おめでとうのその前に

何だか部屋が妙に広く見えた。
自分以外に誰もいないからと気付いたのは一瞬遅れて。

(今日は剛がいないんだ)

そういえば昨日、健の所に行くと言っていたような気がする。

(この部屋、結構広かったんだなぁ)

何となくそう思う。
そしてそう思ったと同時に突然寂しくなった。
「・・・・・・・・・・・・俺もあっち行こうかな・・・・・・・・・・・・」
やること終わったし、と呟いて、彼は席を立った。



「げっ!長野君!!」
「『げっ』て何だよ」
顔を覗かせた健の声に長野は眉間にシワを寄せた。
「悪いつもりで言ったんじゃないよ!でも今はまだ部屋に入ってもらっちゃ困るの!!」
「何で?」
「え・・・・・・・・・・・・えっと・・・・・・・・・・・・」
理由を問い返すと、健は言葉に詰まる。
「ダメだなぁ〜、健ちゃん。こういう時は嘘も方便って言うデショ〜」
言いながら健の後ろから姿を見せたのは井ノ原だった。
「ゴメンね、長野君。そういうわけだから、この辺でしばらく待っててね」
そして長野がそれに返答する前に、扉は閉められる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
言葉が出なくてそのまま立ち竦んだ。















ざくざくと草を踏みしめる足音がした。
「何してんだよ、こんなところで」
頭の上から降ってきた声に、長野は頭を上げた。
「・・・・・・坂本君」
「井ノ原が『この辺で待ってて』って言わなかったか?
 部屋の傍にいると思ったのにいないから、慌てたじゃねーかよ」
「・・・・・・・・・・・・・ゴメン」
坂本のため息に、長野は俯きながら小さく呟いた。
「・・・・・・・・・・・・・何だよ」
「・・・・・・・・・・・・・何でもないよ」
その答えを聞いて、坂本は長野の横に腰を降ろして、背後の木にもたれかかった。
「何でもないこと無いだろ」
「何でもないもん」
「じゃあそんな顔すんなよ。今日の主賓はお前なんだぞ」
「・・・・・・・・え・・・・・・・・・・」
坂本の言葉に、長野は驚いた様子で顔を上げる。
「・・・・・・・・剛がさ、今日がお前の誕生日だって言ってたんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「それ聞いて、もういがみ合う関係じゃないし、人間界ではこういうことするらしいからやらないかって、健がな」
「・・・・・・・・・・・・」
「だから準備してたんだ、誕生会の」
「・・・・・・・・・誕生会・・・・・・・・」
「本当は驚かそうと思ってたのに、お前が来るから。だから、お前を除け者にしようとか、そういうわけじゃなかったんだよ」
呆然としている長野に、坂本はそう笑った。
「あいつらよりフライングだけど、言っちまおう。ま、一番初めに見つけ出した奴の特権ってことで」
どこか嬉しそうに坂本が言う。
そして長野の顔を見て、言った。
「おめでとう、長野」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・お!・・・・・何だよ!!!?どうした!!!?」
坂本が突然驚いた声を上げる。
「何で泣くんだよ」
「・・・・・や、・・・・・・・・・・何か・・・・・・・・・・突然・・・・・・・・・・・・・・・」
判らない、と首を傾げながら長野は涙を流す。
「・・・・・・・・・・・嬉しい?」
「・・・・・・・・・・・“嬉しい”?」
「嬉しい時も泣けるんだぜ?知ってる?」
「・・・・・・・・・・知らない・・・・・・・・・・・」
「悲しい?」
「ううん」
「じゃあ嬉しいってことだろ」
そして坂本は長野の頭に軽く手を置いた。
「治まるまで待っててやるから、治まったらあいつらのところへ行くぞ」
準備して待ってるから、と長野に声をかける。
「・・・・・・・うん・・・・・・・・・」
その頷きを受けて、坂本は嬉しそうに笑った。
「・・・・・・お前が生まれてきてくれて嬉しいよ」
その言葉に、長野は膝に顔を埋めた。

おめでとうございます!長野様!
一つ屋根の下では控えめな感じになってますが、本当の貴方は逞しくてカッコいい方だっていうのは重々承知です。
35歳なんて信じられませんね・・・・・。まだまだ若く見えます。
これからも逞しく、かっこよい、(そして腹黒い/笑)貴方でいてくださいv

2008/04/13

back