感情なんてものは、一度持ったら払拭するのは難しい。

ましてや憎しみなんて、そう簡単に消せるものでもない。







それが自身を縛り付けると解っていても。




















「こんな所もあるんだ」
太一は少し感動しながら呟いた。
いつもより少し足を伸ばして隣町まで歩いて、見つけたのは林に囲まれた公園。
「そっか。神社か」
奥の方に鳥居を見つけ、なるほどと手を打つ。
平日の昼前だから余計に、全く人の気配はない。

こっちに来てから林とか見てなかったなぁ。

そんなことを思いながら、そこに立ち寄った。


公園内を一回り。
ベンチに腰掛け、ぼんやり緑を見つめる。

天界にいたときはよく森に行ったものだけど。

ふとそんなことを思い出す。
「よく精霊に慰めてもらったっけ」
苦笑を浮かべて呟いた。

仕事で失敗したときも成功したときも、太一はそこに行って木に宿る精霊達相手に話をしていた。
最後の方は軍の中でも孤立していて、誰とも話さなかったから。

「・・・・・・・・・・・・・」
太一は眉を寄せて目を閉じる。

太一がスラム生まれと判明した途端、部下の大半が手のひらを返すように態度を変えた。上司も同僚も然り。
一部、それでも慕ってくれたのは同じくスラム出の部下が数人。
それもあの時一掃されてしまった。

「・・・・・・・・・・もう昔のことだから、忘れなきゃ・・・・・・・・・・・」
小さく息をついて一人言ちる。
「俺が堕ちたって聞いたらどうするんだろ・・・・・・・・・・・・」
長い間会っていない友人達を思って、再び木々に視線を戻した。


突然、小さく甲高い音がした。
「?・・・・・・・・・・・結界・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
太一は空を見上げる。
ふと横の方で砂を踏みしめる音。
「よぉ」
そちらを見るとその男は口の端を歪めて笑った。
「・・・・・・・え・・・・・・・・・・お前・・・・・・・・・・・・・・・」
太一は目を見開いて言葉を失う。
「久しぶり、国分。こんなところにいたんだな、お前」
それは天界にいたときの同僚だった。
「・・・・・・・・・・・何・・・・・・・・・・・・・」
「てっきり地界にいるんだと思ってそっち探したよ」
一歩一歩、笑いながら近付いてくる。
太一はベンチから立ち上がり、無意識に後ずさった。
「そしたら人間界になんているんだから。ま、でもその方が好都合だけど」
「・・・・・・・・・・・どういう意味だ」
笑いながらも敵意を向けてくる元同僚に警戒しながらも、戦闘態勢をとる。
「こういうことだよ」
男がそう言った瞬間、後ろから横っ腹に衝撃。少し間を置いて激痛が走った。
「!!!?」
思わず体を捻る。横っ腹から何かがずるりと抜ける感覚がした。
背後には血の付いた槍を持った天使が一人。
状況を判断する前に背中を蹴られて膝をつく。
右脇腹からだらだらと赤いものが流れ出ているのが見えた。
「・・・・・・・・・うぁ・・・・・・・・・・・・・」
「隊長からのお達しだよ、国分。副長ともあろう者が堕天の上、
 悪魔に成り果て天界に仇なしたのは許されることではない。死をもって償え、だとさ」
そう笑って太一に手を翳す。
風が集まってきて、刃を形成し、太一に向かってきた。
「・・・・・・・・・・・っ!!」
とっさに地面を転がってそれを避ける。
痛みを堪えて立ち上がると、空には何十人もの天使。
「・・・・・・・・・な・・・・・・・・・・・」
「隊長殿はご立腹なんだよ、国分」
「・・・・・・・・・・・・・・・一個師団てありえねぇだろ、たかが堕天使1人に」
「跡形もなく、って指示なんでね」
男は口角を引き上げた。
「残念ながら、それに従ってやるほど優しくはねぇよ!」
槍を持っていた天使の足元から水の柱が飛び出て、その姿を貫く。
それを確認することなく、元同僚の天使に向かって走り出した。
瞬時に刀を呼び出して斬りつけるが、相手もそれに剣で応戦する。
「俺に剣術で勝てたことねぇクセに」
「くっ・・・・・・叩き上げは戦いしか能がないからな!それに」
男が力任せに剣を振り抜く。
それを後ろに跳び退って避け、着地した瞬間、頭上に光を感じて顔を上げる。
「!!?」
全ての天使が標準を太一に合わせ、力を解放した。
「一対一で戦うつもりはないんだよ」
男が笑う。
逃げる間もなく、それは炸裂した。















「・・・・・・・・・・・・さすが・・・・・・・・・しぶといな、スラム生まれは」
土煙が治まり、大きく開いたクレーターの中心には、まだ太一の姿はあった。
ボロボロになってはいるものの、立っている。
「けど、もう反撃する力は残ってないだろ」
男は剣片手にクレーターを滑り降りていく。
そして、刀を振り上げた。
「じゃあな」
その瞬間、太一が刀を振るう。
男は咄嗟に身を引いたが、それは鼻先を掠めていった。
「ちっ・・・・・まだ動けたか!」
「あんなんで俺を潰せると思うなよ!!」
声を上げると同時に羽根を広げ、空に舞う。
飛び上がるのを待っていたように襲い掛かってきた天使たちを刀1本で斬り倒していく。
目の前にいた1人を袈裟懸けに斬り、反す刃でもう一人の腹を薙ぎ払う。

天使たちの間に動揺が走った。
集中砲火を浴びせ、死にかけているはずの相手にすでに3分の1がやられていたから。
「お前らの動きなんてバレバレなんだよ!!あんな攻撃真っ向から受けるか!!」
光が届く瞬間、何枚も障壁を作り、ある程度威力を弱めた後、同等の力を放出して相殺したのだ。
さすがに爆風は防ぎきれず、砂埃を被ってボロボロになってしまったが。

太一は一心不乱に刀を振るった。
脇腹の傷は塞いだものの、応急処置に過ぎない。
完全に治すこともできるが時間がかかるため、今の状況では出来なかった。
早く片を付けてしまわなければ分が悪いのは太一の方だった。
「副長!!半分が・・・・・・・・!!」
「一対一でやり合うな!!集団で行け!!不用意に近付くんじゃない!!」
男の指示を受けて、天使達の攻撃に統率が生まれてくる。
太一と距離を置き、接近戦に持ち込まないように、離れたところから攻撃を繰り返す。
一対一で数を減らしていかなければ勝てない状況。
やられた振りをしたのも、統率を乱すことで一対一に持ち込むためだった。
反撃を繰り出す前に攻撃を受ける。

分が悪すぎる

肩で大きく息をしながら残りを確認。
まだ半分は残っている。
ため息混じりに息をついたその一瞬、動きが止まった。
その一瞬を狙った攻撃が、左翼に直撃した。
「!!」
何かが砕ける嫌な音がした。
「う゛ぁあ!!」
バランスを崩し、重力に任せて落下する。
地面に叩きつけられると同時に、目の前には光の渦。
とっさに壁を作るが、持ち堪えたのはほんの数秒。
力の奔流に耐えきれずに砕けた。
「─────!!!!」
悲鳴も飲み込んで爆発。
今度こそ、太一は避け切れなかった。





白い霞の隙間から覗くのは真っ青な空。

身体が動かない。

右腕は感覚がない。

引いていく砂埃の向こうに黒い点がいくつも見える。
生死の確認が出来るまで近付かないつもりだろう。


・・・・・・・・・・・・・・・死にたくないなぁ


ふとそんなことを思った。


何でこんなことになってるんだろう。
何で殺されなきゃならないんだろう。

普通堕天使の討伐なんてやらないのに。

・・・・・・・・・俺がスラム出身なのに二位までいったから?副隊長になったから?





声が聞こえる。


何を言ってる?






男が、

覗き込んで、

笑った。

















「あの時死んでればよかったんだよ、下種」

















目の前が真っ白になった。


真っ白だ。
何も見えない。


沸き起こってきたのは押し込めていた感情。


許さない

許さない


目の前に大きな鏡。
真っ黒な羽根を背負った自分が立っている。
鏡の向こうが笑った。


殺せばいいじゃないか

だって、そのために『俺』を選んだんだろう?

確実に、相手を、殺すために







雷光が弾けた。











「 ──────────────────────────────────────────────────────!!!!!」











絶叫。
開かれた翼がみしみし音を立てる。
黒に染められていた白い羽根が抜け落ち、黒の面積が広がった。
もう一対現れる翼。
漆黒の羽根が空気を含んで広がる。
「・・・・・・・・・・・・何だ・・・・・・・・・・あれは・・・・・・・・・・」
張りつめた空気の中で、様子のおかしい太一から距離を取り、男が小さく呟く。
確認のために数人が近付いた瞬間、閃光が破裂した。

















「なぁ、達也」
本を読んでいた城島がふと呼びかける。
取扱説明書片手に携帯をいじっていた山口は頭を上げた。
「何?」
「迎えに行ってくれへん?」
「誰を」
「太一。隣町におるんやけど、帰ってこれへんとこまで行ってもうたみたいやねん」
「場所判ってんならアナタが行った方がよくね?俺未だに名前呼んでもらえてねーよ、面と向かって」
首を傾げる山口に、城島は苦笑を浮かべた。
「僕じゃ無理やねん。連れて帰ってこれんから」
だから頼むわ。
それ以上何も言わず、笑うだけなので、仕方なく山口は腰を上げた。
「どこにいんの?」
「この前の道を左にまっすぐ行けばすぐ判る。急いで行ったって」
「はいはい」
急げってことは飛んでった方がいいかな。
そう思い、羽根を広げて、言われた方向に向かって風を切る。

帰ってこれないって、どういうこった

必要なこと言ってくれないもんなぁと独り言。
しばらく行って、結界に気付いた。
「・・・・・・・・・・行けば判るって、アレか」
手前で着地。
結界の壁に手を触れると、それは少したわんだ。
「・・・・・安定してねぇな。壊れそうだ・・・・・・・・・・」
そのまま手を突っ込む。そこから中に入る。
「・・・・・・・・・入るんじゃなかったなぁ・・・・・・・・・・・」
中の光景を見て、山口は引き攣った笑みを浮かべて呟いた。
見るも無惨な瓦礫の山。
木々が生えていたのだろうが、ほとんどが倒されていて、残っているものも火がついて燃え盛っている。
「・・・・・・・・・何してんだよ、これ」
結界の中心の方に強い力が感じられた。
仕方ないのでそこに向かって歩き出す。
歩く間もなく聞こえてくる悲鳴と爆音。
そして頭に直接響く甲高い絶叫。
鼻につく焦げた臭いに山口は眉をひそめる。
と、進行方向に影が見えた。
「・・・・・・っ山口殿!?」
「お前、4隊の・・・・・・・」
振り返った影は山口を見て声を上げる。
山口は眉間にシワを寄せたが、彼はホッとした表情を浮かべる。
「助けてくださいっ!!もうほぼ壊滅状態で・・・・・・・・」
周囲には彼と、数人しかいない。
このやりとりの間にも、2人が消えた。
「何だこれは!!何してんだ!!」
「・・・・・・・・・堕天使の、討伐を・・・・・・・・・・」
男は言いづらそうにそう告げる。その内容に、山口の眉が吊り上がった。
「堕天使討伐はしない決まりだろ!!」
「でも・・・・・・・・・」
「誰の命令だ」
男は答えない。
恐らくそうするよう指示されているのだろう。
山口はギリリと歯噛みした。
「・・・・・・・これ以上の被害を出したくなかったら退け。ここは俺が何とかする」
込み上げてくる怒りを押し込んで、それだけ告げた。
それに食い下がろうと男が口を開いた瞬間、鈍い音ともに何かが飛び散った。
咄嗟に山口が顔にかかった何かを拭う一方、男の動きが止まる。
その腹から生えていたのは腕。
「・・・・・・・・・・・かは・・・・・・・・・・」
乾いた音を立てて、男の口から赤が溢れる。
振り返り、忌々しげにその表情を歪めた。
「貴さ・・・・・・・が、ぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!
腕を振り上げ何かを言いかけて、それは突如悲鳴に変わる。
そして振り上げた腕が事を成す前に、耳障りな音を立てて破裂した。
男の姿は跡形もなく消え、周囲に焦げ臭い、肉の焼ける臭いが立ち込める。
「・・・・・・・・・・・・おいおい・・・・・・・・火の祝福じゃないのに何でこんな芸当が出来んだよ・・・・・・・・」
山口は引きつった笑顔を浮かべて言った。
その視線の先には、羽根を4枚広げた太一の姿。
「帰ってこれないって、こういう訳ね」
その目は何の光りも宿さず、何も見ていない。真っ暗な闇がそこにあった。
「・・・・・・・・・・・・もういいだろ、太一」
辺りにはもうすでに誰もいなかった。
大半は命を落として消えていき、残った者も早々と逃走していたから。
風船の弾けるような音を立てて、結界が消えた。
焼け野原と化していた景色が瞬時に元に戻る。
「帰るぞ」
そう言って、一歩踏み出した。
瞬間、電撃が飛んでくる。
山口がとっさに片足を踏み鳴らすと、地面が盛り上がり壁が出来た。
それは電撃を受け、勢いで粉々に吹っ飛ぶ。
「俺に雷は効かねぇよ」
飛んできた土を払いながらさらに一歩。
「やる気か?言っとくけど、俺は手加減できねぇぞ!」
飛びかかってきた太一にそう言って、地面に手をつく。
太一の足下の土が盛り上がり、その場を貫いた。
すでに太一は避けていたが、その隙に結界を張る。
「この辺吹っ飛んでもらっても困るし」
呟きながら突っ込んでくる太一に向かって腕を払う。
それに合わせていくつもの竜巻が生まれた。
それを太一が力技で吹き飛ばすと同時に足下から岩の鎖が伸びてきて絡み付く。
「悪いな」
身動きがとれない太一の前に立った。
肩に手をかけ、反対の手を手を握りしめる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
太一が何か呟いた。
「?」
山口は手を止め、聞き取ろうと顔を近づける。
瞬間。
「!?」
肩に置いた手に痛みが走る。
とっさに手を離すと、絡み付いていた鎖がどろりと溶けた。
「うっそ!!!?」
山口が声を上げたと同時に目の前に雷光。
慌てて土壁を作るも、水による砲撃で簡単に流れていく。
「マジかよ!!」
水砲と電撃が同時に繰り出されて、次の瞬間、山口を巻き込んで大爆発を起こした。









大量の水蒸気が辺りに立ちこめる。
それが退く前に、太一は刀を手に突っ込んでいく。
ギィンと甲高い金属音が響くとともに、周囲の水蒸気が吹き飛ばされた。
太一が振りかぶった刀を、大振りの剣で受け止める山口の姿が現れる。
左の肩には刀傷。血は流れていないが焼け爛れた痕がある。
「・・・・・・・・・・・・・水と雷は対する力だから同時に使えないんじゃねぇのかよ!!!!」
怒り混じりに刀を払うが、太一はそれを軽々避けて山口の左腕を掴んだ。
「!?・・・・・・・っぅあああ!!!!」
掴まれた箇所が焼ける感覚。
山口は思わず右手で太一を殴りつける。
「がっ!!」
ガードもなくそれを受けた太一は思いっきり吹っ飛んで、木の幹に激突した。
木々の中でも一際太かったそれは、勢いでぶつかった箇所からボッキリ折れる。
息を荒くして、手の感覚がない左腕を見ると、掴まれていた箇所はほぼ炭化していた。
「・・・・・・・・・ありえねぇ・・・・・・・・・・・」
呟きながらぐったりしている太一に走り寄り、手刀をくらわせて完全に気を失わせる。
太一のまぶたが落ちて、心の旋律が聞こえなくなったのを確認して、山口は座り込んだ。
「・・・・・・・・うあー、手抜きしすぎた・・・・・・・・」
使い物にならなくなった腕を眺めてぼやく。
「・・・・・・・・・シゲ以来だし、こんな怪我させられたの・・・・・・・・・」
自嘲気味に呟いて、太一を片腕で脇に抱え羽根を広げた。
「・・・・・・・・・・いってぇ・・・・・・・・・・・・・さっさと帰ろ・・・・・・・・・・」
疲れ果てた顔でため息一つ。
白い翼に風を含ませて、その場から飛び去った。








満身創痍でボロボロの太一を、同じくボロボロの山口が連れて帰ると、出迎えた松岡が叫びを上げた。
「腕が!!兄ぃ腕が黒くなってるよ!!!!」
「あぁ。炭になっちまった」
「す・・・・・・・・・笑い事じゃないよ!!!!」
笑顔の山口に、真っ青な顔になる松岡。
「まずこっちを先に頼むわ」
「太一君!!?」
「俺より重傷だから。シゲ、頼むわ」
リビングの出入り口に立っていた城島に笑いかける。
「・・・・・・・・・・何で言わん」
「説教は後で聞くよ」
眉間にシワを寄せる城島に、山口は力なく答えて自室に引っ込んだ。
「松岡、部屋まで連れてってや」
どうして良いか解らないでいる松岡に、城島は指示を出した。





























いたい

痛い

体中が痛いよ




また否定された

何で生きていちゃいけないんだろう

どこで生まれようが同じものなのに

神様はひどい

何で階級なんてつくったんだ

嫌いだ

ぜんぶ、全部

許さない

許さない


でも、そういう自分が一番嫌い

許せない





























どこかに上がるような感覚。
光が眩しくて、うっすら開けた目をしかめる。
「あぁ、起きたか」
視界に現れたのは山口。
「・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・」
背景には見慣れた自分の部屋の部屋の家具が見える。
「・・・・・・・俺の、部屋・・・・・・・・・?」
「腹」
身体を起こしながら見渡すと、山口が口を開いた。
「え?」
「風穴開いてたけど、大丈夫か?シゲが何とかしてくれてたみたいだけど」
その言葉に、着ていたTシャツをめくって腹部を見る。
そこには何の痕も残ってはいなかった。
「お、大丈夫そうだな。よかった、よかった」
露わになった腹部を確認して、山口はそう言いながら太一の頭を軽く叩く。
「!」
それに対して、太一は身体をビクつかせ、身を引いた。
「あ・・・・・・・・」
驚いた表情を浮かべる山口に、太一はしまったという顔をする。
「・・・・・ま、しゃーないわな」
「・・・・・・・・・・」
「それだけのことを俺たちはお前にしてきたわけだから。別に悪く思う必要はねーよ」
苦笑交じりの言葉。太一は顔を伏せた。
「何があったか覚えてるか?」
「・・・・・刺されて・・・・・・・・・一斉攻撃くらって・・・・・・・・何か言われて・・・・・・・・・・」
「後は覚えてない、と」
後を引き継いだ言葉に、太一は黙って頷いた。
「何言われたかも覚えてないか?」
「・・・・・・・・わかんない・・・・・・・」
「そうか、ならいいや。無理に思い出す必要もねぇし」
ぎし、っと座っていた椅子を鳴らして、山口が立ち上がる。
それを目で追った太一が、山口の左腕に巻かれていた包帯に気付いた。
「・・・・・・・・・それ・・・・・・・・」
「あ?これ?」
太一の言葉に山口が腕を上げる。
「何でもねーよ」
「・・・・・・・それ、俺がやったんでしょ?」
険しい顔で太一が小さく言った。
「・・・・・・・薄っすらとだけど、覚えてるよ。何かが焼ける感触」
左手を握り締める太一を見て、山口はもう一度椅子に腰掛けた。
「・・・・・・・・・もう一人俺がいるんだ。そいつが全部消しちゃえばいいって、そう言うんだよ・・・・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・俺は、ヤなのに・・・・・・・・・・・・・・全部許して忘れたいのに・・・・・・・・・・・忘れさせてくれない・・・・・」
心のどこかが責め立てる。


許すな

忘れるな

奴らに報復を


「・・・・・・・・・特に、悪魔としての力を使うと余計に聞こえるんだ・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・シゲには?」
「・・・・・・・・・言ってない。言えないよ、こんなこと・・・・・・・・・・」
変な目で見られたら?
見捨てられたら?
そんなことを考えたら、何も出来ない。
「・・・・・・・・・・・だから、使いたくなくて、使わないから余計に制御できなくて・・・・・・・・・」
俯いて、小さい声で、ポツリポツリ。
「・・・・・・・・・だから・・・・・・・・その・・・・・・・・・・・・・ごめん、なさい・・・・・・・・・・」
最後は消え入るような声で、太一はその言葉を口にした。
「・・・・・・・・・腕、と、肩・・・・・・・・・怪我させて・・・・・・・・・・・・・・・・」
「気にするな。事故だよ、これは。別に腕がなくなったわけじゃないし」
「でも・・・・・・」
「身体の傷は消えるから大丈夫。ある程度はシゲに治してもらったから、多分痕も残んねぇよ。
 それに、お前が俺の事どう思ってるかは知らねーけど、俺はお前を家族だと思ってるから。
 家族を助けるのは当然だろ?腕の1本や2本、構やしねぇよ」
山口がそう微笑むと、呆然とした表情を浮かべた。
「・・・・・・俺だけじゃないと思うぜ?シゲも、松岡も、長瀬だって同じふうに思ってるって。
 そうじゃなきゃ、シゲはお前を傍に置いとかねぇよ。ま、普通の奴はまず拾いもしねぇだろうけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「確かに見捨てられるのは怖いけどな。でも簡単に誰かを見捨てられるくらいなら、ここにいねぇよ。俺ら」
顔を上げる。山口は苦笑を浮かべていた。
「許せなくてもいいんじゃね?人間だって、一生かかっても許せずに、地獄に行っちまう奴だっているんだし。
 俺らは人間と時間尺度が違うけど、人間より優れてるわけでもない。無理に気持ち押し込めたって辛いだけだろ。
 許せない自分を認めてやれよ。自分が自分を認めないで、誰が認めるんだよ。いいじゃん、聖人君子でなくても」


泣きそうになった。

ずっと前から、こういうことを誰かの口から聞きたかった。

そのままでいいと。


「俺が聖人君子にはなれねぇから、他人に完璧を求めたりはしないね。少なくとも、ここにいる奴はそういう奴だよ。
 せめてさ、自分の上司ぐらい信じてやれよ。さっきの告白聞いたら、あのヒト泣くぜ?寂しがって」
クスクス笑いながら、山口はそう言って立ち上がった。
「今日一日は寝てな。復活したらコレしっかり治してくれよ」
苦手なのにってシゲに怒られちまってな。
ちゃんと治ってないんだ、と笑いながら、扉に手をかける。
「じゃあ」
「・・・・・や、まぐち、くん」
「ん?」
「・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・・・・えっと・・・・・・・・・その・・・・・・・・・・・・・・・」
「?」
「・・・・・・・・・・ありが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俯いて、少しきょどきょどしながら、太一は小さくそう言った。
山口は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になる。
「おう」
そう答えて、部屋から出て行った。
「・・・・・・・・泣かれるのは困るなー・・・・・・・」
山口が出て行って、しばらくして、ポツリ漏らした。
「・・・・・・・・・ウザ過ぎ」
その様子を想像して、太一は顔をしかめる。
「・・・・・・・・・そうだよね・・・・・・・・・・・」
そして、小さく笑って、もう一度横になった。




今度目が覚めたら、きっと受け入れられる。






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戦闘シーンは難しいです。

ということで、一つ屋根の下でT2でした。
時間軸としてはあんまり細かくは決めてませんが、5人で同居始めてすぐの頃になるのかな?
もしかしたらもっと後の話かもしれません。
今のところ本編でもたいっさんは面と向かってぐっさんを呼んでないので。

補足ですが、岩の鎖が溶けるところと、腕が焦げるところは、雷の力の応用です。
電熱線を思い浮かべてもらえればわかるかと。
熱を発生させたということにしておいてください。
で、水と雷で爆発が起きたのは、電気分解で水素が発生したからです。
すみません。こうやってこじつけないと書けないんです・・・・・。

いかがでしょうか、如月 雪さま。
お気に召さなかったら書き直しますので、遠慮なくおっしゃってくださいね。
リクエスト、ありがとうございました!!

あと、思いついたので、書いてみました。
よろしければこっち(↓)もどうぞ。

その後(リセッタ)

2006/09/08




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