初めて足を踏み入れる黒い世界。

あの頃は、まさか歓迎されて奥に入り込むことが出来るなんて思わなかった。

もう二度と見える事はない。

あったとしても敵同士、だと、思っていたのに。




「いらっしゃい」
扉の前で壁にも垂れて立っていた青年が彼に微笑んだ。
「久しぶりだね」
「・・・・・・・・・・・ああ」
「気持ちは分からなくないよ。・・・・・・・・でも、また会えてよかった。元気そうで何より」
彼の曖昧な返事に青年は笑う。
「来て」
青年はそう言って、彼に背を向け、扉を開ける。
「待ってるよ」
そして奥に歩き始めたのを、彼もワンテンポ遅れて着いていった。
青年の背中には黒い羽根。
記憶に残る彼の背中には誰よりも白い翼があった。
何も変わっていないように見えるその姿の、決定的に異なる箇所に彼は顔を微かに顰める。
「・・・・・・・・・・・・吾郎」
彼は青年の名前を呼んだ。
「何?」
青年は足を止めて、彼を振り返る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。いや、何でもねぇ」
「そう。・・・・・・・・あ、そうだ。慎吾は元気なの?」
「お、おう。元気だべ。毎日毎日うるせぇよ」
「相変わらずだね」
クスクス、笑いながら青年は彼の横に並んだ。
「・・・・・・・・・・・正直、もうキミとは話せないと思ってた」
そうして、青年はその先の扉を指差した。
「そこの部屋だから」
彼はその指の先を見て、青年を見た。
「・・・・・・・・ケンカ。しないでね」
壁を直すの大変なんだからね。
「分かってらぁ」
彼は苦笑いを浮かべて、扉に向かって歩き出した。






取っ手に手をかける。
軋む音とともにゆっくりと扉が開いた。
扉が全開になってようやく、彼は伏せていた視線を上向ける。
足を進めた部屋の中。
大きな肘掛け椅子に、カッターシャツを羽織るようにして、ラフな格好をした男が座っていた。
「よォ」
男が口角を上げて笑う。
彼は一度目を閉じ、ゆっくりと戸を閉めながら目を開いた。
「生きてたんだな」
彼の第一声に、男は愉快そうに目を細める。
「久しぶりに会って、それはないんじゃねぇの?」
「お前も同じように思ってたんだろ?」
違いない、とばかりに男が笑った。
「お前は絶対にここには来ないと思ってたけど、どういう風の吹き回しだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・剛はどうしてる?」
笑みを浮かべて問う男に、彼はそう訊いた。
男の表情が微かに揺れる。
「寝てるよ」
「ずっと?」
「ああ、そうさ。あの時からずっとだ。目を覚まさない」
「お前がこんな所に連れてったからじゃねぇのか」
「あんな狂った世界で生きてくよりは夢の中の方がマシじゃねぇの?」
「狂ってない!」
彼は語調を強めた。
「お前がそう思い込んでるだけだ!」
「だったらどうして吾郎はあそこを出て行った?どうしてあいつは命を落とさなきゃならなかった?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「狂っていないとどうして言える」
冷ややかな男の視線に彼は言葉を詰まらせた。
「・・・・・・・・・・・ま、ここも狂ってないとは言えねぇけど」
反応を返さない彼の様子に、男はため息をついて視線を逸らす。
沈黙が2人の間に降りた。
「・・・・・・・・・・・・・もう、戻れないんだな」
しばらくして、彼が小さく呟く。
「ああ。もう無理だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・戦争は終わったのにな」
彼は息をついて天井を見上げた。




目の前に広がる光景に泣き叫ぶ青年。

何も言わず、1人が姿を消した。

怒りに表情を歪め、彼は青年を連れてどこかへ飛び立つ。

怒声
罵声
絶叫

頭の中で何度もリフレインされる光景はいつまで経っても色褪せる事はない。




「あの頃に戻ることは出来ねぇよ。俺もお前も、吾郎も慎吾も、きっと眠ってる剛も変わっちまった」
「・・・・・・・・・・・・・そう、だな・・・・・・・・・・・・・・」
彼が視線を下げると、男は苦笑いを浮かべた。
「でも、新しく関係は作れるけどな」
「・・・・・・・・・は・・・・・・・・・?」
男の言葉に、彼は視線を戻す。
「また、新しい関係なら作れるんじゃね?ま、お前がどうしたいかは知らねーけど」
小さく笑う男。
一瞬彼は、男が何を言っているか分からなくて呆ける。
「本気で言ってんのか?」
「どう解釈するはお前に任せる」
男は照れくさそうに顔を逸らした。
その様子に、彼は昔のことを思い出して、小さく苦笑した。
「・・・・・・・・・今日はもう帰るわ」
「そっか」
「今度は慎吾も連れてくる」
「・・・・・・・・・・おう」
彼と男はようやく視線を合わせ、互いに笑い合った。




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口調も関係性も判らないんですが・・・・・・・・・・・(汗)
とりあえずお試しで素地図さんたち(のつもり)です。
こんなんでいいんでしょうかね・・・・・・・?
よろしければご感想をお聞かせください。


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