果てしなく広がる砂漠。
照りつける太陽に生き物の姿は見えない。

彼ら以外は。








「あっちぃ・・・・・、エアコンつけてよ」
「バッテリーあがるゆうとるやろ」
「てかさー、窓開けなよ」
「何言ってんの!砂入ってくるでしょ、砂!!」
「ねー、これ食べていい?」
運転席・助手席ではエアコンを巡ってスイッチの押し合いが繰り広げられ、それに関して後ろの荷台からある提案とツッコミが入った。
一方で全く関係ない質問が飛び、騒がしく大型のトラックが赤茶けた大地を行く。
「あー!!お前それ最後の食料だっての!!」
「なんだって!?」
先ほどツッコミを入れた青年の言葉に、助手席の主が振り返る。
さりげなくエアコンのスイッチをONにしながら。
「だからつけんなや、どアホっ!!」
運転手が語調を強めて再びスイッチを切った。
「ナガセっ!!テメー何で俺の分まで食ってんだよっ!!」
「だってお腹空いたんだもん」
助手席の、短い金髪を立たせた青年が目を三角にする。
空腹を訴えたナガセと呼ばれた青年は小さい子供のように膨れて見せた。
「そうじゃないよ兄ぃ!!次の町まで俺ら断食・・・・・アレ?」
ツッコミを入れた青年が目を細めた。
「どうした?マツオカ」
提案をしたまま黙っていた目の大きな青年がそれに気付く。
マツオカの瞳は紫に染まっていた。
「・・・・・2時の方向・・・・・数は40で・・・・・たぶん軍。このまま行くと5分後にぶつかるよ」
「装備は?」
助手席のヤマグチの口調が変わる。
「タウが10、魔術師が1。残りはライフル装備」
「なめられたもんだ」
ヤマグチがくくくと笑った。
「ボク行こか?」
運転手が楽しげに訊いた。
「何言ってんの、シゲルくん。あれだけ全部相手する体力ないくせに。もしかしてもうボケちゃったの?」
「なんでやねん!!」
「おじいちゃんは車護っててよ。タイチ、頼むな」
「いーよ。老人介護は俺の仕事だし」
「ええ加減にせんとボク泣くで?」
マツオカ、ヤマグチ、タイチの言葉にジョウシマは真顔で抗議した。
「まぁ、えぇわ。この先50キロで次の町着くから、軽く運動してきぃや」
そうして車が止まる。
「兄ぃがまずぶっぱなしてさ、数減らさない?」
「おー、いいぜ。ナガセ、お前魔術師やれよ」
「いいの!?」
マツオカ、ヤマグチ、ナガセの順に車から降りる。
「練習だと思ってめいっぱいやっといで」
運転席の窓から体を乗り出し、ジョウシマがナガセに笑いかけた。
「やった!!シゲルくん、タイチくん、見てて下さいね!!」
ジョウシマが微笑んで頷くと、キラキラ目を輝かせる。
「よし、行くか」
ヤマグチが言うと右手に巨大なバズーカのようなものが現れた。
それを軽々と肩に担ぐ。
「うらぁ!!」
かけ声とともに轟音を立てて火を吹いた。

どぉぉぉおおおんっ

目の前に僅かに見えていた集団が爆発する。
同時に3人が走り出した。
「マツオカ〜。ライフル隊とタウ、どっちがいい?」
「そういう兄ぃはどっちがいいのよ」
「俺?決まってんだろ?」
「了解。ナガセ、来るよ!!」
マツオカの警告に反応せず、すでにナガセは詠唱し終えていた。
次の瞬間、水で作られた鳥が数匹突っ込んできた。
「いっけぇ!!!!」
ナガセが手を叩き、掌を鳥に向ける。
巨大な炎の竜が全ての鳥を飲み込み、じゅっと音を立てた。
そして鳥を放った術師に向かっていく。
「飲み込んじゃえ!!」










「じゃあ行くね、兄ぃ」
マツオカが左手のブレスレットをシャラリと鳴らして一陣に突っ込んでいく。
前方にいた集団をすさまじい跳躍力で飛び越え、後方に控えていたライフル隊の頭上で落ち始める。
右手で腕輪を軽く撫で、凪ぎ払うと右手には長い両刃の槍が握られていた。
「そんなもんで俺を倒せるかっつーの!!」
楽しげに声を上げると、ライフルを構える敵陣の中に突っ込んでいった。










「ま、まさか・・・・・『破壊神』・・・・・?」
「はっはぁ!!そう呼ばれてた時期もあったなぁ!!」
トンファーのような武器を持った軍人を素手でぶっ飛ばしヤマグチが笑う。
10人いたタウの先鋭部隊も今や1人となり、足元には死屍類々の山ができている。
「さぁ、お兄さん。俺に殴られたい?それともこいつ?」
そう言って左肩に担ぐ獲物を軽く持ち上げた。











「平和やねぇ」
「ホントだねー」
目の前のドンパチを眺めながらボンネットに腰をかけ、タバコをふかすジョウシマと紅茶をすするタイチ。
「ホントアンタって紅茶だけは淹れるの上手いよね」
「それはハーブティーやけどな」
「オリジナルブレンド?」
「うん。ボク特製健康茶」
にこにことジョウシマがタイチを見る。感想を求めているのだろう。
「美味しいよ」
「ほーか。せや、大事に隠しといた菓子食べへん?」
「甘いの嫌い」
「ジンジャークッキーやで?甘さ控えめの」
「食べる」
不意にジョウシマが何かを凪ぎ払った。

ドドン

大きな爆音が響いて、10メートルほど向こうで何かが破裂する。
「何?」
「流れ弾処理とナガセの援護」
さらりと言い流し、助手席の下から高級感漂う箱を取り出した。
「灯台もと暗しってな」
楽しげに言う姿に、タイチは大食いな助手席の主とお菓子に目がない大型犬を思い浮かべた。
「あ、ナガセの奴、あんなでっかい術使っちゃってるよ。いいの?」
「ええよ。自分の限界知らんとなぁ」
3時のお茶のようなまったりとした空気が流れる。
「あーぁ。あんな相手にタウまで出しちゃって」
「まぁ、ええやん。楽しそうやし」
「あんな楽しげに戦うのはあの3人だけだよ」
「・・・・・あ。ナガセ限界越えた」
ジョウシマがぽつりと呟いた瞬間、視線の先で大爆発が起きた。
タイチが慌てて刀を呼び出し、爆風を水の気で防ぐ。
「あんのバカっ!!車が壊れる!!」
「限界越えて、制御できへんようになったんやろ」
砂煙が消えて現れたのは、巨大なクレーターだった。
その中心にナガセ、少し離れた所に何ともないヤマグチとうつ伏せに倒れたマツオカがいる以外は跡形もなく消えていた。







「この馬鹿!!俺まで殺す気かよ!!」
「ごめんなさい〜」
ところどころ焦げたマツオカが半泣きのナガセに怒鳴り散らす。
「こら、マツオカ、大人しゅうしぃや」
その横で城島が笑いをこらえながら治癒術を掛けている。
「何でヤマグチ君無事なの?」
「強いから?」
「なるほど」
巨大なクレーターが出来るほどの爆発に巻き込まれながら何故か無傷なヤマグチの適当な答えに、タイチは納得した。
「限界判った?」
「ぜんぜん判んないっす!!」
笑顔で問いかけるジョウシマに、自信満々でナガセが親指を立てた。
「ならしばらく使用禁止な」
笑いながら、でも目を怒らせてジョウシマは言い渡す。
「えぇ〜!!?うっそ〜!!」
「ほんまやで〜」
「そんな、シゲルく〜ん」
マツオカの治療を終えて、移動トラックのだん吉に戻っていくジョウシマをナガセが慌てて追いかけた。
「あ〜ぁ。どうすんの、軍の一個師団消滅させちゃったよ?」
「あれはナガセが悪い」
タイチの言葉にマツオカが唇を尖らせる。
「まー、しょうがないっしょ。もうすでに俺ら指名手配されてるし?」
「それは兄ぃとタイチくんとシゲルくんでしょ。俺とナガセは違うよ」
「残念。この前シゲルくんと軍のメインコンピュータにハックした時にマツオカとナガセの名前が入ってたね」
「うそ!?タイチくん、それホント!?」
「ホントホント」
「おめでとう、マツオカ」
ニヤニヤ笑いながらヤマグチとタイチもだん吉の方に戻っていく。
「めでたくないよ!!俺、18でもう指名手配犯かよ!!」
「諦めなって」










「さて、どこ行きますか?」
「ご飯食べたい!」
「てかもう食料のストック無いよ」
「俺ベッドで寝たいなー」
「ボクも酒飲みたいわ〜」
それぞれに思い思いのことを希望する。
「じゃあ次の街で宿取ろうぜ」
クレーターを迂回して、砂の海を進んでいく。











その進路は5人の気の向くままに。












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そんな予定じゃなかったんですが、指名手配犯にしてしまいました。
ホムクルコンビは非戦闘要員です。
2006/02/26





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