「何でそうなるんだっ!!」
突然にテーブルを叩いて立ち上がり、坂本は怒声を上げる。
「え・・・・・・・・・だって俺には関係な・・・・・・・・・・・」
「そういう事言ってんじゃねぇよっ!!
関係あるとかないとかじゃなくて、俺らが何とかしなきゃいけないことだろうが!!」
「・・・・・・・・・・・・・・何で・・・・・・・・・・・・?」
長野の言葉に、彼はため息をついて身を翻した。
「もういい。今日は帰る」
「え?ちょっと待っ・・・・・・・・・・」
驚いて立ち上がる彼を待たず、坂本は部屋から出ていく。
長野は手を伸ばすが届かない。
大きな音を立てて閉められた扉の向こうで、バサリと羽ばたく音がした。
「・・・・・・・・・・・長野君・・・・・・・・・・・・?」
彼の横に座っていた剛が心配そうに声をかける。
彼は伸ばしていた手を降ろして俯いた。
「坂本君、忙しくてイライラしてたんだよっ。そんな気にし」
「剛」
必死のフォローを遮って、彼はふらりと歩き出す。
「・・・・・・・・・・・・あと片付けといて・・・・・・・・・・・・・」
力なくそう言い、隣の部屋に去っていった。
「・・・・・・・・・・・・・うわ〜・・・・・・・・・・・・・」
剛は引き吊った笑顔を浮かべて呟いた。
扉の向こうから控えめなノック。
どうぞ、と彼が告げると、控えめに扉が開いた。
「あれ!?剛君じゃない!!どうしたの!!」
顔を覗かせた人物に、応接用の椅子に寝転がって本を読んでいた井ノ原が飛び起きる。
「今健ちゃんは散歩に行っちゃってるよ?」
扉のところで入るのを躊躇っている彼に代わって扉を全開にする。
「寒いからとりあえず入りなよ。ま、今は部屋の中の方が寒いかもしれないけど」
どうぞと道を空けると、剛は怖ず怖ずと入ってきた。
「寒っ!」
そして部屋に1歩踏み入れて身体を震わせる。
「言ったでしょ」
井ノ原は剛を引き寄せて、部屋の真ん中で囂々と燃える炎の前に連れていった。
「坂本君機嫌悪くてさぁ。火を焚かなきゃ氷のオブジェになっちゃうんだよね〜」
井ノ原がため息をつきながら奥の扉を指さす。
その先には凍り付いた壁と扉。
「・・・・・・・・・・・坂本君あそこ?」
「正解。健もタイミング良く出てったもんだよねぇ。散歩に出た途端外は猛吹雪」
湯気の立つ紅茶を差し出しながら井ノ原が苦笑いを浮かべる。
「珍しいよ。天気とリンクするくらい機嫌悪いの」
「・・・・・・・・・・あの吹雪の原因って坂本君なんだ・・・・・・・・・・・・・」
「普段は滅多にリンクしないんだけどねー。元々寒いとこだし、ここ」
そして井ノ原はソファに腰掛ける。その横に剛も座った。
応接用の家具が置かれた2人がいる場所以外は凍り付いて、天井には氷柱がぶら下がっている。
炎が氷を溶かしていく一方で床が凍り付いていく。
「いっつもこんなん?」
「まー、何年かに1回ぐらいかなぁ。でも最近はよくあるね」
あのヒト意外と気が短いから。
井ノ原はケラケラと笑う。
そして2人の間に沈黙が落ちた。
「・・・・・・・・・・・・・・井ノ原君はさぁ」
「んー?」
「坂本君のこと解んの?」
剛の質問に、井ノ原は目を丸くする。
「・・・・・・・・・・・・・・俺、長野君が解んねぇ・・・・・・・・・・・・」
湯気の上がるカップを両手で抱えながら剛が呟いた。
「・・・・・・・・・・・山口君の口添えで長野君の補佐に着いて、
周りがいなくなってもずっとついてきたけど、未だに解んない・・・・・・・理解できない・・・・・・」
ずっと傍にいるのに
俯く頭を、井ノ原がぽんぽんと軽く叩く。
「俺も解んないよ、坂本君の事」
頭を上げた剛に、井ノ原は微笑んだ。
「結構前から一緒にいるけど、未だに解んないよ。んでケンカしたり怒られたり・・・・・・・・・・・」
肩を竦めながら笑う。
「でもあれじゃない?理解できなくても信じてれば大丈夫でしょ」
「・・・・・・・・信じる?」
「そ。信じるんだよ。相手のことが解んなくても、信じて黙ってついてく。その内に行動の理由が解るようになるから」
そしてテーブルの上のカップを手に取る。
「・・・・・・・・・・・」
「俺はそうしてきたし、これからもそうしていくつもり。だって、俺が全幅の信頼置けるのはあのヒトだから」
今までも、これからも。
そう言って、自信に満ちた笑みを浮かべてカップに口を付けた。
「・・・・・・・・・・・そっか・・・・・・・・・・・・・」
井ノ原を見て、剛が小さく呟く。
「あぁ、ほら。吹雪治まってきたよ。そろそろ機嫌治して出てくるんじゃない?」
井ノ原の言葉と同時に、部屋に出来ていた氷柱が溶けてなくなっていく。
それを確認して井ノ原は焚いていた火を消した。
「・・・・・・・・・・・・何してんだお前ら」
少しして扉が開き、くわえ煙草の坂本が現れる。
「ヒドイ、坂本君!親睦を深めながら厳冬に耐えてた俺らに何の言葉も無いなんて…!」
「アホか」
泣き真似をする井ノ原にため息をつきながら、坂本は剛の傍まで来る。
「悪かったな。寒かったろ?」
「ちょー寒かったし」
「悪い悪い。で、何かあったんだろ?長野」
ぐりぐりと頭を撫でられて少しムスっとした剛に坂本が問いかける。
「・・・・・・・・部屋から出てこねぇ」
「やっぱりなぁ」
小さくため息をついて坂本はテーブルの上の灰皿に煙草を押しつけた。
「あ、井ノ原、また煙草買ってきといて」
「また!?つい4日前に買ってきたばっかりじゃん!!」
「あと1箱しかねーもん」
「この煙草中毒!ガンで逝ってしまえ!!」
ガンなんて知るか、と井ノ原の言葉を笑って一蹴し、剛の方を向く。
「長野連れ出しに行ってくるわ」
「あ、俺も行くっ」
そして2人部屋を出た。
扉には鍵はかかっていなかった。
外に剛を待たせておいて、坂本はそっと部屋の中に入る。
「・・・・・・・・・・・・・何してんだよ」
部屋の隅っこで小さくなっている影に声をかけた。
「・・・・・・・・・・・あんなんで落ち込んでんじゃねーよ。別にお前が嫌いになったわけじゃねーだろ」
反応を示さない彼に、坂本はため息をついて傍に寄る。
そしてその腕を掴んで引っ張った。
「あれは怒っただけ。別に嫌いになってねーよ。そう簡単には捨てないって言っただろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・そんなん解んない・・・・・・・・・・・・・・・・・」
顔を上げようとしない長野の腕をさらに引っ張って、無理矢理視線を合わせる。
「お前がお前である限りはお前が俺の基準に反することはないっつってんだろ。
アホなこと考えてんじゃねーよ。お前は俺のもんなんだよ。勝手に決め付けて落ち込むな」
「・・・・・・・・・・・・・」
「ほら、剛が外で心配してるだろ。早く行くぞ」
坂本は長野の返答を待たず、そのまま引っ張り続ける。
「・・・・・・・・・・痛いよ」
「なら自分で歩け」
「・・・・・・・・・俺アホじゃねーよ」
「解ってるよ」
「・・・・・・捨てない・・・・・・?」
「捨てない。要る。ここにいろよ」
「・・・・・・・・・うん」
ようやく長野が頭を上げた。
「今日はもう止めよう。さっきの話は明日以降な」
「うん」
部屋を出ると心配そうな顔で剛が椅子から立ち上がった。
「長野君・・・・・・・・・・」
「ゴメンね、剛。ビックリさせちゃったね」
近寄ってくる剛に、長野はそう笑いかける。
少しホッとしたように、はにかんで剛は視線を逸らす。
「さー、問題も解決したし、飯食いに来るか?」
坂本の提案に、長野が敏感に反応した。
「いいの?」
「好きなもん作ってやるよ」
「ホントに?」
部屋の扉に歩き出した坂本に、長野が嬉しそうについていく。
──── あの背中を信じてればいいのか
「剛もおいでよ!」
2人の背中を眺めてそう思っていた剛は、名前を呼ばれて慌てて後を追った。
* * * * *
オチがない!
長野さんの坂本さんへの依存度はかなり強いんだよ、ってことが書きたかった。
2007/03/13
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