出会いは突然に

城内を散歩していた長野が辿り着いたのは、誰も立ち寄らない城の奥の方の中庭。
あまり広くないそこの中央には、水の流れない噴水がある。

何でこんな所に噴水が。

そんな事を思いながらそこに近寄った。
近付いて確認してみても、確かに水は流れていない。
「?」
何となく見上げるが、空は見えない。
真っ白な壁が続いて、アーチ型の天井を作り上げている。
「・・・・・・・・・・・・・何だ、ここ」
そう首を傾げた瞬間、微かに桃色がかった光が一筋差し込んできた。
「!?」
慌てて一歩下がって上を見上げるが、光が強くて何も見えない。
「何だよ、これっ」
そう悪態吐いた瞬間、光の中に黒い点が見えた。
「?」
点はどんどん大きくなってきて、というか、何かが落ちてきているのに気付いた。
そして、それがかなり近付いてきた時、長野はそれが子どもであることに気付いて、慌てて抱きとめる。
「うわっ」
勢いよく落ちてきたそれを受け止めた反動で長野はしりもちをついた。
そして、受け止めた腕の中のモノを見て、言葉を失った。
思わず周囲を見渡す。
誰もいないことを確認して、それを上着で覆い隠し、走ってその場を後にした。








* * * *








「・・・・・うん。上出来」
機嫌良さげに、坂本は呟いた。
目の前には鍋。
人間界で買ってきた料理本を片手に、一からカレーを作っていた。
「わー!いい匂い!!坂本君カレー作ったの?」
台所を覗き込んで、井ノ原が声を上げた。
不思議そうな顔をしながら、健と遊びに来ていた剛も覗き込む。
「“かれー”って何?」
「人間界で有名な料理だよ。こないだ松岡に教えてもらってさ」
「松岡って茂君とこにいる人間だよね?」
坂本の言葉に健が首を捻る。
「そう。この前来てただろ」
「俺会ってねーよ」
「俺もー。会ってみたかったなー」
ブーブー文句を言う2人に苦笑を浮かべながら、坂本は鍋のフタを閉めた。
「もうちょい煮込みたいから、もう少し後で食べようか」
そう言って台所から離れる。
一息つこうとソファに座りかけた時、背後にある一番大きい窓が勢いよく開いた。
「坂本君!!」
「・・・・・長野?どうし・・・・・」
「これお願い!!」
驚いて立ち上がった坂本に、窓から入ってきた長野が問答無用に白い布にくるまれたモノを手渡す。
「じゃ、ちょっと俺用があるから!!また後で来るから!!」
そしてそれだけ言って、また窓から出ていった。
「・・・・・・・・・・何だあれ・・・・・・・・・・」
怒濤の勢いに、4人は呆然と見ていただけだった。
「てか何それ」
一番初めに我に返った健が坂本の持っているモノを覗き込む。
「・・・・・あ、何だろ。結構重い・・・・・。てかこれ長野の上着じゃね?」
井ノ原と剛も見に来て、坂本はゆっくりと上着をめくっていく。
そしてその中にいたのは。
「・・・・・・・・・・子ども・・・・・・・・・・?」
赤ん坊と言ってもあながち間違いではないくらいの小さな子どもがそこにいた。
「・・・・・まさか坂本君、ついに長野君に手を・・・・・!!」
「出すかアホ。一遍死んでこい」
井ノ原の言葉を一蹴して、その子どもを頭上に抱き上げる。
「天使・・・・・じゃねぇな。でも純粋な悪魔でもない気がする」
「羽根の色、灰色だけど」
真っ白な服を身に着けているが、背中の小さな羽根は白くない。
かといって黒でもなく、ちょうど中間くらいの灰色の翼。
「・・・・・これ、ヤバいんじゃね?」
坂本は顔を引き吊らせて3人を見る。
「何がヤバいの?」
「や、こっちではヤバくないけどさ。剛、そうじゃね?」
「・・・・・確かにヤベぇかも・・・・・」
首を傾げる2人とは対照的に、剛も微妙に引き吊った笑顔を浮かべていた。
「・・・・・長野君が連れてきたって事は天界で拾ったって事だよな・・・・・」
「混ざりモノはあってはならないんだろ?お前は別として」
「俺は天使側に偏ってたから羽根染めるだけで許されたけど・・・・・」
「こいつ明らかに純粋な天使じゃねぇもんな。悪魔でもないし」
坂本と剛のやりとりを、健は不思議そうに眺めている。
「ねぇ、何で灰色がヤバいのさ」
「それはねぇ、健ちゃん。天界は純粋なモノしか受け入れてくれない厳しい世界だからだよー」
健の呟きに井ノ原が答える。
「羽根は白くなければならない。他の色に染まったモノはふさわしくないという純血主義の世界だもんだから、あの子があっちで生まれたこと自体がマズいことなのですよ」
「わけわかんない。だったら剛はどうなの」
「言ってたでしょ。剛は良かったんだって。山口君の権力で。まぁ剛も健も特殊中の特殊だから」
井ノ原がそう言うと、健は納得いかない様子で坂本の腕の中に視線を向ける。
「あの子は中間だからダメって事?」
「そう。しかもあっちの理論だと、あんなモノが生まれたっていうことは天界は清浄じゃないって事になるからね。抹殺対象じゃない?」
最後のその言葉に、健は目の色を変えた。
そして坂本から半ば奪うようにして抱き締める。
「おい、健」
「そんなの絶対ダメ!!」
怒りを滲ませて健は声を上げた。
「せっかく生まれてきたのに!」
「健、落ち着け。そんな事させないから。どうするかはアイツが戻ってきてからだ。
 また来るって言ってただろ、長野」
坂本がそう言うと、健は小さく頷いた。








* * * *








「落ちてきたから抱きとめたら、子どもだった、と」
「・・・・・・・・そう・・・・・・・・・」
坂本が話を要約すると、長野は素直に頷いた。

坂本に子どもを預け、長野が戻ってきたのはそれから丸々1日過ぎてからだった。

「ところでお前今まで何してたんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アリバイ作り」
「・・・・・・・・は?」
長野の口から出てきた言葉に、坂本は眉を寄せて声を上げた。
「だって!あんなの拾っちゃって、最悪俺が処分しなきゃいけなくなるんだよ!?
 そんなん出来ねぇし、したくないもん!」
「だから辻褄合わせか・・・・・・・・・・。まぁ、しゃーねーよなぁ」
必死な長野の様子に、坂本はため息をつく。
「で、どうすんだ。あれ」
そして視線を少し離れた場所で3バカトリオが構っている子どもに向ける。
「こっちじゃ育てらんないし、かといって茂君とこ持ってくのも気が引けるし・・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・・・出来れば預かってもらいたいんだけど・・・・・・・・・・・・・」
「俺が世話すんのか」
「ちゃんと世話しに来るから!だって俺こっちに住」
「そっから先は言うな」
長野が言いかけた言葉を、坂本は遮った。
「それは思ってても言っちゃマズい。立場があるんだからさ、俺たちには」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・嫌味言って悪かった。単なる冗談のつもりだったんだ。
 いいよ。井ノ原も健もいるし、部下に子ども好きも結構いるから、大丈夫。
 っていうかそうしないとあいつら怒るだろ?もうあんなに馴れちまってるし」
苦笑を浮かべながら坂本は視線を向ける。
長野が振り返って見ると、ケラケラと楽しそうに笑う子どもの姿があった。
「ただし様子は見に来いよ。お前が取り上げたんだから、お前が親なんだから」
「分かってる。・・・・・・ありがと、坂本君」
「気にすんな」
そう言って坂本は俯き加減の長野の頭を軽く叩いた。

「で、名前だけど、どうするよ」
「・・・・・・・・・・・・・・名前?」
「・・・・・・・・・名前無しで何て呼ぶんだよ」
「あ、そっか」
なるほど、といった様子で手を叩いた長野に、坂本がため息をついた。
「うーん・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・…何か良い名前ねぇかなぁ・・・・・・・・・・・」
頭を捻る2人を他所に、3人+αは楽しそうな笑い声を上げていた。


准さん(まだ名前ないけど)が何者かっていうね。

2007/07/07

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