@ はつひので

昨夜は、除夜の鐘を108回数えるのだと意気込んでいたのだが、結局年明け前に少年は力尽きた。
初詣客への対応でバタバタしている宮司の代わりに少年の面倒を見ていた朱色の着物を着た青年は、
苦笑いをしながら少年を布団に寝かしつけた。

それが31日の夜のこと。

子どもの朝は早い。
まだ夜が空けず、薄暗い中、もそもそと少年は布団から這い出した。
寝惚け眼で傍に置いてあった半纏を羽織って部屋を出る。
雨戸が閉められた本殿に繋がる廊下を歩き、手前の物置の扉を開けた。
「・・・・・・・・・・おはよー」
部屋の中には着物を着た青年が4人、ストーブと炬燵を囲んで寛いでいた。
「茂君、おめでとうございます」
一番扉側にいた、朱色の青年が笑顔でそう声をかける。
「あ、おめでとーございます」
かけられた言葉に少年はハッとして、ぺこりと身体を曲げて挨拶をした。
その様子をクスクス笑いながら、青年たちは口々におめでとうと返す。
「茂君、寒いでしょ。入っておいでよ」
薄紫の着物を着た青年が手招きをすると、少年は、おじゃましますと呟いて部屋に入った。
きちんと扉を閉めてからパタパタと小走りに、山吹色の着物の青年の元に一直線に向かう。
「たつやー。おめでとぉ」
「おう。おめでとう、シゲ」
山吹色の青年に頭を撫でられ、嬉しそうに笑いながら、横に座っていた空色の着物の青年にも声をかける。
「たいちおめでとー」
「おめでと」
「まつおかおめでとぉ」
空色の青年の返事をもらってから、少年は薄紫の青年に頭を下げる。
「おめでとう」
そして少年は勢いよく朱色の青年に飛びついた。
「ながせおめでとー!」
「おめでとうございます、茂君」
少年のダイブをキャッチして、朱色の青年が笑う。
「ちゃんと順番覚えてましたね。偉い偉い」
そう言って朱色の青年が頭を撫で回すと、自信たっぷりに大きく頷いた。

「おしごとおわったん?」
「終わってはないな。ちょっと休憩中」
山吹色の青年の膝に陣取って、少年は首を傾げる。
その手には、薄紫の青年が淹れてくれたお茶が入った湯呑が握られていた。
「きゅうけい」
「そう。お客さんあんまり来ない時間だからね」
「お客さん来たら交代でお願い聞きに行くんだよ」
「たいへん?」
「そうだなぁ。大変だけど、お仕事だからな」
そう言って山吹色の青年は用意してあったミカンの皮を剥き始める。
「もう少ししたら夜が明けるな。初日の出を見ようか」
剥き終ったミカンを一切れ少年の口に放り込みながら、山吹色の青年が提案した。
それに嬉しそうに朱色の青年が賛同する。
「シゲ、お日様が出てくるのを見るから、暖かい格好しておいで」
「うん」
少年は元気よく返事をして、青年の膝から立ち上がっていそいそと部屋から出て行く。
その後ろを薄紫の青年が、同じくいそいそと追いかけた。

「外さむい?」
「寒いよ。雪降ってるからね」
「ゆき!?」
甲斐甲斐しくコートを着せる薄紫の青年の言葉に、少年は嬉しそうに目を輝かせる。
「だからマフラーして、手袋して、帽子も被ろうね」
「うん。ゆきだるま作ろうな!」
「いいねぇ」
少年が手間取りながらコートのボタンを留めるのを、根気よく待ちながら、青年は頷いた。
「でけた!」
「よし、じゃあ行くか!」
青年は少年を勢いよく抱き上げて、部屋を出る。
そして、途中で玄関によって少年の長靴を持ってから、本殿手前の物置に戻った。
「お待たせ」
「おまたせー」
薄紫の青年の言葉を真似して、少年も声をかける。
それを笑いながら、山吹色の青年が少年を受け取って5人で外に出た。
「さむ!」
外に出た途端、空色の青年が悲鳴を上げる。
「スッゲー雪降ってるじゃん。日の出どころか空も見えないよ」
一晩中降り続けた雪が積もって視界は真っ白だったが、明かりがなくても周囲は何となく明るかった。
「よし、雲の上行くぞ。太一はシゲを頼む」
「茂君おいでー」
山吹色の青年から少年を預かり、空色の青年は一歩後ろに下がる。
「どっかいくん?」
「初日の出見に行くんだよ。山口君が乗せてってくれるって」
「ホンマ?」
「ホンマ。ほら」
青年の言葉とともに辺りが一瞬明るくなる。
そして境内には3匹の龍がいた。
「かっこええ!!」
「でしょ。俺も変身できるけどね。今回はお預け」
そう言って青年は龍の一匹に近付く。
黄色い目の龍はそれを見て、頭を地面に付けた。
【乗れよ】
「お邪魔しまーす」
「しまーす」
車ほどもある大きな頭によじ登り、空色の青年がいいよと声をかける。
すると黄目の龍は頭を持ち上げた。
【行くぞ】
空色の青年が、少年を抱えるようにしてたてがみにしがみつく。
「ちょっとだけ目を瞑るよ!」
「おん」
その返事とともに、青年は少年に覆い被さった。

フカフカのたてがみと上に覆い被さる青年で周りは見えなかったが、ごうごうと風の音が聞こえた。
すごい音がする、と思っていると、ふと音が消えた。
「?」
「着いたよ」
空色の青年がそう言って身体を起こすのに合わせて、少年も起き上がった。
そして。
「わあ!」
少年は視界に広がる景色に声を上げる。
眼下には雲海が広がり、少しずつ顔を覗かせた太陽の光が雲を金色に染めていた。
「きれー!」
【シゲ、あれが初日の出だよ】
足元から声がする。
黄目の龍が自分の頭の上に視線を向けた。
その横に浮く紫眼の龍と赤眼の龍が少年と空色の青年の傍に顔を寄せる。
「すごいきれー!ありがとぉ、たつや!」
少年はもふっとそのたてがみに抱きついた。
「今年はいいことあるよ、茂君」
「ホンマー?」
【俺らが言うんだからホントだよ】
紫目の龍の言葉に少年は嬉しそうに笑う。
【お願いはしましたか?】
「?」
【初日の出に手を合わせてお願い事をすると叶うんだぜ?】
「そうなん?そしたらなー」
少年はそう呟いてから、その小さな手を合わせて目を瞑る。
そして、お願いした!、と顔を上げた。
【よし、じゃあ帰るか!】
【帰ってお雑煮食べましょー!】
黄目の龍の言葉に赤目の龍が賛同する。

そして一行は行きと同じように神社に戻ったのだった。




「何が何でもシゲの願いを成就リストに捩じ込むぞ」
「了解。ちょっとコネを辿ってみるよ」
「大神様にもお願いしてみるわ」
「絶対に叶えてあげましょうね!」
少年が宮司とともに朝のお勤めをしている間、4人の青年たちはそんな相談をしていたそうな。



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2010/01/02


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