(※2008年元旦に、一部の方にお礼として公開した作品です)
人間界だと1月1日。
「何作ってんの」
坂本君に声をかけると、鼻唄が止まった。
「お、来てたのか、長野」
「うん。手伝ったから、仕事が早めに一段落着いたんだ」
「俺も仕事が一段落着いたからさ、人間界風に年巡を迎えてみようかと思って」
そう言って笑うので、横に立って手元を覗き込むと、鍋の蓋を開けてくれた。
「わ。良い匂い!」
「雑煮っていうらしいぜ。こないだ松岡に教えてもらった」
「え。人間界に行ったの?俺も行きたかったな・・・・・・・・・」
「だ、だってお前忙しそうだったじゃねーか」
俺の言葉に少し慌てたような声になる。
別に責めたつもりじゃないんだけどな。
「うん。だから今度行く時は誘ってよね」
「判ってるよ」
俺がそう言って笑うと、坂本君は苦笑しながら蓋を閉めた。
「食べてくだろ?」
「もちろん。剛もつれてきたし!」
「お前しっかりしてんな、こういう時は」
そして隣の鍋を火にかけ始める。
「何するの?」
「おう、モチをさ、茹でるらしいんだ」
「?」
「昆布入れたお湯の中に入れて、柔らかくして、この出汁をかけるんだって」
「へー。美味しそう」
少しずつ煮えてくる鍋を見ていると、坂本君が小さく呻いた。
「?どしたの?」
「や、境目越えたら何か言うらしいんだけど、何だったか忘れちまった」
「えー。覚えといてよ!ご飯だけあっち風じゃ雰囲気出ないじゃん」
「何だったっけ?」
鍋をかき回しながら坂本君は首を捻る。
「ああ、そうだ」
そして突然思い出したらしい。俺の方を見て、にっこり笑った。
「明けましておめでとう」
「・・・・・・・『おめでとう』?」
「無事、次の年を迎えられたことを祝うらしいよ」
ぽちゃん、ぽちゃんと音を立てながら、坂本君は四角くて白いものを鍋の中に投入していく。
「・・・・・・・・・・ふぅん・・・・・・・・・・」
ぐつぐつ煮える鍋を見て、坂本君はそれ以上何も言わない。
その横顔を見たけれど、何を考えているのかは良く解らなかった。
確かに、こうやって坂本君と、井ノ原や健や、准一と年巡を迎えられるなんて、少し前は全く考えられなかった。
今は6人でいることができてるけれど、もしかしたら今ここに存在できていなかったかもしれないんだ。
そう思ったら、嬉しく思えてきた。
「・・・・・・そっか。そうだよね。
明けましておめでとう、坂本君」
俺がそう言うと、坂本君は少し驚いた顔をして、鍋から目を離した。
「・・・・・あぁ。この一巡もよろしくな、長野」
そして、そうやって笑った。
こうやって笑い合えることに、感謝。
おまけ
「さかもっとっく〜ん!お年玉ちょーだーい!」
「俺もー!」
坂本君が作ってくれた『おぞうに』が入った器を持って部屋に入ると、そう言いながら剛と健が坂本君に飛び付いた。
「・・・・・・なんだ?おとしだまって・・・・・・・・・・・」
「いやだー。坂本君そんなのも知らないのー?」
眉間にシワを寄せる坂本君に、膝に准一を乗せた井ノ原がアハアハと笑う。
「人間界だとね、坂本君。上のヒトが下のヒトにお年玉って言って、物をあげるんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それ本当か?」
「本当に決まってるじゃない!嘘ついてどーすんの。
ってことで俺にもちょうだいねー、お年玉」
「じゅんもおとしだまほしい!!」
井ノ原の言葉に、両手を上げて頬を赤くして、准一も声を上げた。
坂本君はテーブルに器を置きながら、すごく困った顔をしてる。
この調子だと、もしかして俺ももらえたりするのかな。
「・・・・・・・・・・何が欲しいんだよ・・・・・・・・・・・」
「俺はね!」
「俺は・・・・・・・・・・」
坂本君の問いかけに、剛と健が物凄い勢いで坂本君に迫ってる。
それを見ていた井ノ原が、すごく楽しそうに笑ってる。
俺は何となくこの後の状況に想像がついたので、欲しいものを主張しないことにした。
もし4人が欲しいものをもらえたのなら、俺もせがんでみよう。
そう決心して、俺は『おぞうに』に口を付けた。
追伸。
『おぞうに』はすごく美味しかったです。
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2008/01/01
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