悔しいけれど
「あー、うー」
「そうだなー。きれいだなー」
目の前で繰り広げられている親子の団欒を、少し不満げに眺める視線が一つ。
「あ、坂本君、准貸してー」
部屋に入ってきた健が、坂本から准一を借りていく。
もともと准一の様子をメインで見ていたのは健なのだから、健の手元に帰ったと言った方が正しいのかもしれないが。
准一を健に渡し、少し疲れた様子で坂本は長野の座るソファにやってきた。
「疲れた・・・・・・・・・って何不貞腐れてんだ、お前」
「・・・・・・・・・別に」
「ああ、俺が准ばっか構ってんのがムカついたんだろ」
ニヤニヤしながら坂本は長野の横に座る。
「違うよ。何自惚れてんだよ、キモチワルイ」
「何だよ、それ。せっかくいい事教えてやろうと思ったのに」
長野の突っ慳貪な言葉に、今度は坂本が不貞腐れたような表情を浮かべた。
「え?何?」
「教えねぇ」
「何だよ、それ!」
「・・・・・・・・・・・・知りたい?」
「知りたい」
「じゃあ認めるだろ?」
ニヤリ浮かべた笑顔に、長野はグッと詰まる。
しかし次には小さな声で呟いた。
「・・・・・・・・・・・・不貞腐れてました・・・・・・・・・・」
「よし」
その様子を見て、坂本は楽しそうに笑う。
そして長野の耳元で小さくある事を呟いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
次の瞬間、長野の顔が真っ赤に染まった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・嘘だぁ」
「ホントだって。俺がこの目と耳で見て聞いたもん」
少し戸惑ったような様子の長野に、坂本は笑う。
「お前、准の事避けてただろ。今度ちゃんと構ってやれよ」
そう言って、坂本は長野の肩を叩いた。
「さて、煙草でも吸ってこよっと」
そして坂本は去っていった。
『こないだ准がお前探して泣いてたぞ』
まさか、実はヤキモチをやいていて少しだけ疎ましく思っていた存在が、自分を探して、見当たらないからって泣いてくれるなんて思わなかった。
悔しいけど、これじゃあ敵わないや。
何となくそう思った。
2008/04/13
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