけ。
「そっか。じゃあ何が知りたい?ある程度のことなら教えられると思う」
声を上げた俺に、太一君はびしっと座り直して言った。
「・・・・・・・・・・・・・・ESPって何?あと、智也のテレパスも」
「ESPは超能力のことだよ。ブルーローズはだいたい持ってる。人によって違うけどね。
 で、智也はテレパスなんだ。つまり人の心が読めて、自分の思ったことを相手に直接伝えることもできる。
 だからお前の思ったことも判ったんだ」
俺はあんまりな内容に言葉を失った。
そんな物語の中のようなことがあるなんて。
「性能のいいトランシーバーだと思えばいいよ。
 性能がよすぎて、例えば喜びとか恐怖とかいった強い思いを無差別に拾っちゃうことがあるんだ。
 だからお前の気持ちも受け取ったってわけ」
だから助かったんだよ、と太一君は笑う。
「時々誰もいないのに声が聞こえるだろ?それは智也の心の声。気を抜くと全部筒抜けになっちゃうんだよ、アイツ」
「・・・・・・・・・・・・じゃあ俺の記憶も見ちゃったの、かな・・・・・・・・・」
「触ったら見えたって。だからお前を連れてきた後、その記憶と混同しちゃって、暴れて大変だったよ」
小さくため息をついて肩を竦めた。
「・・・・・・・・・・・・ごめん・・・・・・・・・・・・」
何でかその言葉が口を継いで出た。
言いたいことはいろいろあるのに、申し訳ない気分でいっぱいで、謝ることしかできない。
「何で謝るんだよ。お前のせいじゃないよ」
「でも、俺のせいで・・・・・・・・・・・・・・」
智也も暴れちゃって、太一君たちに迷惑かけて。
そう続けようとすると、太一君は俺の顔をじっと見て、自分の隣、ベンチの空いた部分をバンバン叩いた。
座れということだろうか。
「・・・・・・・・・・・・・・・?」
不思議に思いながらそこに腰掛ける。
「むっ。座ってもデカいのな、お前」
少しむっとした様子で太一君はそう言って、その次には俺の頭を軽くポンポンと叩いた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「誰のせいでもないって。そんなに自分責めんな」

誰もお前を責めてないよ。

頭を上げて太一君を見た俺に、太一君は微笑んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・・・・・・」
泣きそうになった。
顔が赤くなってるのがよく判る。
こんなこと、今までに言われたことなかったんだ。
「死んでもいいやなんて思うなよ。死んでも楽にならないから。それに、少なくとも俺は、お前には死んでほしくない」
「・・・・・・・・・・・で・・・・・・・・・・でも・・・・・・・・・・・今までそんなこと・・・・・・・・誰も・・・・・・・・・・」
「今俺が言ったじゃん。死なないでって思ってくれる人が1人でもいたら死んじゃダメなんだぜ?」
リーダーの受け売りだけどな、と太一君はニカっと笑った。
俺はもう顔を上げることは出来なかった。
顔は真っ赤で、潤んだ目を見せないようにするので必死。
「泣くなよ」
「・・・・・・・・・・・泣いてないよっ」
太一君がニヤニヤ笑いながら俺の肩を叩く。
「しゃーない。そういうことにしといてやろう」
「だから泣いてないって言ってるでしょ!」
俺が顔を上げて反論すると、嬉しそうに笑った。






もうすぐ朝ご飯だから、と太一君に連れられて言った食堂には、全員が揃っていた。
「あ!!マボ!!」
一番に声を上げたのは智也。
「おはよぉ、松岡。もおえぇの?」
お玉片手にやんわり微笑むリーダー。
少し驚いて、でもすぐに訳知り顔で笑う山口君。
「食べれそうか?」
首を傾げるリーダーに、俺は大きく頷いた。
「じゃあ松岡の分も用意するわ」

そして、生まれて初めて囲んだ食卓は、今まで食べた何よりも美味しかった。









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