※ 注 意 ※


頭文字Gの黒い悪魔が出てきます。
虫の類が苦手な方は閲覧に注意してください。























evade















事の発端は一本の電話だった。
その依頼に応じて現場に駆けつけ、出くわした顔にお互いに声を上げる。
「何でシゲがいるの?」
「いやいや、それはこっちの台詞やん」
そんなやりとりを繰り返す内に、再び電話がかかってきた。
『ちょっと所用で遅くなるから、よろしく』
電話の主はそう告げると、地下に入るからと通話を切る。
慌ててかけ直したが繋がらず、仕方なく二人は建設中のビルの中に入り込んだ。


「エレベーター無いの?」
「まだ電気通っとらんもん」
グダグダ言いながら階段を上る。上層階まで繋がった非常階段は、一段上る度に足音が響き渡った。
「懐中電灯持ってて良かったよ」
「さすが配管工」
「てか無いと困るときあるし」
「奥の方見えんもんな。あ、この階や」
城島の言葉に山口も従う。
鉄の扉を開いてフロアに出ると、完成間近のきれいな廊下が広がっていた。
「おぉ〜。やっぱ貼りたてはキレイだねぇ、壁紙」
「せやろ。ここはこだわってん」
山口の言葉に城島が胸を張る。そして目的地に向かいながらこだわりを話し始めた。
山口はそれに相槌を打つ。
そうしている間に目的の部屋の目の前に来ていた。
「この部屋やな」
「こんなとこに水道通してんの?」
「まぁ各部屋に無いとなぁ」
「ふぅん。てか昼間にやればいいんじゃね?そっちの契約業者いるでしょ」
依頼されたのは水道管の修理だったが、山口はビル建設の受注業者ではなく、しかも今は夜中である。
もっともな指摘に、城島も肩を竦めた。
「知らんがな。東山さんに言ってや」
「言えねぇよ」
まぁなと唸りながら、城島は教えられていた異状箇所を示す。
そこを覗き込み、山口は持っていた工具を取り出して作業を始めた。
カンカンコンコンと音が響く中、手持ち無沙汰の城島は部屋の中をウロウロする。
そして窓の外の夜景をしばし楽しみ、山口の元に戻ってきた。
「どう?」
「ここ締めたら終わるよ」
「ホンマ?早いなぁ」
城島は作業箇所を覗き込んで、見えなかったからかすぐに顔を上げる。そして固まった。
「・・・・・・山口」
「ん?何?」
手が離せないまま、城島の呼びかけに答える。
「山口っ」
しかし城島は山口の名前を呼ぶだけで用件を言わない。
「ちょっと待ってよ。もう終わるから・・・・・・」
「山口!!」
「だから何だよ!・・・・・・?」
しつこい呼びかけに声を荒らげて立ち上がり、そして少し離れた位置に見えた影に、眼を細めた。
「・・・・・・・・・・・・っひ」
そして見えた姿に無意識に悲鳴を上げかけて、その口を城島に塞がれた。
「しー!」
「な・・・・・・なん・・・・・・」
「とりあえず気付かれんように部屋出るで」
顔面を真っ青に染めた山口に、同じく青い顔の城島がそう告げる。
山口は黙って首を上下に振ると、工具を急いで片付けて城島の後に続く。
そして静かに部屋を出ると、全速力で走り出した。
「何だよアレぇえ!!!?」
「知らんがな!!!!」
急いで階段に向かう中、背後で物々しい音が響いた。
咄嗟に二人は振り返り、振り返ったことを後悔した。
振り返った先には、映画やゲームに出てくるような巨大な虫が、地を這うように忙しなく足を動かして二人を追いかけてきていた。
「ぎやああああああ!!!!ゴ○ブリじゃねぇかあああ!!」
「言わんとって!!カブトムシのメスかも知らんやろ!!」
「どっちにしても気色悪ぃよ!!」
ギャアギャア叫びながら非常階段に辿り着き、鉄の扉の鍵まで確認してから階段を下り始める。
上の方からガンガンと叩きつける音が聞こえていたが、無視して駆け下りた。
「何だよアレ!!何なんだよアレェ!!」
「知らんがな!!東山さんに訊いてや!!」
「訊けるかぁ!!!!」
不意に、上の方から爆発するような音が聞こえた。同時にガサガサと鳥肌の立つような音も聞こえてくる。
その音に悲鳴を上げたのは山口だった。
「俺アレだけはマジ無理なんだよぉぉおお!!!!」
「泣くなー!!!!」
城島は怒声を上げながら、ふとあることに気付いた。
パニック状態の山口の手を掴むと、踊り場にあった扉に向かう。そして扉を開けようとした。
ガツン!!
「何でやねん!!」
引っかかるような音ともに城島が叫ぶ。
鍵がかかっているのか、扉は開かない。
何度か蹴飛ばした後、使い物になりそうもない山口の頬を張り倒す。良い音が響いた。
「何すんだよ!!」
「ここ、行きに使った階段とちゃうわ!このまま下行っても、地下まで出口無いねん!
 ここで出な逃げ道無いんよ!!はよ開けぇ!!」
城島の言葉に山口は青ざめる。
「早く言えよ!!」
そして慌てて工具を取り出して扉をこじ開け始めた。
「来たっ!!」
そうこうしている間に足音は近付いてきていて、城島は思わず悲鳴を上げた。
「あぁ、もう!!開かねぇよこれ!!」
山口も半泣きになりながら声を上げる。
「・・・・・・ちょお、これ貸してや」
不意に城島が山口の工具の中から棒のような物を取り出した。
開けるのに必死になっている山口は聞いていないようだったが、城島はそれを握り締めると、階段の上の方を見る。
同時に黒い影が現れ、かなりの速度で階段を下ってきた。
その瞬間。
「手のひらサイズでもウザいのに、でかくなったらもっとウザいねん山口がぁ!!」
そう叫びながら手にしたモンキーレンチを勢いよく振り下ろす。
それは上手い具合に虫の頭部を鈍い音を立てて直撃した。電池が切れるようにその動きを止める。
同時にガコンと音が響き、扉が開いた。
「開いた!!って何してんのソレェ!!」
悲鳴を上げながら扉に身体を寄せ、山口はそれと極力距離を取る。
「モンキーレンチで叩いてん。ちっさいのもスリッパで叩くから効くかなーって」
「俺の工具が!!」
「叩かんかったらやられとったかもな。さ、今の内に行くで」
山口を引きずるように扉をくぐり、そのまま奥に進む。
どこに行くのかと尋ねる山口に、行きに上った階段だと答えが返ってきた。
「慌てて変なとこに入ってもうたみたいやねん。デザインがな、微妙にちゃうんよ」
「さすが設計会社の担当者」
「客に説明せなあかんからなぁ」
しゃべりながら道案内をする城島について行くと、似たような階段に辿り着く。
「ここや。早よ降りよう」
「おう」
二人は急ぎ足で階段を下る。
壊して開けた扉が閉められなかったため、気絶したと思われる虫が動き出したら追いつかれてしまうからだ。
「てか壊した扉どうすんの」
「まぁ、何とかするわ」
最後の数段を飛び降りながら城島は答える。
そして鉄の扉を開いた先には、ガランとしたロビーが広がっていた。
「さっさと逃げようぜ」
山口が立ち止まる城島を押すように歩き出す。それに付いて城島も出口に向かった。
二階から吹き抜けになっており、だだっ広いフロアに小走りの足音が響く。
不意に城島が携帯を取り出して耳に当てた。
「何?」
「いや、東山さんに・・・・・・」
「後に・・・・・・」
文句を言おうとした山口の言葉を遮って、耳障りなノイズのような音が聞こえた。
携帯がおかしいのかと愛機を見る城島の横で、背後を振り返った山口が顔を蒼醒めさせた。
「シゲっ!!」
その声とともに城島も振り返り、目の前に迫る影を見て絶句する。
どのようにここまで来たのかは分からなかったが、件の虫が二階のテラスから二人の方に向かって飛んできていた。
「「ぎゃあああああ!!」」
反射的に悲鳴を上げ、頭を抱えてしゃがみ込む。
視界が翳り、思わず目を閉じた瞬間、轟音と地震のような揺れに襲われた。
「・・・・・・・・・・・・?」
しかし予測したような衝撃は来ず、城島は恐る恐る頭を上げる。
そこには、巨大な虫をその長い脚で器用に捕らえた、さらに巨大な蜘蛛がいた。
「〜!!!!」
いくつもある、球のようなその目の一つと目が合ったような気がして城島は声にならない悲鳴を上げる。
腰を抜かしてへたり込んだ次の瞬間、突然に肩を叩かれ城島は飛び上がった。
「ぎゃあ!!!!」
咄嗟にずっと持っていたモンキーレンチを振り回す。
肩を叩いた主は器用にそれを避けると、城島の手首を叩いて手を離させた。
床板と金属のぶつかる音が響いて、その人が口を開いた。
「すまん、遅くなった」
「ひがっ・・・・・・」
「よく頑張った。ん?山口はリタイアか?根性ないな」
「や、コイツはゴ○ブリ苦手で・・・・・・」
目を回したままの山口への厳しい言葉に、城島はよく分からないままフォローを入れる。
そしてそれに対して自分でツッコミを入れてから、東山に食ってかかった。
「アレ何なんですか!?」
「アレは虫だ」
「見れば分かりますよ!何であんなデカいんですか!」
「よくない場所にはよくないものが集まるのさ。で、集まってデカくなって生き物を襲う。
 本当は俺がやるはずだったんだけど、もう一つ仕事が入ったし、俺じゃあ出てこないから、ちょっと協力してもらおうかと」
「そっ・・・囮やないですか!!」
「いいじゃないか。無事だったんだから」
はははと爽やかに笑う東山に、思わず怒声が出かけたが、城島は無理矢理それを飲み込んだ。
あまり追求すると、逆に深く関わることになりかねない。
とりあえず沈黙したまま、目を回している山口を起こしにかかる。
その横で、やっぱゴ○ブリには蜘蛛だな、と笑う声が聞こえたが、聞かなかったことにしたし出来るだけ見ないようにした。
これからは絶対に引き受けない。たとえ憧れの先輩であろうとも。
山口の頬をバシバシ叩きながら、城島は堅く心に誓ったのだった。







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先日、ツイッターで、
 携帯をメモ帳代わりにしてるもんだから、未送信が山ほどある。
 久々に確認してたら、『サラリーマン。下水工関係?営業(スーツ)と現場(作業服)。
 特殊能力等一切なし。武器は工具。六角レンチで戦う』なるメモを発見。
 どんな話書こうとしてたんだ、私(笑)そして何と戦うのか(笑)
と呟いたところ、面白いと反応してくださった方がいたので文章にしました。
ただし、六角レンチとモンキーレンチを間違えてメモってたみたいなので、モンキーレンチに変更。
六角レンチで戦うとか、小さすぎて絶対無理(笑)

あと、以下は没シーン。
フォロワーの方から、ネタを振ってもらったので書いたんですが、却下したシーンです。
もったいないから出しときます。



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★ボツシーン


「あぁ、もう!!開かねぇよこれ!!」
山口も半泣きになりながら声を上げる。次の瞬間、二人の視界が陰った。
山口が咄嗟に振り返り、そして反射的に持っていたモンキーレンチを振り下ろす。
ガキンっ
硬い音がしてそれは弾かれたが、手応えを感じてもう一度叩きつけた。
二度目は少し甲高い音が混じり、振り抜くとともにレンチの半分が弾け飛ぶ。
反動で後ろに下がった虫に、追い縋るように拳を振り上げた瞬間、不意に虫の全身が目に入った。
「〜っ!!」
一瞬で身体中に鳥肌が立つ。
「やっぱ無理!!」
山口はその勢いのまま身体を反転させて、扉に体当たりをかました。

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※ぐさまが頼りないので却下。敵をGにしなければ良かったです。


2011/10/2





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