in the box
箱のように狭い部屋。
あるのは簡易ベッドと、小さな机と椅子。
申し訳程度に取り付けられた窓は、埃と手垢で汚れ、擦りガラスのようになって外界とを隔てている。
そんな部屋の扉を開けると、案の定空気が霞んでいた。
煙い。
手を動かす。それに合わせて霞が動いた。
部屋の主はベッドに足を投げ出して座り、煙草を燻らせている。
その横には吸い殻で山になった灰皿が鎮座在していた。
「よぉ」
入り口付近で足を止めていると、部屋の主は煙草を手にしていた腕を上げる。
「禁煙なんだけど」
「自分の部屋でくらい好きに吸わせぇ」
何処も彼処も禁煙で堪らんわ。
ぼやきながら紫煙を吐き出した。
「俺が禁煙中なんだよ」
眉間にシワを寄せる。彼は薄く笑った。
「どういう風の吹き回しやねん」
「息切れるからね」
「歳か」
咽喉で笑って、煙草を銜える。
「アンタに言われたくないよ」
勝手に椅子に座る。
彼はそれを気にかけることなく、せやなと笑った。
床に転がるのは酒瓶。
どうせまた度数の高いのを呷ったんだろう。
「いい加減止めたら?」
「何を?」
「煙草と酒と女」
それを拾い上げながら言うと、彼は口角を上げた。
「そんなもん」
「“止めれるもんならとっくの昔に止めとる”って?」
「くっくっ、自分はヒトのこと言えるんか?」
さも愉快だと言わんばかりに彼は吸い殻の山に煙草を押しつける。
「判ってるでしょ?」
「多少の娯楽もなきゃ、ここでは生活出来へんて」
新たな1本に火を点けながら、彼は笑った。
「アンタは多少じゃないんだよ」
俺の言葉に、黙って目を閉じる。
「俺にもちょうだい」
「禁煙中とちゃうんかい」
「アンタ見てるとイライラする」
くつくつ。愉快そうに咽喉を鳴らし、クシャクシャの箱から1本差し出した。
「ありがと」
それを受け取り銜えると、彼は火を点けてくれた。
「どうぞ」
「どうも」
久方ぶりの煙を胸一杯に吸い込む。
それをゆっくり吐き出しながら、白く濁った窓を開けた。
澱んだ空が視界に広がり、湿っぽい風が部屋の中に走り込む。
「いつから吸っとらん?」
「三ヶ月、かな」
どっかの誰かさんのせいでもう終わったけどね。
嫌みを言うと、鼻で笑われた。
「よぉ言うわ」
それでも愉快そうに目を細めてる。
今日は機嫌がいいらしい。
「やったら、禁煙明け祝いに飯でも奢ったろか?」
「別にめでたくないんですけど」
「何でもえぇねん。今日は外出たい気分やねん」
ギシリ、ベッドが鳴る。
着ていたTシャツを脱ぎ捨てて、ピシッと糊付けされたカッターを羽織る。
「松岡来てんの?」
「や、自分でやった。たまにはやらんとな」
苦笑いを浮かべた。
生き返ったな、と、ぼんやり思う。
「窓閉めてや。この辺も物騒やから」
「ん」
部屋の中の霞は大方消えていた。
窓枠がギシギシ悲鳴を上げていたが、無視して閉める。
「何食べたい?」
「あっさりしたのが良いな。最近肉続きだから」
「とりあえずターミナルまで行こか」
彼の言葉に無言で頷く。
バタンと大きな音を立てて、扉は閉められた。
-----------------------------------------------------------
何かが降りてきて、こんなのが出来ました。
一応ホムクルなんですが、何でこんなんできたんだろ・・・・・。
煙草と酒と〜のやりとりが浮かんで、通学中に一気に書きあげました。
こういうホムクルってどうなんでしょう?
2006/9/8
close