Principle







りぃりぃと虫が鳴く。
生暖かい風が吹いて、枝垂れ柳がさわさわ揺れた。
草履が踏みしめる足元で砂利が小さく音を立てる。
人気の無い通りは、夜中ということもあるのだろう、人口の明かりはなく、空高く上る月だけが辺りを照らす。

不意に、山口は足を止めた。
タイミングよく風が止まる。瞬間、空気が張り詰めた。
そこから足を動かさぬまま、懐から煙管を取り出して火を点ける。
煙が立ち昇り、再び走り始めた風がそれを流していく。
山口は、胸一杯に紫煙を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。
瞬間、刀を振りかぶった青年が、山口の右手にあった屋敷の屋根の上から、音もなく飛び降りる。
振り翳した刃は、確実に命を奪える軌道を描いて降ろされた。

甲高い金属音。

2本の刀が刃を交えて、二者の間で動きを止める。
ギリギリと擦れる音。力関係が肉薄していることが判る。
次の瞬間、山口が力任せに刀を薙ぎ払った。
銀の残像が横一線に走り抜け、その真上を青年が飛ぶ。
一歩下がって青年は再び刀を構えた。

「よう」
山口がニヤリと口角を上げ、青年に向き直る。
「久々じゃないか。最近は音沙汰がなかったが、生きてたんだな」
だらりと刀を真下に向け、殺気を投げかけてくる青年に向かって笑いかけた。
青年は何も答えない。
「今日はお仲間はどうしたんだよ。それとも」
山口は煙管を一口吸って紫煙を吐き出し、切っ先を青年に真っ直ぐ向けた。
「お前1人で俺に敵うとでも思ってんのか?」
同時に空気がさらに張り詰めた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・まさか。そんなことは思ってませんよ」
少し間を置いて、青年が初めて口を開いた。
「俺たちが束になっても敵わないのに、俺一人でアンタを倒せるはずもない」
苦笑交じりに青年は呟く。
「でも、足止めぐらいなら出来る」
そしてその姿が消えた。
一瞬で山口の懐に入り込んで刃を閃かせる。
それを、手にしていた刀で受け止めて、山口は訊いた。
「どういうことだ」
「・・・・・・・・・・・・・今アンタはここにいる。
 二隊以下は、俺らの出した嘘の予告文を信じて御所にいる。
 一隊は先鋭だけど負傷者ばかり。そして“鬼”は今病床に臥せってる」
キンと金属音。
「アンタ達を潰すなら今だ」
その時、山口の背後から爆音が轟いた。
「!!?」
「アンタ達にも“鬼”はついてるけど、こっちにだって“鬼”はいる」
「・・・・・・・・・お前ら死ぬ気か・・・・・・・・!!」
切迫した状況に、山口は振り返ることも出来ずに青年に問う。
「幕府に屈服するくらいなら、アンタ達を潰すためなら、俺らは死んだって構わない!」
青年は刀を薙ぎ払い、山口から距離をとって、もう一本の太刀を抜いた。
「・・・・・・・・太刀二本・・・・・・・・・・・二刀流か・・・・・・・・・・・・・・」
「相手してくれますよね?」
ニヤリ笑って、青年は地面を蹴る。
山口は腹を決めて、それに対峙した。




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ようつべで気象のPA/R/CO侍のCMを見てときめき、
気象さんのらいとばっくとうーゆうを聞いてときめき、
こういうのを東京もやってほしいなぁと思ったら出来ました。
一応山口さんと相葉さんなイメージなんですけどね。
東京サイドが新撰組的な組織、気象サイドが攘夷派組織って感じです。
両サイドの“鬼”はもちろん両リーダーです。最強の人。
一応東京のリーダーは肺病を患っている設定です。

時代物もいいなぁ。楽しい。

2007/4/23



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