必ず通る道2
ソファに転がる長身の姿を見て、長野は横に立つ剛の顔を見た。
「アレ何だと思う?」
「井ノ原君の話だとお父さんの傷心らしいけど」
「何それ」
「さぁ?」
2人揃って首を傾げていると、後ろから走る足音。
剛が振り返るのと同時に、健が剛に飛びついた。
「ごーう!!いらっしゃ〜い!!」
いつものことで、振り返る時に足を踏ん張っていた剛は、ひっくり返ることなく健を受け止める。
「いらっしゃい!長野君!」
「お邪魔してます」
そのままの体勢で長野に微笑みかけた。
長野もそれに微笑み返す。
「ねぇ、健。アレ何なの?」
「知らな〜い。准に何か言われたみたいだけど、ずっとああなんだよね!ウザいし!!」
健の口調に長野は苦笑を浮かべながら視線を坂本に向けた。
「・・・・・重い」
「あ!ゴメンゴメン!!」
「こないだの・・・・・」
「うん!準備してあるよ!!」
今日は剛が来るって思ったから、と嬉しそうに言って、健は剛から降りる。
そして手を引っ張って奥の部屋に2人で行ってしまった。
「・・・・・そういえば准・・・・・」
2人を見送って、長野はふと思い当たり、周囲を眺める。
想像していた姿は見当たらず、そのままもう1つの部屋の扉を開いた。
「あ、長野君。いらっしゃい〜」
その部屋の中では、予想通り井ノ原と准一の姿があった。
「お邪魔してます」
井ノ原の笑顔に笑い返し、准一を見る。
すると、准一はクレヨンを放り投げて長野の方に走ってきた。
「ひろし!!」
「准〜、元気にしてた〜?」
「おん!!おれいい子にしてたで!!まーくんもいのっちもけんくんもいない時におるすばんできたんやで!!」
「すごいね、准!!偉いねぇ」
飛びついてきた准一と視線を合わせるためにしゃがみ、そう誉めると、准一は一層嬉しそうに表情を弛めた。
「あんな」
そして真剣な顔で長野を見た。
「うん?」
「おれ決めたん!!」
「何を決めたの?」
「おれ、博とけっこんしたい!!」
その瞬間、後ろで聞いていた井ノ原がぶっと吹き出した。
「俺と?」
「おん!!やって博かっこよかったもん!!」
目を輝かせる准一に、長野は一瞬井ノ原に視線を向けた。
目配せする井ノ原に、長野は瞬時に状況を把握した。
「それは嬉しいなぁ。でも准一はまだちっちゃいから、大きくなったら考えてあげる」
「おっきなったら?」
「そう。まーくんみたいに大きくなって、いろんな事が1人で出来るようになったらね」
「ホンマ!?」
「うん」
長野が頷くと、准一は嬉しそうな顔をして部屋から走って出ていく。
「まーくーん!!」
扉の向こうから保護者代表を呼ぶ声が聞こえた。
「やー、さすが長野君。扱い上手いねぇ。でも大きくなった時はどうするの?」
「え?俺は考えるとは言ったけど、結婚してあげるとは言わなかったよ?」
「わー。勘違いしてそー」
「嘘はついてないもん」
あははと笑いながら長野は傍にあった椅子に座る。
「ホント上手いね」
将来的に起こるだろう事態を考えて、井ノ原は再度吹き出した。
2008/04/13
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