@ としこし 家族の集まるリビングで、少年は床にクレヨンとお絵描き帳を広げ、1人お絵描きをしていた。 両親と一緒にテレビを見ている少し歳の離れた兄も含め、彼を除いた家族には見えていないが、 少年の左右には黒髪の可愛らしい青年と、金髪の目付きの鋭い青年が床に転がってお絵描きを眺めている。 家族の座るソファの背には糸目の青年が寄りかかって一緒にテレビを観賞していた。 少年以外には見えない彼らの背中には、真っ白な翼がくっついている。 「これ何?まー君」 「カメさん」 黒髪の青年が指差した絵をちらりと見て、少年が答える。 「何で亀?」 「このまえね、おとーさんとにーちゃんとすいぞっかんにいってきたんだよ」 金髪の青年が首を傾げると、少年は嬉しそうにそう言った。 「水族館行ってきたんだ〜!亀さんの他には何がいたの?」 テレビを見ながら話を聞いていた糸目の青年が、楽しそうに笑いながら3人の傍にやってくる。 「イルカさんがいたよ!ジャンプじょうずだった!」 問いかけられて、少年は嬉しそうに話し始め、3人の青年は面白そうにその話を聞いていた。 「あれ、昌行、誰とお話してるの?」 トイレに行こうと立ち上がった父親が、1人で絵を描きながら喋っている少年に声をかける。 「いのはらとー、けんとごぉにね、すいぞっかんのことおしえてあげてんの」 ねー、と誰もいない方を見て同意を求める少年に、父親は苦笑を浮かべる。 「天使のお兄さん達だっけ?」 「うん!まっしろなはねがあるんだぜ!」 嬉しそうな少年の頭を、そうかそうかと撫でて、父親はリビングを出た。 「・・・・・・・・・・家の隣が教会だからかなぁ?」 そういえばお兄ちゃんも同じ様なこと言ってたような、と首を傾げながら、トイレに向かった。 家族と一緒に年越しをすると意気込んでいた少年だったが、やはり普段通りの時間には力尽きてしまった。 あと10分程で年が明ける頃、自分の部屋ですやすやと眠る少年の枕元に人影が現れた。 「昌行、昌行起きて」 その人影の小さな声に、少年は目を覚ました。 「あ、ながの・・・・・」 「おはよう、昌行」 「・・・・・・・・・・・・まだ外くらいよ・・・・・?」 「そうだね」 少年の言葉に人影が小さく笑う。 その内に電気を点けたわけではないのに、部屋の中がぼんやりと明るくなってきた。 「もうすぐ年が明けるよ」 「あ、かうんとだうん!」 「そう。ところで、昌行は、俺たちが海の向こうから来たっていうのは知ってる?」 部屋の中が何となく明るくなって、人影の姿がはっきりと映る。 色白の青年が穏やかな笑みを湛えて枕元に座っていた。 「うん」 「海の向こうではね、カウントダウンがゼロになったら花火を上げてお祝いするんだ」 「はなび!」 その言葉に少年の目が輝く。 「でもここじゃ花火は出来ないからね。こっそりと、昌行だけにいいもの見せてあげる」 色白の青年が声をかけると、先ほどリビングにいた3人と、物静かそうな青年が現れた。 「そろそろや」 物静かそうな青年がポツリと呟くと、部屋の中の灯りが急に消える。 そして窓際にいた糸目の青年がカーテンを開け放った。 窓の外では雪が降りしきり、すでに積もっていた白が家々の灯りを反射して、外は少しだけ明るかった。 「10、9、8、7」 黒髪の青年と金髪の青年が楽しそうにカウントダウンを始めた。 それに習って少年も声を出して数え始める。 「6、5、4、3」 糸目の青年が少年を抱え上げ、自分の目の高さまで持ち上げる。 「2、1、0」 ゼロカウントと同時に黒髪の青年が手を広げた。 そして金髪の青年が火を部屋の中に現すと同時に、色白の青年が自分の目の高さで指を振った。 「わあ!!」 蝋燭の炎のように頼りなく空中に点在していた炎がパチパチと音を立てて、花火のように弾ける。 色白の青年や金髪の青年が手を動かすたびに色や形が変わっていく。 「「「「「A Happy New Year!!」」」」」 青年達が元の国の言葉を口にした。 「・・・・・・はっぴ・・・?」 「ア、ハッピー・ニュー・イヤー、だよ。明けましておめでとうって意味」 糸目の青年が少年に耳打ちする。 「明けましておめでとう、昌行」 「おめでとう!」 火花がキラキラと踊り続ける中、色白の青年が少年に微笑みかけた。 それを合図に残りの3人も口々におめでとうと声をかける。 「新しい一年が始まったお祝いに、一つだけお願いを叶えてあげる」 「お願い事を、良いよって言うまで目を瞑って一つだけ考えて。絶対に口に出しちゃダメやで?」 そう言って物静かな青年が微笑んだ。 少年は頷いてしばし考え込んだ後、目をぎゅっと瞑る。 目を閉じているのを確認して、物静かそうな青年が少年の頭の上に手を翳した。 そして聞き取れないくらいの小さな声で何かを呟く。 すると、その手からキラキラと光の粒子が溢れて、少年の頭に降り注いだ。 青年が少し声を張る。聞こえてきたのは賛美歌だった。 それに合わせて他の青年たちも声を合わせていく。 とても短い歌ではあったが、綺麗なハーモニーを奏でていた。 「ええよ」 その言葉に、少年がパッチリと目を開ける。 「すごい!じょうず!」 「ありがと」 「まー君のために心を込めたからね!」 「願い事、叶うといいね」 「うん!」 嬉しそうにそう頷いた少年に、5人もつられて満面の笑みを浮かべたのだった。 「願い事分かった!?」 「・・・・・・・・全然分からへんかった・・・・・・・・・・・・」 少年が眠ってしまってから、5人の青年たちは家の屋根の上で揉めていた。 「何やってんの岡田!」 「意味ねーじゃん!!」 「まぁまぁ、そういうこともあるよ」 「長野君甘すぎ!」 黒髪の青年の甲高い声に、耳が痛い思いをした4人だった。 * * * * * 2010/01/02 close |