ノックの音と共に扉が開いた。
視線を向けると、そこから現れたのは整った顔の男の人。
「失礼します」
俺と目が合うと、その人はにっこり微笑んだ。
俺は慌てて頭を下げる。
「お話中すみません。予定通り来ましたよ。
ただ、淵水王に相手してもらう予定だったんですが、いないんですよ、彼。
とりあえず三宅に待機させてますけど、どこに行ったか知りませんか?」
「私には必要の無い存在だったから、消えてもらったが、どこに行ったかは知らないなぁ。
まぁ、予定通りになっているなら構わない。そのまま思惑通りいくと良いね、君も」
その人の言葉に、リーダーのお父さんは楽しげに笑った。
「では松岡君。私はそろそろ行かなければならないから、これで失礼するよ。
もう二度と会うことはないだろうね」
「・・・・・・え・・・・・・」
「良い話を聞かせてもらった。ありがとう。これからも息子をよろしく頼むよ」
俺がそれに返す前に、ソファから立ち上がり、大野達3人の元に行ってしまう。
そして、3人と一言二言言葉を交わして、足早に部屋を出て行ってしまった。
「あのヒトも忙しいヒトだよね」
苦笑しながら、新しく現れた人がそう言った。
「初めまして、松岡君。俺の名前は東山です。そうだな、人間界で言うところの、魔王、かな」
そうして差し出された手を、俺はまじまじと見つめてしまった。
「・・・・・・魔王・・・・・・?」
「うん?そうだね」
「・・・・・・・イメージとぜんぜんちげぇ・・・・・・・」
魔王って聞いたら、ほら、でかくて角生えてて、高笑いして・・・・・・・て思うじゃないか。
それが今、目の前で魔王だと名乗ったのは、多分歌手デビューなんかしたら売れること間違いなしの細身な美形。
「イメージってのはアレか、角が生えててでかくて・・・・・・・」
あははと笑いながら俺の考えを言い当てる。
「・・・・・・・あ・・・・・・・はい・・・・・・・」
「何代か前はそんな方だったみたいだよ。生憎俺も先代のあのヒトも華奢だけどね」
「え?リーダー父も魔王なんすか!?」
「あれ?聞いてない?」
俺が声を上げると、東山さんは首を傾げた。
「じゃあリーダーは魔王の息子?」
「そうなるね」
「・・・・・・・」
そんな、魔王の息子だなんて反則だ。
今まであのヒトのボケを散々ツッコんできたけど、ヤバくないか?
俺が1人で青ざめていると、また東山さんに笑われた。
「ヤバかったら、今君はここにいないよ。・・・・・・・面白いなぁ。アダムって毎回こうなのかな」
クスクス笑いながらソファに腰掛ける。
同時にニノが東山さんに紅茶を出した。
「あぁ、ありがとう、二宮」
お前いつお茶いれられるようになったんだよ、と思いながらニノを見る。
「さっきやり方覚えたんで」
意図を読み取ったのか、ニノはぼそっと呟いた。
「そういえば大野ともう一人は?」
「そのもう一人が調子悪いと言うので、ちょっと出てます」
「彼は誰なんだ?見た事無いけど」
「相葉と言います。俺の同僚です」
たまたま遊びに来たんで、とニノは言った。
「そうか。また今度紹介してくれ。・・・・・・・心配?」
「・・・・・・・少し」
「いいぞ、行って。しばらくは俺がここにいるから」
「はい」
ニノは軽く頭を下げて、部屋から出ていった。
「最近天使がよく出入りしててね。別に構わないんだけど、あっちの仕事は大丈夫なのかな。
まぁ余計なお世話だろうけど」
苦笑を浮かべ、東山さんはカップに口を付けた。
「・・・・・・・いろいろと訊きたそうな顔してるね」
「・・・・・・・じゃあ訊いていいですか」
「ん?何だろう?」
「さっきからずっと気になってたんですけど」
「うん」
「えっと、『アダム』って何ですか?俺はそれなんですか?」
リーダー父に会ってから、ずっとその名前が付いて回ってる。
一体何なんだ。
「え?城島から聞いてない?」
「いえ、何にも」
「・・・・・・・言わないようにしてたのかな。
親子揃って大事なことを言わないんだからなぁ・・・・・・・・・・・・・・。でも、まぁ、気になるよな」
苦笑を浮かべる。
「松岡君は、アダムと聞いて何を連想する?」
そして逆に訊いてきた。
「人名ですよね?」
「まぁそうだね。それ以外には?例えば物語の中で、とか」
物語の中に出てくる『アダム』って・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・神話?」
「うん。それでいいんだ。それだよ」
俺が言い指したものに、東山さんは肯定の意を示す。
「は?」
「俺達が言うアダムっていいのは創主・・・・・・・つまり神が一番初めに作った人間の生まれ変わりの事なんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺が?」
「そう。君が」
あははと爽やかな笑みとともに、俺の言葉に頷いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いやいやいや、そんなすごいもんじゃないですよ俺!!
だって生まれも育ちも庶民で、確かに両親が死んじゃったり天使とか悪魔とかと一緒に住んじゃったりしてますけど、
そんな、最初の人間って・・・・・・・!!」
今までの思い出を手繰っても、最近を除いて普通なものしかない。
俺が慌てて首を横に振ると、東山さんは笑った。
「ちょっと待って。よく考えてみようか。初めの人間って何か特殊な力が与えられてたかな?」
「・・・・・・・」
「結局はね、普通の人間と何にも変わらないんだよ。
ただ創主が気合いを入れて創ったから俺達から見ると何となく判るだけで。
それでも調べないと判んないしね」
だから別に特殊な事じゃないよ、と言った。
「・・・・・・・そんなもんなんですか?」
どうにも適当な人が多いような気がする。
思わずそう訊くと、東山さんは面白そうに目を細めた。
「そんなもんだよ。たまたま城島と同居するようになった人間が、
たまたまアダムの生まれ変わりだっただけ。君は普通の人間とどこも変わらないよ。
もしかしたら君の友達はナポレオンの生まれ変わりかもしれないよ?」
そしてあははと笑う。
俺は東山さんの台詞の中の言葉に少し反応していた。
「・・・・・・・・・・・・・・井ノ原か?」
「・・・・・・・」
「解ってやってくれないかな。俺達は、やっぱり君達から見ると、異形の存在だからね。
仲良くなりたくても制限がつきまとうんだ」
何て言えばいいのか判らなくて黙っていると、東山さんは苦笑した。
「許せない?」
「・・・・・・・や、そういうのじゃないんすけど、何か、こう・・・・・・・」
許せないんじゃない。
許す許さないの問題じゃないから。
隠してたのも、今なら理解出来る。
今までみたいに俺がパニックになるからだって。
でもそうじゃなくて。
「・・・・・・・アイツの口から直接聞きたかったなって・・・・・・・」
あんな状態で、じゃなくて、ちゃんと、井ノ原の言葉で、直接知らせてもらいたかった。
「・・・・・・・アイツを嫌いになった?」
「嫌いになるわけないじゃないですか。俺はアイツが人間だから仲良くなったんじゃないっすから。
井ノ原が井ノ原だから、アイツがどう思ってるかは知らないけど、俺は親友だって思ってるんです」
それはアイツが何者だろうと変わらない。
「・・・・・・・さすが城島達と暮らしてるだけはあるな。解ったよ」
俺の言葉に、東山さんは満足そうに笑った。
「なら、直接、井ノ原に訊くと良い」
その瞬間、部屋の扉が勢いよく開いた。
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2007/09/27
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