Run and Gun




火薬の臭いが鼻につく。
うっすらと白煙があがり、タンタンと軽やかな音が響き渡る。

「ホント、アナタってえげつないよね」
「どこがぁ?」
2人の男が発砲しながら走り抜けていく。
1人は金髪、もう1人は茶髪。どちらもデザインは異なるが、黒い服を着ている。
「例えば今みたいに笑顔で眉間を打ち抜くとことか、虫も殺さないような顔して苦しんで死ぬような所を撃つとことかね」
「うわ〜、反論できへんわ〜」
苦笑いしながら茶髪が言う。
そんな会話をしながら走る足と撃つ手は止めない。
「そやかて、お前も十分えげつない思うけどな、ボク」
「ど〜こが」
後ろから襲ってきた男の眉間に穴が空く。
どちらも振り返ってはいない。
茶髪の銃口が一瞬背を向いただけだ。
「助けてーゆうとる奴を素手でぶっ飛ばしたり、気絶させた奴を武器または盾にして強行突破したり?」
「わー、反論出来ねぇ」
金髪も苦笑い。
実際、彼の手は襲ってきた男一人の襟首を掴み、振り回している。
「お互い様ってか」
「そーゆう事。っと、着いたで」
最上階、最奥の部屋に続く扉の前に立つ。
茶髪は拳銃に弾を込め直し、金髪は手にしていた男を放した。
「じゃあ、行きますか」
金髪がニヤっと笑う。
茶髪がそれにやんわりと微笑み返し、観音開きの2枚の扉を片方ずつ開いた。
「なっ・・・・・・誰だっ」
中にいた男が狼狽して振り返る。
「どおも〜奪還屋です〜」
「依頼品を戴きに参りましたー」
2人でにこやかに微笑んだ。
中にいた男が凍り付く。
「ちょお、『戴き』て、ボクらは盗みに来たんやないで?」
「結局奪うんだからおんなじだろ」
「似てるからこそ気をつけなあかんねやで。
て、逃げんといてもらえます?」
笑顔で拳銃を構える。
「ほら、えげつない」
金髪がぼそりと呟いた。
「なっ・・・・・・何なんだ貴様らっ!!」
「やだなー。俺ら名乗りましたよ?」
「ほな返してもらいまひょか」
2人が1歩進むごとに男は後ずさる。
ついに後ろにある机に突き当たり、退路が消えた。
それに動揺した男は机の正面に回り、震えた手で何かを机の中から取り出す。
「きっ・・・・・・貴様等なぞに奪われてたまるかぁっ!!」
「最初に奪ったのはアンタの方でしょ」
「うるさいっ!!これは私のモノだ!!」
金髪の言葉を一蹴し、男は手にした何かを投げ捨てた。
「っ!!不味い、手榴だ・・・・・・」
激しい爆音が響き、天井からコンクリートの破片が降り注いだ。














立ちこめる土ぼこりが周囲を白く染める。
2人が立っていた所は瓦礫の山が出来ていた。
「ざまぁみろ」
机の陰にいた男が爆発の起きた方を覗いて呟いた。
「これがある限り私は・・・・・・」
「これがある限り何?」
さっきの2人とは別の声がした。
喉元に何か冷たいモノが当たっていて動けない。
「あ、動かないでよ。首切れちゃうからさ」
ふわふわした黒髪が揺れる。
一見女の子のような外見で先ほどの2人よりかは若い。
しかし手にしたナイフは男の頸動脈を簡単に切り裂ける位置に当てられている。
「う・・・・・・」
「ねぇ、どこに隠したの?」
「・・・・・・金庫だ・・・・・・そこの・・・・・・」
命が惜しかったのか、素直に指を差した。
「聞こえた?」
「もちろん」
いつの間にか男が指さした箇所に別の青年がいた。
整った顔立ちで、ひょろりと背が高い。
長い黒髪を後ろで結んでいる。
「あれ。暗唱番号がいるよ、太一君」
「えー、マジで?暗唱番号教えてくんない?」
「・・・・・・」
「教えてくんないの?じゃあさようなら」
「っ・・・・・・『explost』だ!!」
太一と呼ばれた黒髪がナイフに力を入れる。
皮膚を僅かに切ったところで男は叫んだ。
「松岡聞こえた?」
「バッチリよ!!」
カタカタとキーボードを叩く音がする。
「よっし!!エンター!!」
タンっと一際大きいくキーボードが鳴った。

『コード認証しました。自爆装置起動。20秒後に爆発します』

合成音声が響いた。

「えぇぇぇえええ!!!?」
「なっ!?自爆っ!?てめぇ嘘か!!」
「誰がお前等に渡すものかっ!!渡すぐらいなら粉々になってしまえばいい!!」
太一と松岡の動揺した声と男の哄笑が響く。
『10秒』
カウントが迫る。
「どうにかなんねぇのっ!?」
『9、8』
「やってるよ!!」
『7、6』
「くっくっく、残念だったなぁ。最期に教えてやろうか」
『5、4』
「本当のパスワードは」
『3、2』
「『seventh heaven』だ」
『1』







「な・・・・・・!?」
男の狼狽した声が響いた。
爆発など欠片も起こらず全くの静か。
「残念でした〜。全部演技だよ。あいつ機械いじれねぇもん」
太一が楽しそうに声をあげる。
「さすがリーダーだよね」
「こういう小物作りは上手いよなぁ」
太一と松岡がケタケタと笑う。
「リーダーもすごいですけど、それを操作した俺は!?」
松岡の足元から、やはり背の高い青年が立ち上がった。
「やー、バカだけど機械は何でも扱えるお前はすげぇよ、長瀬」
「ホント!?えへへ〜」
太一の言葉の一部が彼をバカにしているにもかかわらず、嬉しそうに長瀬は顔を緩める。
「あ、そういえば、そのリーダーは?あ、兄ぃも」
「その辺」
キョロキョロする松岡に太一が指をさす。
「えー!!!?あの瓦礫の山っ!?何があったの!?」
松岡が真っ青な顔をして声をあげた。
「あれ?お前知らないっけ?」
「知らないよ!!太一君の合図の後に入ってきたんだから!!」
「あ、そっか。あの人が手榴弾使って爆破したんだよ・・・・・・って早」
太一が言い切る前に松岡の投げたナイフが男の肩に刺さっていた。
「うあぁぁぁああ!!!!」
「うちのリーダーと兄ぃに何してくれちゃってんの、あんた」
腰を抜かした男の胸倉を掴み、持ち上げる。



その時、激しい爆音をあげて瓦礫の山が吹っ飛んだ。
「なっ・・・・・・」
「「「・・・・・・」」」
男は驚愕で、残り3人は呆れて声を失った。
「よっこらせっと」
瓦礫が吹っ飛んで出来た穴から先ほどの金髪が顔を出した。
「あー!!ぐっさん!!」
長瀬が嬉しそうに声をあげた。
お尻の辺りに激しく揺れる尻尾が見えそうだ。
「お、ビンゴ。茂君」
「おーきに、山口」
登りきった金髪、もとい山口が穴の下に手を伸ばすとのんびりとした関西弁が届いた。
「どっこいしょ」
爺臭いかけ声と共に茶髪が顔を出す。
「リーダー・・・・・・!!」
「松岡、先開けたって」
駆け出そうとする松岡を征して茶髪が言った。
「はいよ」
「残念でしたねぇ。ボクらを見くびってもらったら困りますわ〜」
固まる男にリーダーと呼ばれた茶髪──城島は微笑んだ。
「開いたよ。これ?」
「おん。それや。ようやったなぁ。じゃあ撤退。太一、頼むわ」
嬉しそうに報告する長瀬を笑顔で誉め、再び指示を出す。
「リーダーは?」
「ボクちょっとやる事あんねん。後始末せなかんやろ?せやから自分で帰るわ」
「了解。怪我しないでよ」
「わかっとるよ〜」
その言葉に、太一が他の3人を集め、そして消えた。
「き・・・・・・消え・・・・・・た・・・・・・?貴様らまさか能力者・・・・・・!?」
「そうですわ」
嫌悪の表情を浮かべる男とは対象的に城島の笑みが深くなる。
「はん!!化け物めっ、誰のお陰で貴様らが生きていられると思ってるんだ!!我々人間が寛大な・・・・・・」
「・・・・・・やっぱ屑は屑やね」
見下すような顔をして饒舌になった男の言葉を一蹴した。
「言っときますけどね、アイツらも人間ですよ?何言われても傷つかないなんてことはないんです」
表情は笑顔でも、目は笑っていなかった。
「実はもう1つ依頼を受けてまして。貴方の殺害依頼です。依頼主は貴方の片腕と言われる方ですね」
笑顔のまま懐から拳銃を取り出す。
「本当は楽に逝かせてやろうと思たんやけど、撤回させてもらいますわ」
男の顔が引きつる。銃口は男に向いていた。
「苦しんで逝ってください」
そうにっこり笑って。

サイレンサー付きの銃が火を吹いた。






「茂君」
「・・・・・・人を呪わば穴二つ。苦しめるのは嫌なもんやなぁ・・・・・・」
律儀にもビルの入り口から出てきたところで掛けられた声に、彼は苦笑いしながら答える。
「また殺人依頼受けちゃって。アナタがやるべき事じゃないでしょ」
「アイツ等には汚いもん見せたないねん」
その言葉を聞いて、山口は小さくため息をついた。
「甘やかしすぎじゃない?」
「ええの。ただでさえ能力者だからって蔑まれてきとんねんから」
「仕方ないなぁ」
呆れ返りながらも、城島の性状がそうであることが嬉しいようで、山口は苦笑を浮かべていた。
「さ〜、帰って松岡の朝飯でも食べようか」
「張り切って作ってると思うぜ」
つまみ食いをする太一・長瀬と、それに青筋を立てて怒る松岡の様子を想像しながら、彼らは楽しげに、岐路に着いた。






結構前に書いてたらしい奪還屋モノ。某漫画の影響かしら?
ちなみに智やんは念動力、マボはテレパス、たいっさんがテレポーター。
ぐっちさんはエクスプロージョン(爆破)で、リーダーはノーマル(非能力者)。
・・・らしいよ。
2006/3/4



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