許さない
許さない
全部消えてしまえばいい
全部消してしまえばいい
気に入らないもの
邪魔するもの
苛つかせるもの
あらゆるものが消えてしまえば、この感情は治まるに違いない
だから ─────
動かせない視界。
轟々と音を立てて世界が崩れていく。
周りに広がる死屍類類の山。
赤く染まる空。
そしてその手には
───── 嫌だ!!
勢いよく目を開く。
視界に広がった景色から自分の存在する空間を確認した。
そして体を起こしてベッドの上に座る。
俯いて小さくため息をつき、両手で顔を覆った。
「どうしよう!!どうしよう坂本君!!
松岡が攫われちゃったっていうか地界へのゲートが全部閉じちゃって帰れないんですけど何でですか!?」
「・・・・・・・・・井ノ原」
動転して騒ぐ井ノ原に、坂本が眉を寄せる。
「どうしたら!!!」
「井ノ原お座り」
その言葉と同時に井ノ原が床に正座した。
「騒いでも仕方ないだろ。とりあえず茂君が起きるまで待つしかないから」
ため息混じりに坂本が言う。
姿の見えない2人を探して山口は視線を彷徨わせた。
「長瀬」
リビングのソファの上で暗い顔で座っていた長瀬を見つけて、声をかける。
「あれはお前に向いた怒りじゃない。飲まれんな」
そう言って長瀬の肩を叩く。
「・・・・・・・・・解ってるんですけど・・・・・・・・・」
複雑そうな表情を浮かべて長瀬が呟いた。
「・・・・・・・・・でも、恐かったです・・・・・・・・・」
長瀬の落ち込み具合を見て、山口はため息をつく。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・リーダーは?」
背後からかけられた声に、山口は振り返った。
「太一」
僅かに不安そうな色を見せながらも、何事もなかったかのような表情で山口を見ている。
「上に寝かした」
「そう」
「事前に防げなかった。すまん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・止めれただけでもすごいよ」
頭を下げた山口に、太一は視線を落として呟いた。
「俺は何も出来なかったから」
それだけ言って、太一は長瀬の横に座る。
頭に響く音が揃って暗い音色を奏でていた。
小さく、山口は舌打ちをした。
「そういえばさっきゲートが何とかっつってなかったか?」
部屋の中が静かになった時、突然坂本はそんな事を口にした。
「そうなんだよ坂本君!!」
それに井ノ原が反応した。
「どのゲートも閉まってるんだ。長瀬が松岡がいなくなったって言うから、
追いかけようと思ったのに、どこも開いてない。あっちに戻れない」
「ゲートが閉じるなんて事あるのかよ」
「や、あるよ。元は空間の歪みだけど、それを固定しておくために門を作ってあるだろ?
でも開けっ放しじゃあ不安定だから、門を閉めると一時的に歪みが閉じるようになってるんだ」
坂本の言葉に山口が眉を寄せる。
「全部閉めたってか」
「多分、地界にある門は全部」
そうだろ、と井ノ原に問うと、彼は黙って頷いた。
「まぁ天界には行けるけどな」
「天界を通って行くって?」
片眉を跳ね上げて山口が訊く。
「「それだけは嫌だ」」
そして太一と声を揃えてそう言った。
「・・・・・・・・・そう言うと思った」
見事にハモった言葉に苦笑を浮かべる。
「ま、天界行かなくても、こっちから無理矢理道を開ける方法が無いわけでもないけど・・・・・・・・・」
そして、あまり乗り気じゃない様子で坂本は言った。
「やあやあ、アダム。くつろげているかな?」
突然部屋に入ってきた人物に、4人は驚いてそちらを見た。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何をやってるんだい?」
そして入ってきた彼も、4人のしている事を見て怪訝な表情を浮かべた。
「松兄ぃがあっちの遊びを教えてくれたんで、それを再現してたんですよ!」
パンツ一丁で立っていた相葉がそう説明する。
「それは良いが、相葉。何故君はパンツ一枚なんだ」
「そういうゲームなんです」
相葉と共に立っていた二宮がそう答えた。
その二宮は一糸乱れぬ格好をしている。
「つまり相葉は負けているという訳か」
「そうなりますね」
「そうか」
大野の言葉に、いくらか納得した様子で彼は頷く。
「相葉。とりあえず服を着なさい」
「はーい」
彼の指示に、相葉は黙って従った。
「仲良くなれたようだね、アダム」
「お陰様で。てかアダムって何すか。俺ちゃんと松岡昌宏って名前があるんですけど」
ソファに向かい合って腰掛けて、笑いかけてきた彼に松岡はそう答えた。
「おぉ、これは失礼。そうか、松岡昌宏君か」
松岡の言葉を受けて彼は謝罪する。
「私も名乗りたいところだが、私はあの名を名乗る資格はもうないからなぁ。
好きなように呼んでくれたまえ」
「・・・・・・・・・」
松岡は警戒心たっぷりに黙り込んだ。
「はは、確かにこれじゃあ怪しい。だが、あの名を名乗るとアイツが可哀想だから」
あからさまな態度に彼は笑ってそう言う。
「見て判ると思うが、茂は私の息子でね」
「・・・・・・・・・は・・・・・・・・・」
「君がリーダーと呼んで共に暮らしている悪魔だよ」
「や、それは判りますけど・・・・・・・・・」
眉を寄せて、松岡は彼を見た。
「リーダーが、息子?」
「ああ。息子だが?」
「・・・・・・・・・リーダーのが老けて見える・・・・・・・・・」
意味が解らないといった様子で首を捻った松岡に、彼は一瞬間を置いて吹き出した。
「ははっ、そういう事か!ア・・・・・・・・・いや、松岡君。君は我々の外見と年齢が比例していない事は承知かな?
我々は一定期間を過ぎると成長が止まる。どこで止まるかはヒトによって違うのだ。
私はアイツよりは長く生きているが、確かに外見は、そうだな。人間で言うと二十歳前後だろう」
「・・・・・・・・・あぁ、なるほど・・・・・・・・・」
「まぁ、人間の常識とは異なるから、仕方ないね」
クスクス笑いながら彼はそう言う。
この表情なんてそっくりだ。
悪いヒトじゃないのかも
松岡はそんな事を考えた。
そういえば元の世界ではどうなってるんだろう。
リーダーと井ノ原と、兄ぃとか太一君とか長瀬もどうしてるんだろう。
ここに来てどれくらい時間がたったんだったかな。
「・・・・・・・・・で、お父さんは俺をここに連れてきてどうしようと?」
少し不安に思いながら、それでも状況を知るためにそう訊いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
松岡の言葉に彼は目を見開いて固まる。
「?」
「・・・・・・・・・や、何でもない。心配しないでくれ。別に君をどうこうしたいわけじゃないんだ。
君はしばらくここにいてくれるだけでいい。事が終わったらすぐにでも人間界に戻れるから」
「・・・・・・・・・俺に何もしないって事は、リーダー達には何かするって事ですか?」
少しだけ怒りを滲ませてそう問うと、彼はおもしろそうに目を細めた。
「理解が早いな、松岡君は」
「事と次第によっては、俺は協力したくないですね」
「その肝が据わったところがいいね」
楽しそうに彼は言う。
「・・・・・・・・・なら、まずは聞かせてくれないか、松岡君」
そして、柔らかい笑みを浮かべてそう訊いた。
小さな音を立ててリビングの扉が開く。
「リーダー」
それに一番に反応したのは太一だった。
太一の声に、山口が足早に城島に近寄った。
「シゲ、悪い。アレやっちまった」
「ええよ。何ともないから」
心配した様子の山口とは反対に、城島は普段通りの様子でそう答える。
しかし、山口はその受け答えに少し違和感を持った。
「・・・・・・・?」
眉を寄せて城島を見る。
彼は近付いてきていた太一に視線を向けた。
「リーダー、大丈夫なの?」
「何ともないで。それより、何かあったか」
城島の口調に太一の表情が少し強ばる。
「・・・・・・・松岡がいなくなりました。恐らくは地界に連れて行かれたかと」
「それは知っとる」
「井ノ原によると、地界へのゲートが全て閉じているそうです」
太一が突然口調を変えた。
それに対して山口は眉を寄せ、長瀬と井ノ原が驚きの表情を浮かべる。
「どの門もあかんの?」
「・・・・・・・え、あ、はい!地界に戻るには天界を通るしか・・・・・・・」
「・・・・・・・ふぅん」
井ノ原の言葉を受け、興味なさそうに城島は呟いた。
「で、茂君」
間が空いたのを見計らって、坂本が城島に呼びかける。
「さすがに松岡がアダムだといっても、存在の仕方の違う次元に人間が行くのは危険だ。
だから出来るだけ早く迎えに行かなきゃならないと思うんだけど、この通り道がない。
天界を通って行くのもいろいろ厄介だからさ、道、開けようと思うんだけど」
「・・・・・・・解った」
「・・・・・・・・・道を開けるって、どうすんだよ」
城島が頷いた横で、山口が眉を寄せた。
「ゲートって言うけど、結局空間の歪みなんだよ」
知ってるだろ、と坂本は山口を見る。
「相反する強い力がぶつかり合えば空間は歪む。
ぶつかり合った力が正のものであれば正の方向に道はつながるし、負なら負につながる。
ここで追加情報だけど、悪魔の力は負の力。そんでもって俺は氷で茂君は火。
関係を言うならまさに真逆ですね〜」
「・・・・・・・・・・・・・・ぶつけ合って道を創るってか」
「その通り」
山口の答えに、満足そうに笑みを浮かべた。
「ただし。ここは人間界。俺らが力全開させたら少なくとも国が1つ吹っ飛ぶ。
それはマズいから、誰かに大規模な結界を張ってもらわなきゃなんない。
そして、道が開いても、それは無理矢理創った歪みだからすぐに閉じる。
全員が通り抜けるまで誰かにこじ開けといてもらわなきゃなんない」
坂本は周囲に視線を走らせる。
「それでもいいか?」
それまで聞いていただけの太一と井ノ原、長瀬は、黙って頷いた。
「確認だけど」
結界によって切り取られた空間の中で、5人は空にいた。
「俺と茂君で歪みを創る。んで、山口がそれを広げる。3人は広がったら先に行け。
それまでは出来るだけ下がってろ。巻き込まれても助けてやれないから」
坂本の言葉に顔を強張らせて、3人は少し後ろに下がる。
「僕はええよ」
「俺もいいぞ」
城島と山口が口々にそう言った。
「じゃあ、やりますか」
その次の瞬間、激しい轟音と、続いて金属が擦りあうような甲高い音が響き、閃光が周辺を白く染めた。
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坂本さん、大活躍(笑)
2007/08/05
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