1人よりも2人の方が美味しいよね

薄黄色の表面にスプーンを突き刺す。
大した力も要せず、掬い上げられた。
それを一口。
口の中にほんのりとした甘味が広がって、長野は幸せを噛み締める。
「美味しいなぁ」
さすが坂本君。
小さくそう呟いて二口目のスプーンをプリンに突き立て、ふと斜め前に視線を向けた。
長野が座るソファの前、ぬいぐるみで遊んでいた准一が、長野を、と言うよりも長野の手元をじっと見ていた。
長野は眉を寄せ、その焦点の先を見る。
そこには食べかけのプリンがあった。
瞬間的に准一の意図が解ったが、あげたくないな、とも思う。
長野はしばしプリンと准一を交互に見つめ、そして口を開いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・食べる?」
「うん!!」
その言葉に准一の目がキラキラ輝く。
ぬいぐるみをその場に置いて、准一は小走りに長野の前にやってきた。
膝に触れる小さな手の温もりを感じながら長野はスプーンで一口分をすくう。
しかしそのまま手を止めた。


『頼むからお前も准一のしつけに協力してくれよ』


少し前に坂本に言われた言葉が頭の中に蘇る。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
そして准一を見る。
期待に目をキラキラさせて、ワクワクしながら准一は長野を見ている。
「・・・・・・・・・・・・・・准一」
「?」
「他の人のものがほしい時は、何て言うんだった?」
長野は柔らかく笑って、少し首を傾ける。
「あっ!・・・・・・・・・・・・・・・・・えーっと・・・・・・・・・・・・・」
その問いかけに気付いたのか准一は声を上げ、そしてうんうん唸り始めた。
それを根気よく待ってやると、それほど時間もかからなかった。
「ください!」
「よくできました〜」
正解、と笑うと准一も嬉しそうに笑う。
「はい、あーん」
「あーん」
長野の掛け声に、准一は大きく口を開ける。
そしてようやく口にした甘味に、准一は頬を赤らめて喜ぶ。
「じゃあ半分こしよっか。ちゃんと座って食べようね」
「はーい」
その言葉に准一はソファによじ登って、長野の横に腰掛けた。
長野は少し考え込んだ後、一度器を横のテーブルに置いて自分の膝の上に座らせる。
そして2人仲良く分け合い始めた。



* * * *



隣の部屋との境目の扉付近に覗き見する影。
「・・・・・・・・・・・っ長野が分け合うことを覚えた・・・・・・・!!!」
「そうだね・・・・ってえええ!!!?感動するとこ、そこ!!!?」
「これは親子愛に感動するところでしょ!!」
「それもちげーよ!」
感動して涙する坂本に、同じく覗き見していた3人がバラバラにツッコミを入れた。


2008/04/13

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