まさかこんなふうになるなんて

「さっかもっとくんっ」
ものすごい笑顔で抱きついてきた長野に、坂本が一瞬硬直する。
ぎゅうと抱きしめてくるその顔を見れば、真っ赤に染まっていて、目は少し虚ろだ。
「・・・・・・・・・・・・・長野、重いって」
「おれデブじゃないもん」
「そういうわけじゃなくて・・・・・・」
離れようとしない酔っ払いに、坂本は小さくため息をついた。

こっそりと人間界に遊びに行って、珍しい酒を仕入れて、長野に飲ませたら、こうなった。

「どうすりゃいいんだ・・・・・・・・」
2人しか知らない秘密の場所で、こっそり酒盛りをするつもりだったのに、まさか相手が酒に弱いなんて知らなかった。
思惑通りいかなかったことにガッカリしながら、坂本はグラスの中の酒を呷る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
耳元で長野が何かを呟いた。
「?どうした?」
よく聞き取れなかったので問い返すが、長野はそのまま坂本の肩に突っ伏してしまう。
「・・・・・・ったく、お前酒弱すぎ」
1杯しか飲んでねぇじゃねーか。
坂本が苦笑を浮かべてその背中をポンポン叩くと、首に回された腕の力が少し強くなる。
「長野?」
「・・・・・・・・・・やっぱり俺、坂本君がいなきゃダメだぁ・・・・・・・・・・・・」
ポツリ、そんな呟きが聞こえて、腕の力が緩まる。
そして小さな寝息が耳に届いた。
坂本は小さく息をつく。
「・・・・・・・・・・・・俺もお前がいないとダメだなぁ」
そう呟いて、小さく笑みを浮かべて、眠り始めた長野の身体を横たえる。

見上げた空には大きな月が輝いていた。


2006/04/03

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