必ず通る道
「まーくんっ」
自分を呼ぶ声が耳に届いて、坂本は紫煙を吐き出しながら振り返った。
最近背が伸びて、坂本の肘辺りに頭のてっぺんが届くようになった准一が目をキラキラさせながら走ってきていた。
その姿に坂本は苦笑を浮かべる。
手近に置いていた灰皿に煙草を押しつけ、少し腰を落として准一と視線を合わせた。
「どうした、准一」
「あんな、いのっちからな、博のたたかってる時のこと聞いたん!」
「おう、それで?」
一生懸命感動を伝えようとしているのか、手振りに熱が入っている。
可愛いなぁと思いながら坂本は続きを促した。
「いのっちすごくてな!それ見せてくれてん!」
「あぁ、アイツそういうこと出来るもんなぁ」
「めっちゃカッコよかってん!!」
「そうか!」
「やからおれ決めたん!」
「何を?」
ぐっと手を握りしめて決意を伝える准一に、坂本はその内容を訊いた。
「おれな、博とけっこんする!!」
「・・・・・は・・・・・?」
「やって、おっきなったら『けっこん』するんやろ?まつおかくんからもらった本の王子さまはみんなけっこんしとったもん」
「・・・・・そ、それはお姫様とだろ?長野は男だぞ?」
お姫様じゃないから出来ないだろ、と坂本が言うと、准一の表情が歪んだ。
「出来へんの・・・・・!?」
その顔に、坂本は固まった。
「あ・・・・あー・・・・・どうかな・・・・・・とりあえず長野が良いって言えば良いんじゃないか・・・・・?」
「ホンマ!!?やったら博にきいてくる!!!」
坂本の言葉に再度顔を輝かせ、准一は元来た方に戻っていった。
「ちょっと!!何で俺が散歩に出た途端に雪降らすのさ!!信じらんねー!!サイテー!!」
ソファに横たわる坂本に、健は金切り声で怒りながらクッションを投げつける。
「健ちゃん、健ちゃん。坂本君は今、娘を持った父親が必ず通る道を通ったんだよ」
だからそっとしておいてあげなよ、と井ノ原が笑いを堪えながら健の肩を叩いた。
ずんいちさんは昔、「結婚するなら長野君と」と言っていたというお話を聞いたので。
2008/04/13
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