その日、僕が出かけようとしたらそいつはやってきた。











ネバーランド











「やっほー!松潤」
眩しいくらいの笑顔で、茶色い髪で太陽光を反射して、扉を開けて固まった僕に敬礼する。
「・・・・・・・・・・・何してんだよ、こんなとこで」
「いやー、ちょっと時間ができたから来ちゃった」
えへ、と、長い間会っていない友人は最後に会った時と変わらない顔で笑った。
「もしかして忙しかった?」
「や、そんなこともねぇけど。・・・・・・・・・・・・・上がる?」
扉を全開にしてそう訊くと、そいつは驚いた表情を浮かべる。
「ドS番長が!?」
「お望み通り締め出してやろうか?」
「いやいやいや!お言葉に甘えてお邪魔させていただきまっす!」
激しく首を振って、そして躊躇いもなく入ってきた。
僕は変わらない様子に笑みを浮かべて、扉を閉めた。



「何か飲む?てか飲めんの?」
「飲めるよー。お茶飲みたい。冷たいの」
先に部屋に入ったそいつは、我が物顔でソファで寛いでいる。
「はいはい」
相変わらずの態度に、僕は少し呆れながらも、嫌な気分ではなかった。
「何の用?」
グラスに氷を入れて、なみなみと注いだ麦茶を差し出しながら、僕は訊いた。
「だから言ったでしょ。少しだけ時間ができたって」
「何で俺んとこ?リーダーとか翔君とか、ニノんとこは行ったの?」
「行ってないよ。あなたのとこだけv」
語尾にハートマークが付きそうな口調でそいつは言う。
「1人のとこしか行く時間なくてさ。時間ができたって言ってもホントにちょっとだけなんだ。
 お茶1杯飲めるか飲めないくらいの?だから冷たいのを注文しました!」
アハハと軽い笑い声。
僕が小さくため息をつくと、僕らの間に沈黙が落ちた。



「ねぇ、潤君」
静かな時間がしばし流れて、ぼんやりしていた僕は、突然呼ばれた名前に少し肩を揺らした。
「もしかしなくても、責任感じちゃってるでしょ?」
その言葉に視線を目の前の友人に合わせると、少し悲しそうな表情を浮かべていた。
「あれはね、絶対に潤君のせいじゃないんだよ。
 キャプテンのせいでも、翔ちゃんのせいでも、ニノのせいでもない」
俺が何も言えないでいると、そいつは笑った。
「もういいよ。もう、止まっちゃった俺の時間を潤君が償い続ける必要はないんだよ」
目の前の友人が、そう、言った。
「ほら、よく見てよ。俺はまだあの時のままでしょ」
立ち上がった友人は、成人することのない姿のまま。
「でも潤君は二十歳を越えてる」
僕の手を掴んだその手は冷たかった。
「だから、バイバイ」
そうしてにっこり笑った友人は、跡形も無く消えた。



「・・・・・・・・・・・・・・何だよ、急に来て、急に帰っていって・・・・・・・・・・・・・・・・・」
意識せず、頬を何かが流れた。
「・・・・・・・・・・俺だって言いたいことがあったのに・・・・・・・・・・・・・・・・」
相変わらずの自分勝手に、僕は思わず独り言ちた。





天真爛漫で、何にも縛られず自由で、誰よりもみんなのことが大好きで。


そんな友人がこの世を去ったのは、13年前の今日のことだった。






*
初書きで死んでしまいました。
相松です。
これはネズミ王国の題の世界で冒険するアトラクションの待ち時間に思いついたネタです。
ツインタワーでも書ける気がしますが、結末が違う気がします。
訳分からん話が書きたかったので、満足です。

2007/3/11



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