ガチャリと音がして、玄関の方が騒がしくなる。
頼んだ卵の状態を気にしながら松岡が出迎えると、太一と長瀬に詰め寄られた。













「いきなり何なの!?ぎゃあああ!!脱がすなー!!」
「押さえろ長瀬っ!!」
「マボおとなしくしてっ!!」
太一と長瀬が寄って集って抵抗する松岡に何かしている。
それを微笑ましそうに眺めながら城島は買い物袋を台所に運んだ。
「お帰り。何してんの、アレ」
城島を出迎え、そして胡乱気な顔で騒ぐ3人を眺める山口。
「松岡の正体を調べ隊やて」
「・・・・・・・・・どこで覚えたんだ、そんな言葉…」
苦笑する城島に山口は軽くため息をついた。
「・・・・・・・・そういえば、いつの間にあんなに仲良くなったんだ?あの2人」
仲良く連携をとる2人を眺め、山口は首を捻る。城島は笑いながら肩を竦めた。
「天使嫌いの太一君は天使の長瀬君の直球プロポーズに落ちてしまいましたとさ」
「なるほど。で、帰ってきたからには無事なんだろうけど?」
ソファに腰掛けながら山口が微笑む。
「2人協力して助かったみたいや。僕が行った頃には全部終わっとった」
やれやれという様子で城島も山口の向かいに腰を下ろした。
「・・・・・・・。・・・・・・・・・・もしかして太一、やっちゃった?」
騒いでる長瀬を見遣って山口が訊く。
「ん?やったって、殺しちゃったって事?」
「・・・・・・・・・・アナタもたいがい直球だよね」
物騒な発言に苦笑。やれやれと笑いが漏れる。
「人間やなくても素直が一番やで。多分やっとらんわ。
 まだ気配残っとったし、太一最近調子悪いみたいやし。帰ったんやないか」
「そっか。ならいいや」
「何や、気になることでもあったん?」
「んー。長瀬がちょっとね」
含みある言葉に城島が少し首を傾げた。
「今度話すよ」
「なら訊かんわ」
そう笑うと、城島は立ち上がり、騒いでる3人の元に足を向ける。
「何か判った?」
「ぜ〜んぜん。普通の人間」
「まぁ、せやろなぁ」
俯せに倒れる松岡の背中に馬乗りになっていた太一が肩を竦めた。
「もしかして羽根が見えるのはマボが人格を疑うくらいの紫好きだからですか?」
「う〜ん・・・・・・・・・・・それは関係ないと思うで」
少し的外れな長瀬の言葉。城島が苦笑いしながらやんわりと否定する。
「・・・・・・・・・・・・もぉ・・・・・・・・・何なの・・・・・・・・・」
ぐったりとした様子で松岡がぼやいた。
「羽根の見える人間は何者かって話やねん」
「普通羽根は人間には見えないんですって」
「俺は普通の人間だ!!」
「普通の人間には羽根は見えないの。見えるお前は異常だ」
「異じょっ・・・・・・・・・」
太一の言葉に松岡がショックを受けて言葉を失う。
「おーい、松岡ー」
「あんまりです、お父さんお母さん。
 生まれてこの方両親を亡くすという悲劇を乗り越えて、健全に生きてきたというのにこの仕打ち。
 何ですか?俺が思い切って部屋のカーテンを紫にしたからですか?」
しくしく泣きながら誰にともなく呟く松岡を太一と長瀬が遠巻きに眺める。
「・・・・・・・・・松岡、そんな異常なことやないで」
その松岡の方をそっと叩き、城島が優しく語りかけた。そこに浮かぶのは少し胡散臭い笑顔。
「確かに羽根が見えるのはおかしいけど、それはアレや、幽霊が見えるんと同じことやで」
「・・・・・・・・・そうなの?」
「そうや。単なる特異体質やねん。何も異常やないねんで」
「そっかぁ。よかった…」
ほっと胸をなで下ろす松岡と満足そうに微笑む城島。
「あれってさ、異常じゃないけど変わってるねってことだろ?」
「・・・・・・・・・・気付かない方が幸せなんじゃない?」
事の顛末を眺めていた山口がぼそり呟き、太一がそれに律儀に答えた。





















「誰やった?」
それほど大きくない部屋の中。
あるのは机とベッドと、小さなタンスに本のびっしり詰まった大きな本棚。
「知らない。でも『我らは我らの王に従う』とは言ってたよ」
太一の言葉に城島は目を細める。
「・・・・・・・・・・・・やっぱもめてんの?」
紫煙を燻らして思案する城島を見て、太一はため息混じりに訊いた。
「坂本からの情報によると、連れ戻せ派と追放派に分かれとるそうや」
イスをぎしり言わせて背もたれに体重をかける。
「で、追放派ははっきり言うと僕を亡き者にしたいらしいで」
おもしろそうに言った城島。太一は小さくため息をつきながらベッドの上に胡座をかいた。
「・・・・・・・・・・じゃあもしかして連れ戻せ派は、家出の原因である山口君を亡き者にってわけ?」
「せや。多分長瀬も、場合によっちゃ松岡もその対象やろな」
「じゃあ今日のは俺と長瀬とどっちが狙われてたか判んないから、どっち派かも判んないね」
肩を竦めて、太一が言う。そしてポツリと呟いた。
「・・・・・・・・・・判ってたなら言ってくれればよかったのに・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・スマン。僕だけ狙ってくるかと思ってん」
「普通に考えてそれはありえないでしょ。・・・・・・・・とりあえず、しばらくは来るって事だよね」
「そうやな。まぁどっちにせよ鬱陶しいことこの上ないわ」
大げさにため息をつく。そして。
「・・・・・・・・・・・・・命令ってほどやないけどな」
表情を一変させた。
「・・・・・・・・何でしょうか」
太一が頭を下げると、刺すような鋭い空気を纏い、言った。
「太一自身に攻撃がきた場合は、太一の判断に任せる。生かすも殺すも好きにせぇ。
 ただし、松岡・長瀬に攻撃が及んだ場合、その輩は必ず、欠片も残さず消せ。
 我が眷属に手を出したことを後悔させろ。これは煉獄王の名に於いて許可を出す」
鋭い眼光に空気が冴える。太一は背中が冷たくなるのを感じた。
「徹底的に潰せ」
「・・・・・・・・・・・御意に」
太一が恭しく答えると、城島は珍しく眉間にシワを寄せて、机に頬杖をついた。






----------------------------------------------------------------

2006/06/01




もどる