貴方からの、その言葉が聞きたくて

ソファを占領するその背中に、坂本はとりあえず蹴りを入れる。
「ぐはっ・・・・・痛いでしょ!!何てことすんの!!」
勢い余ってソファから落ちた井ノ原に、坂本は呆れた視線を向けて、その空いたソファに腰を降ろした。
「言いたいことあるんなら言えよ。黙って不貞腐れられても解んねぇだろ」
その言葉に、抗議をし続けていた井ノ原は黙る。
「・・・・・・・・・・・・・」
「何だよ」
恨めしそうなその視線を、坂本はさらりと受け流した。
「・・・・・・・・・・・・坂本君のアホ」
井ノ原はそう言って、もう1つのソファの上に膝を抱えて座り、坂本に背を向ける。
その態度に、坂本は苦笑を滲ませて小さく息をついた。
「忘れるわけねぇだろ」
坂本はソファから立ち上がり、井ノ原の傍に近寄る。
そして、その膝の上に小さな箱を落とした。
「ほら、新しいやつだから。付け替えとけ」
井ノ原は少し不貞腐れた顔で、その箱を取り上げる。
箱を開けているのを確認して、隣の部屋に去っていった。

箱の中に入っていたのは、小さい銀色の長方形のプレート。
それを取り上げ、そこに刻んである文字を読む。
プレートを取り出した時に、箱の中から小さなカードが落ちた。
それに目を通して、井ノ原は嬉しそうにそれを握り締めた。
そして胸にぶら下げていたペンダントのトップを外して、それに付け替える。
もう一度それを首にかけ、井ノ原は坂本が消えた扉の前に立った。
「坂本君」
扉の向こうからの返事はない。
「ありがと。大事にする」
それだけ言って、井ノ原はそこを離れる。
そして部屋から出て行った。

坂本は扉が閉まる音を聞きながら、煙草に火をつける。
「おめでとさん」
そして小さくそう呟いて、煙を胸いっぱいに吸い込んだ。


2006/05/17

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