砂漠を走行中、突然岩巨人(ロックゴーレム)の大群に襲われた。
野生なのか、誰かの使役なのかは分からなかったが、だん吉では振り切れなかったので応戦した。
それを仕留めるのに手こずっている間に、停車させていただん吉が盗まれた。


荷台で寝ていたジョウシマを乗せたまま。














「まとめるとこんなとこでしょ」
「そんなとこだな」
タイチとヤマグチが岩巨人の残骸に腰掛けてのんびりと状況整理をしていた。
「2人ともなんでそんなに落ち着いてんの!!シゲルくん攫われちゃったのよ!?」
真っ青な青空の下、上2人ののんびり具合に、真っ青な顔をしてマツオカは声を上げる。
「えー?だってシゲルくんだよ?殺しても死ななそうじゃん?」
「そうだな」
タイチの言葉にヤマグチが同意するとマツオカが脹れる。
「ってか、シゲルくん大丈夫なんですか?寝始めて4日も経ちますよ?」
一回も起きてないし、と、ナガセが心配そうに呟いた。
「あぁ、あの人普段寝てないからね。時々ああなるんだよ」
「寝てないの!?」
「寝つきが悪いうえに眠りが浅いらしくて寝れないんだと。本人も眠くないらしいし」
長い付き合いで慣れたのか、あっけらかんとヤマグチが言う。
「まー、起きたら自分で帰ってくるんじゃない?」
「明日ぐらいに『疲れたわー』、とか言って現れるかもよ」
やはり緊張感無くケタケタ笑う上2人にマツオカは軽くキレた。
「・・・ここは砂漠なんだよな・・・」
マツオカの呟きを3人は不思議そうに聞く。
「いまさら何言っ」
「深夜は氷点下か・・・今日は野宿なのに・・・」
その言葉にタイチが固まった。
「・・・そういえば食料もないよなー・・・今夜は断食か・・・」
ナガセの顔が青くなる。
「あー、確かシゲルくん、さっきの街で高くて美味い酒手に入ったって喜んでたっけ・・・」
ヤマグチが手遊びしていた小石が粉々に割れた。
「「「今すぐ探しに行こう(ましょう)!!!」」」
ヤマグチ、タイチ、ナガセが声を揃えて立ち上がる。
マツオカはひっそりとガッツポーズをとった。



























「なぁナガセ。魔法で行き先判んねぇのかよ」
「うう〜ん・・・・・・・。何かそんな呪文があったと思うんですけど、思い出せない・・・・・・・」
「早くしないとタイチが壊れるぞ」
捜索を始めて早1時間。4人は砂の上にかすかに残るタイヤの跡を追っていた。
ヤマグチの言葉通りに、一番前を歩くタイチは頭の上から湯気が出てきそうな様子だ。
「あー、タイチ君アッツイのダメですもんねー」
「もうそろそろ臨界点だと思うけど」
ヤマグチがそう言った瞬間、ぶっちん、と音を立てて何かが切れた。
「ナ〜ガセっ」
くるり振り返ったタイチはとても爽やかな笑顔を浮かべていた。
周りに花を飛ばしながらタイチがナガセに駆け寄る。
「タ・・・・タイチくん・・・?」
「その暑っ苦しいパーマ頭剃って、丸刈りにしてやろう」
言葉とともにタイチの手に現れたのは、彼愛用のタウ。
蛟龍を象った小振りな偃月刀が、その滑らかな刃先を光らせていた。
「ぎゃぁぁぁぁああああ!!!!それだけは勘弁してくださいよぉぉおお!!!!!!」
「うるさい!!!元はといえばお前が岩巨人に大地系の呪文使ったのがいけないんだろぉが!!!」
このクソアチィ中元気だなー、と、滝のような汗を流しながらヤマグチが騒ぐ2人を眺める。
「・・・・・・・・・・・あ。ねぇ兄ぃ。紙とペン持ってない?」
そんな中、今まで黙っていたマツオカが急に声を発した。
「あ?紙とペン?」
「うん。いい事思い出したんだよね」
ふふんとマツオカが笑う。
「紙、ねぇ・・・。あぁ、これならあるぞ?」
ヤマグチが、身につけているウェストポーチからA4ほどの紙を取り出した。
「何これ」
「お前の手配書」
「へー。・・・・・・・・・・・・何ですと!!!?」
あっさりと告げられた言葉にマツオカが声を上げる。
「お、お、俺の・・・!?」
「大丈夫だって、顔は載ってねぇからさ」
「・・・・・ホントだったんだ・・・・・・・・まだ俺18なのに・・・・・・・・・・」
「まぁまぁ、とりあえずシゲルくん探さねーと」
「・・・・・・・・・うん・・・・・・・・・・」
ヤマグチは笑いながらマツオカの肩を叩く。
がっくり項垂れながら、マツオカはその裏側に同じくヤマグチから借りたペンを使って何かを書き出した。
そして小さく折りたたむ。
「“失われしモノ 奪われしモノ 我が前から消え去りしモノ。
 探し出せ、果てなき大空を翔る者よ。導け、我が求む彼のモノの下へ”」
小さくそう呟いて、折りたたんだ紙を宙に放り投げた。
投げられたそれは小鳥を象り、西の方に飛んでいく。
「あっ、意外と速い!!早く行かないと見失っちゃう!!」
「え!?何だよあれ!!」
「陰陽術の一種。失せモノ探しの法だよ。ガキの頃親父に教えてもらったの思い出してさ」
走り出したマツオカを追って、ヤマグチも駆け出す。
後ろから、気が付いたタイチとナガセも走ってきていた。
「そんな便利なのあるならさっさと使えよ!!」
「今思い出したんだから仕方ないでしょ!!」
さっきまで騒いでいたにもかかわらず、怒声を飛ばしながら走ってくるタイチに苦笑しながらマツオカが答える。
「あ!!あれって砂熊の巣じゃないっすか!?」
ナガセが指した方向には紙の鳥と砂岩でできた岩山と洞窟らしき入り口。
「もしかして砂熊が捨てた巣穴に隠れてんじゃねぇ!?」
「ありえるな!!行くぞ!酒を奪還しに!!!」
「飯ー!!!」
うおおおおおお、と雄叫びを上げながらヤマグチとナガセがものすごい速さで走っていく。
「・・・・・・・食い物の恨みってすげぇな」
「せめて建前でもいいから“シゲルくん奪還”とかって言ってほしかったよ・・・・・・」
タイチは呆れながら、マツオカは涙を流しながら、2人の後を追った。



























目を開くとそこには知らない天井があった。
剥き出しの岩肌。砂岩特有の黄土色が見える。
ゆっくりと、ジョウシマは体を起こした。
「・・・どこやねん・・・ここ・・・」
ぼんやりと呟く。
手は後ろで縛られ、自由に動かせるのは足だけ。
手を縛る縄は近くの柱に結び付けてあって動けない。
おそらく砂熊の巣穴だったところを居住できるように改造したのだろう。
程よく大きく、それでいて壁面はデコボコで。
ヒトの手でここまで中途半端な穴を作ることはできない。
「・・・あー、だん吉もあこにおるなぁ・・・。どーせ、だん吉放置して遊んどったんやろなー・・・」
ふわ、と大きく欠伸をして、縛られている中で出来るだけ伸びをする。
「んー、どないしょうかなぁ。事起こすのもめんどくさいやんなー」
「起きたぞ!!!」
声とともに現れたのは二十数人の男達。
暑かったのか、全員が砂漠での装備を脱いで、タンクトップを着ていた。
「ん?・・・・・・・・・・・・・・・!!・・・・・・・」
彼らを見てジョウシマは目を見開く。
「・・・・・・お前ら・・・・・・・」
そこに現れた男達の目は、血のような真っ赤な色をしていた。
「・・・・・・赤目の民、か」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・落ちぶれたもんやな。悪魔と呼ばれるほどの技術を持った民族が、いまや盗賊かい」
「黙れ」
「赤目の民の信条は“正しくあれ”やなかったんか?」
「うるさい、黙れ!!死にたいのか!!」
男達は激昂し、各々が持っていた銃やらタウやらをジョウシマに向けた。
「・・・・・・族長が知ったら悲しむで」
「・・・・・・っ!!?貴様何も・・・・・・・!?」
ジョウシマの台詞に動揺する男達。
その時。
「いた!!シゲルくん!!!」
突然届いた声に振り返る。
「ナガセ!!?タツヤ・・・・タイチとマツオカも?」
「誰だ貴様ら!!!」
侵入者に、盗賊たちはさらに動揺し始めた。
「お前らか!!俺の酒と、ついでにうちのジョウシマシゲルを攫った奴は!!!」
「ボクはついでなん!?ってかボクの酒や!!」
酒を優先させたヤマグチにジョウシマがツッコむ。
その一方で、男達は別のことで硬直していた。
「・・・・・“ジョウシマシゲル”?」
「・・・・殲滅戦で見たことあるぞ、あの金髪」
「おい、あの“タツヤ”って、もしかして破壊神じゃないか?」
突然もめだした男達とそれに訝しげな目を向ける4人。
「ねぇ、兄ぃ。何かアイツら目赤くない?」
「・・・・・・ホントだ!!」
マツオカの言葉にナガセが声を上げた。
「すっげー!!!あれって赤目の民でしょ!!?俺初めて見た!!!」
「俺も初めてだよ!」
ナガセとマツオカが目を輝かせて男達を見る。
そして盗賊たちは4人の方に向き直って、リーダー格の男が言った。
「ジョウシマシゲルは確保しろ。あとは殺せ」
その言葉に、男達は一斉に走り出す。奥の方からさらに仲間と思われる者たちが現れた。
「うわ!!いっぱい来たよ!!」
「わー。赤目の奴らと戦うの苦手なんだよなー」
「ぐっさんぐっさん!!俺やってもいい!!?」
「魔法使うなよー。火焔系使うと酸欠になるから」
「そう言いながら兄ぃも『エアトベーデン』出さないでよ!!」
すでにヤマグチが発現させていたバズーカ型タウに、マツオカがツッコむ。
「何で?」
「ここ砂熊の巣でしょ!?アンタがぶっ放したらここ崩れるから!!」
「・・・・・・・めんどくせぇなぁ・・・・」
ブチブチ文句をこぼしながらヤマグチは別のタウを発現させる。
巨大な両刃の剣が右手に握られた。
「タイチもやるだろ?」
「えー。俺非戦闘要員でしょ?」
「たまには運動しないと太っちゃうよ」
「うるさい万年欠食山男。後ろから援護射撃してるから」
「ほらほら、来たよ。相手してあげなきゃ」
マツオカがタウを発現させる。
ナガセも大き目の剣を呼び出して、構えた。









「ボクを確保ね。どうするつもりや」
おもしろそうに笑みを浮かべながらジョウシマは訊いた。
「・・・先程は失礼いたしました。貴方が『深緑』とは知らず縄で縛り付けるなど・・・。お許し下さい」
さっきまでとはうって変わって、恭しくリーダー格の男は言う。
他の者が縛り付けていた縄を切った。
「前置きはいらん」
「…貴方に我々を率いて戴きたい」
「シャラックスの生き残りを?」
「我々は理不尽な迫害を受け、今やほとんど残ってはいません。
 父や母、兄弟、一族郎党も失い、命辛々生き延びた我々も、このように無様な生活をしているのが現状。
 これは全てのジーヴェンどものため!!奴等に報い、我らの恨みを晴らすには貴方の力がひ」
「残念やけど」
熱弁を奮う男の言葉を遮って、ジョウシマは口を開いた。
「ボクは、殲滅されたんは許せへんけど、恨みを晴らそうとは思っとらん」
彼の言葉を受け、男の顔に怒りが浮かぶ。
「何故!?貴方のご兄弟もあの戦いで・・・」
「ボクもアイツも恨んどんのはいつも自分自身や。君は知らんのやろ?あの時の兵器がどんなモノやったんか」
服のホコリを掃いながら立ち上がり、冷たい目で男を見る。
「あの兵器・・・・・・・『ゼウス』、ですか・・・・・?」
「アレはな」

ドドン!!!

ジョウシマの言葉を遮るように地が揺れた。
「ナガセ!!!」
はっと振り返ると壁に叩きつけられたナガセの姿。
「ナガセ!!・・・・・・・・・クッソ!!何で錬金術が発動しないんだよ!!」
気を失っているのか、動かないナガセを庇いながらタイチが叫んだ。
「マツオカ視えねぇのかよ!!」
「視えないんだよ!!何でか判んないけど!!」
マツオカが必死に対しながら答える。


「・・・・・・・君やろ?」
「何がです?」
「錬金術、魔術、陰陽術に先視。全部発動制限しとんやろ?」
「・・・・・・・・・さすが『深緑』」
「それだけの力があればボクなしでもいけるやん」
「いいえ。貴方と、『紺碧』の力がなければ我々の勝利はありえません」 
男の言葉にジョウシマは小さくため息をついてしゃがんだ。
「・・・・・・物分り悪いな、自分。えぇ事教えたるわ。
 今『紺碧』が大事にしとるのは自分の弟だったものと、自分が何者か知っていてついてきてくれてる奴らや。
 そんでボクが大事にしとんのは、あの4人やねん。残念ながらな」
足元に指で紋様を描きながら、笑う。
そして、立ち上がって、それを勢いよく踏み潰した。

瞬間、ジョウシマを中心に風が走り抜ける。

「・・・・・・・・・・なッ!!?」
「ボクにも効くと思ったん?甘いわ。ボクな、自分のモノ傷つけられて黙っとれるほど優しないで?」
同時に爆音が響く。
タイチもナガセも、術が使えるようになっていた。
「そんな・・・・・・・・・ぐぁっ・・・・・・」
自分の術を解除された男は動揺し、その隙にジョウシマの術によって壁に叩きつけられ気絶した。
続いてジョウシマは口の中で小さく呪文を唱え、地に手を付く。
轟音とともにヤマグチが相手していた男達の足元が持ち上がり、吹っ飛んだ。
「シゲルくん」
「手間取っとんなぁ」
「うるさいよ。ただでさえ赤目は能力高いんだぜ?一気に片付けられるわけないし」
と言いつつも楽しそうに傍にいた1人を地に伏せた。
「これでやっと3分の1か」
「タイチもマツオカも、ナガセはもちろん赤目なんて相手したことあらへんもんな」
「術も封じられてたんだろ?」
「解除したけどな」
そう言いながら2人は笑う。
「後はボクがやるわ。だん吉と3人連れて外出とってくれへん?」
「・・・・めっずらし」
「たまには動かんと太るんやろ?」
ケラケラ笑って、開いたその目は真っ赤に染まっていた。
「・・・・・・・・ほどほどにね」
「おん」
手をヒラヒラさせて3人が苦戦している残党の方に歩き出す。
ヤマグチは急いで愛車に駆け寄り、エンジンをかけた。
「タイチ!!マツオカ!!ナガセ!!今からだん吉走らせるから、乗れ!!」
大声で叫びながら急発進する。
その声に、フラフラのナガセを抱えてタイチが走る。
マツオカが殿を務めながら後部座席の開いただん吉に飛び乗った。
「兄ぃ!!シゲルくんが!!」
「あの人が後片付けするんだよ!!早く逃げねぇと死ぬ!!」
洞窟から外に出て、少しして、そこにあった岩山は跡形もなく吹き飛んだ。



























「やー、久しぶりに力使ったら疲れたわー」
ほやほや笑いながらジョウシマが戻ってきた。
全身砂まみれで、ボロボロの様子で。
「お疲れ」
「シゲルくん!!アレ何したんですか!?」
「歳なのに頑張りすぎだよ!!」
ヤマグチ、ナガセ、マツオカの順に、口々に労わる(?)言葉を言いながら近寄る。
「大地系の魔法やで、ナガセ。そんな大した事はしとらんよ。心配かけてゴメンな、マツオカ」
「心配なんてしてねぇよ!!」
「顔真っ赤だぜ?」
真っ赤になって反論するマツオカをからかうヤマグチを見ながら、ジョウシマは1人黙っているタイチに近寄った。
「タイチ、どうしたん?」
「・・・・・・・・・アンタさ」
言いづらそうに、小さい声で太一が口を開く。
「おん」
「・・・・・・・・・・いいや。また後で訊く」
避けるように話を切って、騒ぐナガセの元に行き、一緒に騒ぎ始める。
「眉間にシワ寄ってるけど」
「おっとしまった」
ジョウシマは苦笑いしながら眉間を指でぐりぐり伸ばす。
「どしたの」
「タイチにバレたみたい」
「貴方が隠すからいけないんでしょ。てかあんなトコで無防備に見せちゃって」
ヤマグチは小さくため息をついた。
「どうすんの?」
「まー、訊いてきたら正直に話すわ」
「それしかないね」
まいったな、というような台詞を言いながらも、2人は特に困った様子でもない。
むしろ楽しんでいるように思える。
「さ、どんな反応するやろ?」
「スリーパーホールドくらいは覚悟しといた方がいいんじゃない?」
「マジかー・・・・・」
物騒な話をしながら、だん吉の傍で待っている3人の下に歩き出す。




もうすでに日は傾き始めていた。










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ジーヴェンは普通の人の総称。意味は黒。赤目の民が普通の人間を揶揄して使ってました。
ちなみにロックゴーレムに大地系の魔法を使うと、ロックゴーレムはパワーアップします。
それにしても長い・・・・。
2006/03/11





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