「ねぇ、マツオカく〜ん」
「・・・・・・・・・何だい、ナガセ君」
ザクザク歩くマツオカの後ろを付いて歩くナガセが声を出した。
「暗くなってきましたよ」
「・・・・・・・・・・そうですね」
周囲には鬱蒼と木々が茂り、青々と広がる葉の隙間から漏れてくる陽の光は、確かに赤みがかかってきている。
「シゲル君がね、『日の暮れる前に帰ってきぃよ』って言ってたよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「出口ってこっちで合ってるの?」
「・・・・・・・・・・・んなもん知るかぁ!!」
そう叫びながらマツオカは足を止め、くるりと振り返る。
「そもそも!!お前が走って突っ込んでくから迷ったんだろ!!」
「だって森なんて初めてだったんだもん!!」
「そんなん言い訳になるか!!こっちは目印付ける間もなく走ってったお前を止めようと追いかけてやったんだよ!!」
「それで迷ってちゃ意味ないじゃん!!マボの役立たず!!」
「何だとぉ!!」
ギャンギャンと犬のケンカのように言い合う2人が、言い争っていても出口は見つからないことに気付いたのは数十分後。
「・・・・・・とりあえず歩きましょーか・・・・・・・」
「・・・・・・・・・そーだな・・・・・・・・・」
再びとぼとぼと緑の中を歩き出す。
砂漠を走行中、オアシスの傍に形成されていた正常種の植物による森を発見し、感動した2人が迷い込んだのは、この数時間前のことだった。
「あ!!」
わずかに見える空がさらに赤くなってきた頃、ナガセが突然声を上げた。
「何だよ。やばい動物でもいた?」
「違うよ!!マボ見て!!出口!!」
いささか高揚した様子でナガセが指さした方には、木々の隙間から覗く見慣れた黄土色の大地。
「マジだ!!やったぞナガセ!!これで帰れる!!」
「ホント!?やったぁ!!」
喜びに声を上げ、2人はそちらに走り出す。
「マボ!!早く!!」
「わぁってるよ!!」
そして、木々の群を越えた向こうには。
「・・・・・・・・・・どこここ」
明らかに入った所とは異なる妙に大岩の多い砂漠が広がり、少し離れた所に村ような家の群れ。
「あれー?だん吉ないし、シゲル君もぐっさんも、タイチ君もいないよー?」
ナガセが周りを見回して、ほのぼのと言った。
「そんなのほほんと言うことかー!!間違えたんだよ!!入った所と違う所に出たの!!それっくらい解るだろ!!!」
「そういうことっすか!!・・・・・・・・・・マボのバカー!!!」
合点がいったという表情で手を叩くナガセが次の瞬間そう叫んだ。
「嘘つきー!!もう日が沈んじゃうじゃん!!今日の晩御飯どうすんのさー!!!」
「晩飯の心配かよ!!そうじゃないだろー!!」
再び言い合いが始まった。
その時。
「!」
ナガセが不意に何かに気付いた。松岡の背後にある、一際大きい岩に視線を注ぐ。
「・・・・・・何だよ、いきなり・・・・・・・」
「何かいる」
「・・・・・・・・何、が・・・・・・・・?」
その言葉にマツオカが振り返る。2人ともタウを呼び出して構えた。
そして、岩の上部から覗く小さな目が2つ。
「・・・・・・・・子供・・・・・・・?」
「あっ、みつかった!!」
「にげろ!!」
ナガセが呆気にとられて呟くと、岩の向こうから覗いていた小さな影が2つ、走って逃げた。
「あ!!待って!!ちょっと!!」
それを追ってマツオカが走り出す。ナガセも慌てて後を追った。
「ちょっと、マボ!!何で追っかけるんですか!!」
「子供がいるってことは大人もいる!!その人に道訊けばいいだろ!!」
「そっか!!マボ頭いい!!」
ナガセがすごい勢いでマツオカに追いついて、さらに抜かして前を走る子供2人に迫っていく。
「ぎゃー!!きたー!!」
「シン!!もっとはやくはしって!!」
小さい影2つは悲鳴を上げながら集落に向かって走っていく。
「待って!!」
「いやー!!」
「まてっていわれてまつかー!!」
民家が近くに見えてきた時、そこに背の高い影が立っているのが見えた。
「シン、タツ!」
「あ!!おとーさん!!」
「ジュンさん!!たすけて!!」
子供達はその人に駆け寄って、その後ろに隠れた。
その人の顔が確認できる所まで近付いて、ナガセは足を止めた。少し遅れてきたマツオカも立ち止まって息を整える。
「・・・・・・・あの・・・・・・・・」
まだ少し息が荒いまま、松岡はその人に話しかけた。
「こいつらもりからきたんだ!!」
髪の短い方の子供が後ろからジュンさんと呼ばれたその人に言った。
「森から来た?あぁ、道に迷ってしまったのかな?」
そう言って、にっこり笑ったその人の目は夕日の色に似た赤い色をしていた。
「あ、赤目・・・・・・・・」
「珍しいかい?まぁ、私達の民族はそれほど数は多くない。見たことなくて当然だろうけど。
大丈夫。噂にあるように食人民族ではないよ。目の色素が赤いだけだから」
口を噤んだ2人に、その人はやわらかく微笑えむ。その笑顔に、2人はジョウシマを思い出した。
「・・・・・いえ。俺たちが今まで行ったところでは、赤目の人は皆軍とか議会に・・・・・・・その・・・・・・・」
「あぁ、そうだね。最近はそういう傾向にあるようだ。
とりあえず、日も暮れたことだし、我が家に来ないか?大したことはできないけれど」
「「・・・・・・・・」」
悩んだ結果、2人はお世話になることにした。
「そうか。旅をしてるんだね」
釜戸に火がともっている。ランプの灯がやわらかく部屋の中を照らしていた。
彼はジュンと名乗った。
子供2人は、色黒で短い黒髪の少年がタツ、緩やかなウェーブのかかった長めの茶髪の方がシンと言うそうだ。
「あの2人は目、赤くないんですね」
「そうだね。シンは私の息子なんだが、母親も私も赤い目なのに生まれつき赤くないんだよ。
タツは2週間ほど前に保護した迷子でね。赤目の民族じゃない。多分近くの集落の子供だろう」
穏やかに微笑みながら、ジュンは視線を子どもたちに向ける。
シンとタツの2人はすっかり打ち解けて、今はナガセと遊んでいた。
「多分、君達はあの森の反対側に出てしまったんだろうね。よくそういう人がここには来る。
明日になったら馬を出そう。馬に乗って回れば、あの森は1日で1周できるから」
「ありがとうございます。・・・っと、馬、ですか?」
少し戸惑った様子でマツオカが訊き直す。
「ああ。ここには車はないんだ。燃料もないし、太陽電池の技術もあるけれど、ここでは物が揃わないから」
「そうですか」
「明日は早く出よう。君達も早く仲間と合流したいだろうし。ゆっくりしていくといい」
「ありがとうございます。助かります」
マツオカは深々と頭を下げた。
「ねー、これってビコ?」
タツとチェスをしていたマツオカの膝の上にシンが乗ってきて、腕のブレスレットを突っついた。
「ビコ?」
「うんとね、かたちかわる?」
「タウって事?」
ナガセがそう首を傾げると、シンの顔が輝く。
「そう!!」
「そうだよ。俺の尊敬する人が作ってくれたのよ」
「へぇー。おとーさんもつくれるんだよ!!ボクもおっきくなったらおしえてもらうの!!」
嬉しそうにシンが言った。
「おれシンにつくってもらうんだ」
タツがおれもおれもと声を上げる。
「そうなんだ」
「うん。ボクがいちばんさいしょにつくるのはタツにあげるやくそくなんだよ」
ねー、と2人は嬉しそうに首を傾ける。
「いいなぁ。俺のも作ってよ」
2人の様子にほのぼのしながらナガセが言った。
「いいよ!やくそくね!」
そう言ってシンがナガセに小指を差し出した。
ナガセは笑顔でそれを小指でつなぐ。
「おれのあとだからな!!」
「解ってるよぉ」
ちょっとだけ頬を膨らませてタツがシンに抱きついて、ナガセを睨む。
「じゃあタツの後にお願いします」
「あ、俺もお願いしようかな」
ナガセが笑いながら頭を下げて、マツオカも便乗した。
「もう予約がいっぱいじゃないか、シン」
傍で聞いていたジュンが笑う。
シンは指を折り曲げて必死に覚えていた。
その夜。深夜のことだった。
突然の爆音と悲鳴に2人は目を覚ました。
「なっ…何!?」
「爆発!?」
慌てて上着を着て、窓の外を見る。近隣の家々から火の手が上がり、空が赤く染まっていた。
「マサヒロ君、トモヤ君!!起きてるか!?」
窓の外に気を取られていた2人を、勢いよく戸を開けたジュンが呼んだ。
「ジュンさんどうしたんですかこれ!!」
「家が燃えてますよっ!!」
動揺して声を上げる2人に、ジュンは慌てながらも冷静に告げる。
「軍が攻めてきたんだ。火が回る前に逃げよう」
その言葉にマツオカとナガセは窓から離れた。
走り出したジュンに着いて煙の立ちこめる家から脱出し、集落の中を駆け抜けて、元来た森の前に出る。
そこには集落中の人が集まっていた。
「皆無事かっ!?」
「アキラとサイがやられた!!」
「ユーリがいない!!」
あちこちから声が上がる。それを聞いて、ジュンの顔が曇った。
「3割か・・・・・・・」
「族長!!」
後ろからかけられた声にジュンが振り返る。そこには若い女性が1人。
「どうした」
「シン様とタツ君がいないんです!」
「何!?・・・・・・・・・・皆はここで怪我人の治療を!!私は探しに行ってくる!!」
ジュンは血相を変えて、炎が上がる集落へ走る。マツオカとナガセもその後に続いた。
「君たち!!戻るんだ!!」
「俺たちにやらせてください!!助けてもらったお礼です!!」
ジュンに追いついて、ナガセが大声で言った。
「ジュンさん族長なんでしょ?みんなの傍にいなきゃ!!」
「しかし・・・・・・・」
「大丈夫です!俺たちこういうの慣れてますから!!」
さらにマツオカが言うと、ジュンは逡巡して、小さく言った。
「・・・・・・・・・・すまない・・・・・・・・・。2人を頼む」
「マボっ!!行こう!!」
「おうよ!!」
足を止めたジュンを追い越し、2人は一気に速度を速めてジュンの家に向かった。恐らくそこにいるだろうと踏んで。
「俺中入るよ」
「1人でいけそうか?」
「大丈夫」
辿り着いたそこは、すでに完全に火が回っていた。
「じゃあ俺はこの辺見て回ってくるから、いたらコレ破れ」
そう言ってマツオカが小さな紙を1枚渡す。
「破れたら判るから」
「うん」
「魔法使っても爆発させんなよ」
「判ってる」
互いの拳を突き合わせ、マツオカは再び走り、ナガセは火の中に突っ込んでいった。
「うわっ!めっちゃ燃えてるじゃん!!」
入ると同時に押し寄せてきた炎と熱気に、ナガセは思わず声を上げた。
「シーン!!いるの!?シン!!」
まだ通れる所を走り、あるだけの扉を開いて回る。
そして最後の扉を開けた。
「いた!!シン!!」
「!!トモ!!」
唯一まだ火がそれほど回っていない部屋の中。シンは何かを引っ張り出そうとしていた。
「何してんの!!」
「これもえちゃだめなの!!」
マツオカにもらった紙を破り、火の粉を払いながら中に入ると、シンは泣きそうな顔になりながらナガセに言った。
「何?これ」
「・・・・・・・タツのだいじなもの」
それは小さなリングを通したペンダント。
「・・・・・・・・ボクにくれたのに・・・・・・・」
「これだけ?他にはない?」
こっくりと頷いたシンを見て、ナガセは抱き上げる。
「ここは危ないからもう行くよ」
「うん」
元来た扉の向こうを見るが、どうにも戻れそうにない。
ナガセは自分の着ていた上着をシンに被せ、窓を突き破って外に出た。
「マボ!!」
外にはすでにマツオカがいた。
「いた!?」
「シンだけ!!タツはいないんだ!!」
「俺もタツは見つけらんなかった」
2人の会話にシンの目が潤む。
「大丈夫!絶対見つけるから!!」
ナガセがそう言ってシンを抱きしめる。マツオカも頭を無造作に撫でた。
その時、遠くから家屋の崩れる音とともに甲高い声が聞こえた。
「タツ!!」
シンが声を上げ、ナガセの腕から飛び降りて走り出す。2人は慌てて後を追った。
「ホントにタツ!?」
「タツのこえだったもん!!」
「よっしゃ!!」
その言葉に、マツオカがシンを抱き上げ、全力疾走で声の聞こえた方に向かう。
そして。
「いた!!」
前を走っていたナガセが声を上げ、そのままタウを呼び出してさらに加速した。
「ナガセっ!?」
「軍人に捕まってる!!」
その向こう、少し開いた空間に、数人の軍人と抱き上げられながらも暴れる小さい影。
「その子を放せぇ!!!!」
ナガセが叫びながら携えていた長い棒を振り回す。
「何だ貴様!!」
「その子の保護者だ!!」
「そんなわけあるか!!」
タツを抱えた軍人は下がり、他の者達がそれぞれタウを手にナガセを止めに入る。
それらを全て薙ぎ倒し、タツに手を伸ばした瞬間、黒い影が遮った。
「!?」
金属と金属のぶつかり合う甲高い音が響く。
咄嗟にタウで防御したナガセの鼻先10センチの所に鈍く輝く鋭い刃。
「・・・・・・・・やるね、お前」
刀の持ち主が小さく笑った瞬間、ナガセはタウで刀を凪ぎ払う。
瞬時にそれを棒状から剣に変え、男に斬りかかった。
「!?何だそれ!!タウか!?」
それを大きく跳んで避け、男は嬉しそうに声を上げた。
フードに隠れて顔は見えないが、楽しそうに刀を持ち直す。
「その子を返せ!!」
「何を言ってる!!お前等がさらったんだろう!!」
ナガセの叫びに後ろの軍人が声を上げた。
「中佐、ここは私に任せてお退き下さい。もうすぐR3で吹っ飛ばすんでしょう?」
「お前!!軽々しく口にするな!!」
「大丈夫ですよ。もう逃げれるはずがない」
「マボ!!やばい!!R3だ!!」
「マジかよ!!」
ナガセが慌てて追いついてきたマツオカに忠言する。
「おい・・・・・解ってるな?」
「・・・・・・・・イエス、サー」
軍人の言葉に男が構えた。
「マボ、絶対にタツは連れて帰る。だからシンと先に戻ってみんなに伝えて!!」
「判った。絶対連れて来いよ!」
「タツ!!タツ!!!」
マツオカの腕の中でシンが必死に手を伸ばす。タツがそれに気付いて再び暴れだした。
「シン!!はなせよ!!おれはシンといっしょにいくんだ!!」
タツが声を上げる。中佐と呼ばれた軍人が小さくため息をついた。
「・・・・・・・ご子息、失礼します」
そう言って、タツに手刀を加え、卒倒させる。
「タツ!!」
それにシンが悲鳴を上げ、同時にナガセが走り出した。
「マーくんはなしてぇ!!タツがいっちゃうよぉ!!」
目に涙を浮かべてマツオカの胸を叩く。
再び金属のぶつかり合う音が響いたのをちらり見て、軍人が踵を返し走り出した。
「タツ!!」
瞬間シンを地面に置き、マツオカが走る。黒尽くめの男がナガセをふっ飛ばし、それを遮った。
「行かせないよ」
「邪魔だ!!どけよ!!」
「ベタな台詞だが、俺を倒してから行けよ」
そう言って、男が鼻で笑った。
「ふざけんなぁ!!」
マツオカがタウを呼び出した時、ナガセが叫んだ。
「マボ!!シンが!!」
振り返った先、降ろしたところに影はなく、先に行った軍人の方に走り出していた。
「シン!!」
「おいおい、他所見してていいのか?」
男が振りかぶった瞬間、ナガセがその懐に飛び込んだ。
「!!やるね、お前!!」
その隙にマツオカがシンを追った。軍人は迎えに来ていたジープに乗ってしまい、すでにもう姿は見えない。
「シン!!」
少し行った先でシンが膝を着いていた。
「シン!」
「・・・・・・・・・・タツが・・・・・・・・・・・」
グスグス泣きながら、シンはマツオカに抱きつく。
「・・・・・・・・・・ごめん、シン・・・」
マツオカはシンを抱きしめて、謝るしかできなかった。
「お、もう中佐殿は行ったか。じゃあ俺の役目も終わりだな」
ぽつり男が言って、ナガセに斬り込む。
「くっ!!」
「お前らよくやったよ。でもまだまだそんなんじゃ俺には勝てない。悔しかったら俺を追いかけて来いよ」
重い斬撃を何とか防いだナガセに男は言った。
「俺は“漆黒”だ。兄貴によろしく伝えてくれよ」
そのままナガセを薙ぎ払い、男はそう笑う。
その時捲れたフードの隙間から見えた男の赤い瞳は炎の色を受けて、真紅に見えた。
「ナガセ!!」
シンを連れたマツオカが戻ると、ナガセがその場に腰を降ろして俯いていた。
すでに辺りに黒ずくめの男の姿はない。
「ナガセ?」
「マボ・・・・・・・」
顔を覗き込まれて、ナガセは泣きそうな顔でマツオカを見る。
「・・・・俺負けちゃった・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・仕方ないよ・・・・・。あいつ、兄ぃぐらい強いもん」
「でも、悔しいよ・・・・・・・・!!あんだけ強気なこと言っといて負けて!!」
目元をごしごし擦りながらナガセは立ち上がる。
「・・・・・俺絶対忘れない!今度会ったら絶対勝つ!!」
そう言って、シンを抱きしめて、耳元で小さくゴメンと呟いた。
ボロボロで3人が戻ると、ジュンが出迎えてくれた。
2人の話とシンの様子から、何があったか把握できたようだ。
「そうか、タツは・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・すみませんでした・・・・・・・・・」
意気消沈する2人をジュンは責めることはしなかった。
「シン。よく頑張ったな・・・・・・こんな火傷までして・・・・・・・」
そう言ってシンの左の袖を捲る。慌てて2人が見ると、左腕は爛れていた。
「シン!痛くなかったの!?」
「・・・・・・・・ タ ツ が い な く な る ほ う が い た い も ん ・・・・・・・・・・・・・・」
シンは小さい声で呟く。
「・・・・・・・シン。あっちで治してもらってきなさい」
ジュンが傍にいた女性にシンを預ける。
「あの、早く避難しないと・・・・・・・・・」
「大丈夫。私達はすぐに移動できるから。それより君達だ」
ジュンは森に目をやった。
「明日、と言っていたけれど、明日は無理だし、残念だが馬も貸せなくなってしまった。
だが、ここから森の周りを歩いていくのもその爆弾が打ち込まれるなら無理だろう。
森をまっすぐ横断していけば帰れるはずだ。まっすぐ行けばそう時間はかからない」
そう言って、傍にいた誰かに何かを耳打ちする。
「途中まで送っていく。さあ、急ごう」
マツオカとナガセの返事を待たず、彼は森の中に入っていってしまった。
慌てて2人はそれを追いかける。
「ジュンさん!!ちょっと待・・・・・・・・・」
「そのタウは誰が創ったんだい?」
ナガセとマツオカの呼びかけを遮って、ジュンが訊いた。
「・・・・・・・これは俺たちの恩人が創ってくれたんです」
「・・・・・・・・そうか。いい出来だ」
ジュンはとても満足そうに微笑んだ。
「さあ、ここをまっすぐ行くんだ」
そして立ち止まって、森の奥を指差す。
「ジュンさん!訳解んない、何でこんなに急いで・・・・・・・・・・」
「そうしないと帰れなくなるからね。私も急いで戻らなければ」
マツオカとナガセの背を押して、ジュンは言った。
「これから先、また出会うこともあるだろう。それまで君達が無事であるよう、祈る」
これ以上追求しても答えはもらえないだろうことを理解したマツオカは頭を下げる。
「短い間でしたがありがとうございました。このご恩は一生忘れません。あなた方もどうか無事で。
・・・・・・・・シンに、よろしくと伝えてください」
「え?ちょっと待って、マボ!」
そして、クエスチョンマークを浮かべるナガセの腕を引っ張って、ジュンが指差した方へ歩き出した。
「・・・・・・・・シゲルとタツヤによろしく伝えてくれ」
ジュンのその声に2人は振り返ったが、そこにはもう誰もおらず、緑が広がるだけだった。
「・・・・・・・・・・・俺、シゲル君とヤマグチ君の名前言ったっけ?」
「・・・・・・・・・ううん。俺も言ってないよ」
2人が首を傾げた時、後ろから声がかかった。
「あ!!いた!!いたよ、ヤマグチ君!!」
「おー、やっと見付かったか」
元々きつい目をさらに吊り上げて走ってくるタイチとのんびりと歩いてくるヤマグチ。
「タイチ君!!ヤマグチ君!!」
「何やってんだボケー!!」
久々の再開にナガセが喜んでタイチに走っていき、回し蹴りを喰らって地面にダイブした。
「すぐ帰って来いって言っただろ!!」
半分逝ってしまいそうになっているナガセの胸倉を掴んでガクガク揺すりながらタイチが怒っている。
「兄ぃ」
「道にでも迷ったか?」
「・・・・・・・うん」
少し気落ちした様子のマツオカに、ヤマグチは腰のあたりを軽く叩いた。
「・・・・・・・・お帰り」
「・・・・・・・ただいま」
だん吉の元に戻った4人は、特にヤマグチを除いた3人は唖然とした。
「・・・・・・・・・・何やねん」
その視線の先には怪訝な顔をしたジョウシマ。
木陰にテントを張り、だん吉の後部のドアを開けて、そこに座ってうちわで扇いでいたのだが。
「「「シゲル君がノースリーブ着てるー!!!!」」」
唖然としていた3人は声を上げた。
「着たらあかんのか」
「違うけど、いつも長袖じゃん」
固まっている下2人に代わってタイチが答える。
「さすがに暑いねん、長袖。いつもは我慢しとったけど、ここは木陰多いからなぁ。紫外線の心配せんでええし」
「あれ、シゲル君これどうしたのさ」
暑そうにうちわを扇ぎ続けるジョウシマの腕を見て、タイチが指差した。
「あ?これか?何や、ちっちゃい頃家が焼き討ちにあってなぁ。宝もん取りに戻ったら火傷してもうてん」
その指先、左の腕には広範囲に及ぶ引き吊れたような痕。
「アンタぐらいの力持ってたら消せるんじゃないの?」
「ワザと消してへんの。大事な思い出やから。なぁ、ヤマグチ」
苦笑いしながらジョウシマはヤマグチに話を振る。ヤマグチもそれに答えて苦笑した。
「まぁね。俺はあんまり覚えてないけど」
「わ、ヒドイわー。ボクあん時追いかけて転んだんやでー?しかもその後変な爆弾で爆撃されるし」
「そういえば変な奴が来た日じゃなかったか、それ」
ジョウシマとヤマグチの思い出話を聞いて、マツオカとナガセは顔を見合わせた。
「・・・・・・・・ねーシゲル君」
「んー?何や、ナガセ」
「ちっちゃい頃ってもしかしてシンって呼ばれてた?」
ナガセの問いに、ジョウシマが首を傾げた。
「んー、そう呼ばれとった時もあるけど、何で?」
「ううん。何でもない」
「じゃあ兄ぃって、タツって呼ばれてた?」
「あ?そりゃタツヤだからそう呼ぶ奴もいるな」
ふぅん、と2人が小さく唸る。
「じゃあ、シゲル君のお父さんって、ジュンって呼ばれてた?」
「お?何で知っとるん?」
ジョウシマが再度首を傾げるが、2人は何となく、と言葉を濁す。
「何や?」
「シゲル君とヤマグチ君によろしくってさ」
「タウの出来がいいって言ってたよ」
マツオカとナガセはもう一度顔を見合わせて、小さく笑った。
意味が解らない3人は不思議そうに顔を見合わせていた。
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何だかグダグダだ・・・・。まぁ、いつものことですけど。(開き直り)
不思議さが伝わればそれでいいです。
ジュンと漆黒はあの人たちの予定なんですけど、どっちが誰かは決めてません。
そうするともう1人必要になりますね。・・・・・・・・どうしよう。
* R3 : RRR爆弾(Reduced Residual Radiation bomb)
残留放射能低減爆弾。放射能量が少なく、爆風や熱による破壊力を強めた核爆弾。
(出典:旺文社 カタカナ語新辞典 第五版)
2006/06/01
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