喧嘩両成敗

「さっかもっとくんっ」
軽やかな声とともに扉が開いた。
胡散臭そうな表情を浮かべた坂本が、その声に頭を上げる。
「・・・・・・・・・・・・何だよ、堂本兄弟の半分」
「兄弟やないですって」
スタスタと近づいてくる光一に、坂本は持っていたペンを置いた。
「何?」
「お願いがあるんです」
「イヤ」
にっこりと微笑んだ光一を見て、坂本は即答する。
「まだ要件言ってへんのですけど」
「お前の笑顔が胡散臭いから」
「またまた〜。こないだ准一君預かったやないですか〜。しかも最近大野がちゃんと仕事してて溜めないから、結構のんびりしてはるんでしょ?」
光一の言葉に坂本は視線を逸らす。
確かに最近は定期的に書類が回ってくるからのんびりできる時間も増えていた。
「・・・・・・・・・・・・何だよ、お願いって」
准一を預かってもらった借りを返していないことにも思い当たり、坂本は諦めてそう訊く。
その問いかけに、光一はにっこりと笑った。


* * * *


「わぁぁぁあああん!!」
突然響き渡った甲高い泣き声。
夢現だった剛は、イラっとしながら目を開けた。
のっそりとソファから身体を起こして、寝惚け眼のまま声のした方を見る。
ちょうどベソをかいた准一が坂本に向かって走っていくところだった。
「ん?どうした?」
本棚の整理をしていた坂本が、足にへばりついてきた准一を抱き上げて問いかける。
「・・・・・・・・・・・・よっ・・・・・・・・・・・・よこちょがっ・・・・・・・・・・・・」
「よこちょが?」
「・・・・・・・・・・・・よこちょがっ・・・・・・・・・・ぶったっ・・・・・・・・・・・・」
ひっくひっくとしゃくりあげながら、准一は坂本に主張した。
「そうかそうか。痛かったなぁ」
頭をよしよししながら、そのままソファに腰掛ける。
坂本は、痛いの痛いの飛んでけー、などと言いながら准一を慰めていた。
そして剛は、反対側に目を向けた。
「よこちょたたいちゃめー」
「おれはわるないもん!」
「じゅんくんないてる・・・・・・・・・・・・」
隣の部屋にいた小さい子供3人が、口々に何かを言っている。そして、一番小さい子が、何故か目を潤ませて今にも泣きそうな顔をしていた。
「あらー!ヤス君!!何で泣きそうになってんの!!」
どうしようと思った瞬間、どこからともなく井ノ原が現れてあやし始める。それを見て、剛は視線を元に戻した。
「なぁ、准一。何があったか教えてくれる?」
「・・・・・・あんな・・・・・・じゅん、つみきであそんでたん・・・・・・・・・でな、
 よこちょつみきいっぱいやったからな、ひとつとったらな、よこちょたたいたん・・・・・・・・・・・・」
「そっかそっか」
「やってよこちょいっぱいつみきあったん!じゅんもでっかいの!」
「でっかいの作りたかった?」
「うん。だってよこちょいっぱいもってたもん。・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっと待っててな」
突然俯いて黙った准一に、坂本はそう言ってソファから離れる。
そして隣の部屋で居心地悪そうにしている色白の少年の傍でしゃがんだ。
「横、おいで」
「・・・・・・・・・・・・わるないもん・・・・・・・・・・・・」
小さくそう呟きながらも素直にやって来た少年を抱き上げる。
「何があった?怒らないから言ってみ?」
よしよししながら笑いかけると、少年は小さくしゃべりだす。
「やってな、じゅんくん、おれのつみきとったんやもん・・・・・・・・」
「そっか。取られて悲しかったんだ?」
「やってな、おれのつみきやったんやで!」
「うん」
「さきにとったんやもん!」
「そうだよなぁ」
「やからたたいたん・・・・・・・・・」
「そっか」
否定するでもなく、坂本は肯定だけしてそのまま少年を連れてもとの位置に戻ってきた。
そしてソファに腰掛けると、少年を持っていない方に准一を抱えた。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
気まずそうに視線を逸らす少年2人を見たが、坂本は何も言わない。
しばし時間が流れた後、坂本はおもむろに2人をソファに降ろした。
「おやつ食べるか」
それだけ言って部屋から坂本は出て行く。
取り残された2人の間にどことなく気不味い空気が流れた。
そして突然、少年が小さく小さく呟いた。
「・・・・・・・ぶってごめんな・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・ぼくもつみきとってごめんなさい・・・・・・・・・・・」
それに答えて准一も小さくそう言った。
2人は顔を見合わせる。
そして小さく笑った。


* * * *


「お。仲直りしたのか」
坂本がお菓子片手に、もう片手に少年2人を抱えて部屋に戻ってくると、少年と准一が仲良くくっついて手遊びをしていた。
「ほら、クッキー持ってきたからみんなで食べようか」
そう笑ってもう2人もソファに降ろす。
そして仲良くクッキーを広げ始めた。


* * * *


「・・・・・・・・・坂本君ってさ、いつから保父さんに・・・・・・・・?」
「知らな〜い。ホントにお父さんだよね〜」
剛の呟きを、いつの間にか傍にやってきていた健が拾う。
「ま、いいんじゃない?楽しそうだし」
その言葉に、剛は、そんなもんかと小さく欠伸をして、もう一度ソファに横になった。


2008/04/13

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