@ やくそく 畳の部屋に小学校低学年ぐらいの少年が1人、ちょこんと座っている。 びしっと正座をして、申し訳なさそうにしていた。 部屋の中には誰もいない。 しかし、少年にはこう見えていた。 彼の斜め後ろに薄紫の着物を着た青年が、彼と同じくびしっと正座をしている。 彼の右手側には、朱色の着物を着た青年と空色の着物を着た青年が、少年らを眺めている。 そして、少年の正面に、山吹色の着物を着たガタイの良い青年が、頬杖をつきながら胡座をかいて座っていた。 「もっかい言ってごらん」 頬杖を外し、山吹色の青年が少年に微笑んだ。 「・・・・・・・・・・あんなぁ、あの・・・・・・・・・・あそびに行ってもえぇ?て言うてん・・・・・・・・」 「シゲは昨日の約束覚えてるか?」 「・・・・・・・・・ガッコーからかえってきたらたつやと海に行く・・・・・・・・・・・」 「そうだよな?」 少年は唇を噛んでうつむく。 その目は潤んで、今にも泣きそうだ。 「・・・・・・・・・・兄ぃ、あんまり強く言うと・・・・・・・・・・・」 少年の斜め後ろに控えていた薄紫の青年が心配そうに少年の肩を抱く。 「・・・・・・・・・やって・・・・・・・・・・はじめてあそぼうって言ってもらえたんやもん・・・・・・」 すぐにでも泣き出しそうにえぐえぐ言い始めた少年に、山吹色の青年は慌てて慰め始めた。 「お、わ、シ、シゲっ、俺は別に怒ってるんじゃないぞっ!ただ、お前が約束を忘れてたのかと・・・・・・・」 「フォローになってないよ、山口君」 その様子に、横で見ていた空色の青年がぼそりと呟く。 「うるせぇよ太一っ!」 山吹色の青年が噛みつくように空色の青年に怒鳴ったとき、襖が開けられた。 そこに現れたのはこの神社の宮司。 「茂ー?外に友達が来てるよ。坂本君と中居君だって」 宮司がそう言うと、少年はパっと表情を明るくして振り返る。 「はーい!!」 嬉しそうに返事をすると、立ち上がって走るように部屋から出ていく。 「さかもとく〜ん、なかいちゃ〜ん!!」 そう叫びながらあっさりといなくなった。 呆気にとられていた4人は黙ってそれを見送った。 「・・・・・・・・・・・・〜っ!!」 山吹色の青年が畳に手をついてうつむく。 「うぉおお!!シゲがっ!!あんなに素直だったシゲが!!これが反抗期かっ!?反抗期なのか!!!?」 そして悔しそうに床を殴りつけた。 「子どもって残酷ですよね」 「そんなもんじゃね?」 朱色の青年の呟きに、空色の青年が肩をすくめた。 「ぎゃー!!兄ぃっ!蹴らないでっ!!痛いから!!!痛いから!!!!」 「・・・・・・・・平和だなぁ」 「・・・・・・・・平和ですねぇ」 薄紫の青年の叫びを2人は右から左に聞き流し、開けっ放しの襖の隙間から、嬉しそうな少年とその友人たちの様子を眺めていた。 |
@ おでむかえ 「たつや〜!!ただいま〜!!!」 ランドセルに背負われた感がある小柄な少年が、そう叫びながら境内を走ってくる。 「シゲっ!お帰り!!」 山吹色の着物を着た青年が、境内に下りてそれを笑顔で迎える。 両手を広げ、おそらく飛びついてくるだろう少年に対して構えて待っていると、その横手を薄紫の着物を着た青年が歩いていった。 「あ!まつおか!!」 それを見て、少年は急遽進路を変更して、薄紫の青年の方に飛びついた。 「おわっ!?茂君!?」 「ただいま!あんなぁ!!きのうまつおかが作ってくれたおかし、まーくんがうまかったって!!!」 嬉しそうに薄紫の青年に学校の事を話す少年。 「また作ってあげるよ」 「ホンマ!?ありがとぉ!!!」 青年が優しく微笑むと、少年はぎゅっと抱きついて、カバンおいてくるー、と腕から降りて走っていった。 薄紫の青年は笑顔でそれを見送って、その視線の先に山吹色の青年を見た。 「あ・・・・・・・・・・・・・・・・・・兄ぃ・・・・・・・・・・・?」 「財布にしてやろうかテメェ!!!」 「えぇ!?財布!?俺何かした!?何かした!!!?ってぎやああああああああああああああ!!!?」 「今度ここにまーくん連れて来いよ」 「なかいちゃんも紹介してくださいね」 学校での出来事を嬉しそうに話す少年に、空色の青年と朱色の青年は笑顔で相槌を打っていた。 |
@ けんか それは、彼にとってはほんの些細なこと。 けれど、彼が溺愛する少年にとっては、全く些細なことではなかった。 「シゲ・・・・・・?」 名前を呼ばれた少年は、胸に抱く大きめのクマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。 我慢しているのか、彼の口はへの字に結ばれているが、その目には大粒の涙が溜まっている。 少年は見てしまったのだ。 山吹色の青年が、彼が大事にしていたぬいぐるみを蹴っ飛ばした挙句、踏んづけた瞬間を。 「わ、ワザとじゃないんだ!気付かなくて・・・・・・」 山吹色の青年が少年の機嫌をとる様子を、薄紫色の青年と朱色の青年がはらはらしながら見ている。 空色の青年は、小さくため息をついて、部屋の隅で本を読み始めた。 「・・・・・・・・・・・・・・・や・・・・・・・・・・・・・・」 少年が小さく呟いた。 「え?」 山吹色の青年が聞き返すと、少年はキッと青年を睨んだ。 そして。 「たつやなんてだいっきらいや!!!!」 そう叫んで、薄紫の青年から差し出されていたハンカチを山吹色の青年に投げつけ、少年は泣きながら部屋から走って出て行った。 「あっ、待って、茂君!!」 走り去った少年を、朱色の青年が慌てて追いかける。 残された空色の青年と、薄紫の青年は、山吹色の青年に視線を投げかけた。 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」 2人は、実際には聞こえないはずの、少年の言葉のリフレインを聞いた気がした。 「・・・・・・・『大っ嫌い』・・・・・・・」 呆然とした様子の山吹色の青年はそう呟いて、ふらふらと部屋の戸口に歩いていき、そのまま襖に激突する。 「兄ぃが!!!」 その様子に、薄紫の青年が衝撃の声を上げた。 「あのヒトをあれだけ落ち込ませることが出来るって、ある意味スゲー・・・・」 ぶつかった勢いで床に崩れ落ち、そのまましくしく言い出した山吹色の青年に、残された2人は微妙な表情を浮かべて見守るしか出来なかった。 境内に面した、母屋の縁側に、少年は足を投げ出して座っていた。 その横には朱色の着物を着た青年が、同じように座っている。 「・・・・・・・・たつやなんてきらいだもん・・・・・・・・・・・」 「そんなこと言ったら可哀想ですよ、茂君」 「・・・・・・・・・だってぼくのだいじなものふんづけたもん・・・・・・・・・」 「ワザとじゃないって、ぐっさん言ってましたよ?」 青年の言葉に、少年は頬を少し膨らませた。 と、その時。 「あれ、茂?どうした?」 この神社の宮司が現れて、少年に声をかけた。が、少年は答えない。 「今日はあのお兄さんたちはいないの?」 彼は青年に気付かず、少年の横に腰掛ける。 「・・・・・・・おらん」 少年の言葉に、朱色の青年は少しショックを受けたが、仕方ないか、と1人苦笑した。 「そっかぁ。寂しいねぇ」 「・・・・・さみしないもん」 少年のその言葉を聞いて、宮司は、おや、と驚きの表情を浮かべる。 「どうしたの。ケンカでもした?」 「・・・・・・・・・・・・・・」 ムスッとして俯いた少年を見て、宮司は苦笑した。 「ケンカしても、酷いことは言っちゃダメだよ。いなくなっちゃうかもしれないよ」 「・・・・・・・いなくなっちゃう・・・・・?」 「うん。茂だって、悪口とか言われたら悲しいでしょ?好きな人にそんな事言われたら、好きじゃなくなっちゃうでしょ?それとおんなじ。それは、友達だって、神様だって同じなんだよ」 その言葉に、少年は泣きそうな顔を浮かべた。 「どないしよう!!ぼくたつやにきらいって言っちゃった!!」 「茂は『たつや』君が嫌いなの?」 少年は勢いよく首を横に振る。 「じゃあ、ごめんなさいって言っておいで。きっと許してくれるよ」 宮司がそう言うと同時に、少年は部屋の中に走っていった。 それを見送った宮司を見て、朱色の青年は感心して少年の後を追いかけた。 山吹色の青年が窓枠にもたれて、ぼんやりと外を眺めていた。 ぼすっと背中に衝撃を受けて、彼は慌てて振り返る。 「・・・・・?・・・・・茂!?どうした!?」 ぎゅっと背中にしがみついてくる少年に、彼は驚いて声をかけた。 「ぼくたつやのこと大好きやで!!」 「・・・・・・・・・・・・は・・・・・・・・・・・・」 そして突然の少年の言葉に完全に硬直する。 「だいっきらいってうそや!!だからどこも行かんで!!」 そう言って、力いっぱい抱きつく少年。 少し呆然として、青年は顔を真っ赤にした。 そして。 「・・・・・・・・・何言ってんだ。俺がお前を置いてどっか行くわけないだろ?」 未だかつて無いほどに優しい声音で、青年は少年を抱きしめた。 「ホンマ!?」 「ああ、約束する」 嬉しそうに訊いた少年に、山吹色の青年は最高の笑顔でそう答えた。 「スゲー・・・・・・・花飛んでるよ・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・何かちょっと敗北感・・・・・・・・・・・」 「いーなー、ぐっさん。俺も好きって言ってもらいたいっす」 喜びのあまり見えない花を飛ばし桃色のオーラを振りまく青年と、嬉しそうに抱っこされている少年を見て、取り残された3人の青年は、それぞれに感想を漏らしてそれを眺めることしか出来なかった。 |
@ せいなるよるに 「あんなー、ぼくなー、サンタさんにおねがいしたのー」 うっと呻きそうになる口を何とか抑えて、黄色い着物を着た青年は、そう言った少年に微笑んだ。 「・・・・・・・・何をお願いしたんだ?」 「ひみつー。でもあしたがたのしみやねー」 ねー、と少年は首を傾げて黄色い青年に笑顔で同意を求める。 「・・・・・おう、そうだな・・・・・・・」 青年は決して少年に嫌そうな顔は見せたくなかったから、微笑んで同意した。 「兄ぃが海の向こうの宗教を容認する瞬間を見れるなんて思わなかったよ」 「宗教っていうか習慣だろ?でも山口君、舶来物嫌いなのになー」 「嫌いっていうか大っ嫌いですよねー。昔、何か壊しませんでしたっけ?」 「あー、どっかの子どもがリースとかいう飾りをうちの木にくくりつけてったやつだろ?」 「そんなこともあったねぇ。丸くなったねぇ、兄ぃ・・・・・・・・」 薄紫色の青年がしみじみと、感慨深げに呟く。 「ていうか顔が引き攣ってますよね、ぐっさん」 「茂君のためには天敵も受け入れるんだなー。すげぇや、あのヒト」 朱色の青年が彼ら4人のためにお供えされたケーキを頬張りながらあまり興味なさそうに、 空色の青年が最近となってはいつものこととなってしまった黄色い青年の様子に呆れながら呟いた。 3人の視線の先では、黄色の青年が笑顔を引き攣らせながら、始終ご機嫌の少年の相手を続けていた。 |