ガッチャンガッチャンと陶器の擦れる音がする。


「これでいいの?」
「たぶん・・・・・・・・てかお湯は?」
「あ、沸かしてねぇや」
「え?いまさら?」
「ダメじゃ〜ん」
「オマエに言われたかねぇよ」
高級品のように見えるティーカップやポット、茶葉をいろいろといじりながら、
3人の(見た目は)高校生がたぶんお茶を煎れようとしている。
「何かザルみたいなのいるんじゃね?」
「ザルって何だよ」
「ちっせぇ網みたいなヤツだよ」
「わかんねぇよ!」
「茶こし?」
恐らく茶こしについて論議してるんだろうと思って口を挟むと、3人の動きが止まった。
「「「それだ!!」」」
俺の方を見て、声を揃えてそう言うと、その辺を探し始める3人。
「どこにあんの?」
「知らねぇよ」
「東山さん使ってなかったの?」
「使ってたかなぁ」
「あの人が茶こし使わずにお茶飲むはずねぇだろ!」
「あった!!」
「おぉ!!ホントだ!!」
「どうやって使うの?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
そして、最終的に沈黙した。

んで、俺はキレた。

「おい」
俺が声をかけると、そいつらは小さく肩を揺らしてこっちを見た。
「お前らなぁ!何で茶の一つや二つ煎れらんねぇんだよ!!いつも何飲んでんだっつーの!!」
そう声を上げて3人の元に歩み寄り、俺はカップとポットを取り上げる。
「おらっ!ぼさっとしてないでお湯沸かせお湯!
 茶こしなんて探さなくてもポットに付いてっだろ、ほれ」
ポットのフタを外すと、中に備え付けの茶こしが出てきた。
「「「おぉ!!」」」
「感動するところじゃねぇよ!お湯!んで茶葉貸せ!!」
半ば奪い取るようにして、1番背の高いやつから茶葉を取り上げる。
「俺がやるからお前ら座っとけ」
そう言って3人を簡易台所みたいなところから追い出した。






ポットに茶葉を入れて、少し冷ましたお湯を注ぐ。
蒸らしの間に、少し気になって食器が入っていそうな棚を開いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
高級そうな食器がキレイに並べられていたが、案の定埃を被ってる。
洗うべきだったかもしれない。
何となくそう思ったが、それ以上に考えないことにした。
そして、火もないのにいまだに沸騰し続けているヤカンらしきものを見る。
「・・・・・・・・ガス使わないんだ」
「“がす”って何ですか?」
突然真横から声がした。
「うぉあ!?」
驚いて声を上げてそっちを見ると、小柄な2人のうちの片方が横にいた。
「何で驚くんですか」
「・・・・・・・・気配しなかったじゃねぇかよ」
「だって隠しましたもん」
してやったりな顔をしてニヤリと笑う。
「ていうか“がす”って何?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ガスって、火をつけるための燃料だよ」
「へぇ、そんなのが要るんだ」
感心した様子で声を上げた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。お前らも飲むんだろ?」
「いただきます。あ、確かあの辺にお菓子が・・・・・・・・」
そいつはそんな事を言って別の棚をガサガサと探し始める。
それを眺めつつ、俺は人数分のカップを洗って、残りの2人が座っているところに持っていく。
「おぉ!!すげぇ!!」
「すごくねぇよ」
感動の声を上げる2人に、呆れを通り越して、思わず苦笑してしまった。
「あったよ!」
そしてお菓子の箱を持って走ってくるもう1人。
「キャプテンっ」
「ニノっ」
そして何故かもう1人の小柄な方の胸に飛び込んで、2人で抱きしめ合う。
「やったよ、キャプテンっ!」
「やったね、ニノ!」
熱い抱擁を交わし合う2人。
「あれ気にしない方がいいですよ、いつものことだから」
呆然とそれを見ていた俺に、1人残っていた背の高いヤツがそう言う。
「これもういいんすか?」
そしてポットのフタをはぐる。
「え、あぁ、いいよ」
ちょっと置きすぎたかなと思いながらもカップに注いでやる。
すげーいい匂い!とか何とか盛り上がるそいつ。
その言葉に抱き合っていた2人がこっちにやってきた。
「何一人で飲んでんだよ!」
「2人が遊んでるからでしょー」
「俺もほしい」
ガキの喧嘩の様を呈してきたので、2人の分を用意すると黙って座った。
何だか保父さん気分だ。
「このお菓子どうしたの?」
「こないだ坂本君にもらった」
「いいなぁ。一回人間界行ってみてぇなぁ」
他にも座るところはあるのに、何故か1つのソファに3人密着して座ってる。
しかもすごく狭そうにして。
変わってんなぁ、と思ったとき、小柄な2人のうち、眠そうな方がこっちを見た。
「人間界ってどんな感じなんですか?」
そしてそう訊いてくる。
「ちょっと待って大野さん」
眠そうな方は大野というらしい。
大野じゃない方が、俺が口を開く前に口を挟んだ。
「なに?」
「質問の前によく考えて?俺ら自己紹介してないよ?」
「大野です」
その言葉に、大野はいきなり頭を下げる。
「いきなりすぎだよ、キャプテン。あ、俺は二宮です。ニノでいいですよ。一応天使です」
いきなりと言った本人も十分いきなりだ。
「俺は相葉でーす。天使か悪魔かって言われたら微妙です」
「は?微妙?」
本当に微妙な表現に、俺は思わず訊き返した。
「天使とも言えないし、悪魔とも言えないんだよねー、今は。でも元は天使ですよ?」
「堕天使とかいうやつ?」
「おぉ!知ってんだ!でも違うんですよ、俺もよく解んないんだけど」
ケラケラ笑う相葉。
こいつ自体が本当によく解らん。
「あ、で、とりあえず松岡さんがこっちにいる間の接待役ですんで、よろしくお願いします」
「よろしくですー」
そうやって頭を下げる3人。
「・・・・・・・・接待役がお茶いれてもらうのか?」
「それもありです」
俺の呟きに、大野がそう言った。
ないだろう、と一瞬思ったけれど、普通じゃない人たちだから仕方ない。
「あ、松岡さんてさぁ」
「さん付けしなくていいよ。どうせあれだろ?俺より年上なんだろ?」
相葉の言葉を受けてそう言うと、3人は微妙な顔をした。
「やー、呼び捨てはおかしいですよ」
「何でだよ」
「確かに俺ら、そっちの時間経過で数えると500年近く生きてますけど」
「換算すると、たぶん20歳いってないですよ、見た目」
「それは判るけど」
「それに松岡さんの方が年上な気がする」
500歳より年上に見えるのか?俺。
「あ、いや、精神的にってことで!!」
一瞬黙り込んだ俺をフォローするように大野が声を上げる。

・・・・・・・・別にいいけど・・・・・・・・フォローになってないだろ。

「どうする?」
俺が微妙な顔をしていると、3人が相談を始めた。
それにしても、何でそんなに顔を近付けるんだろう。
「お、それいんじゃね?」
「しっくりくるね」
どうやら違和感のない呼び方の案が出たらしい。
大野とニノの言葉を受けて、相葉が俺を見て口を開いた。
「じゃあ松兄ぃで」
「いきなりフランク過ぎじゃねぇか」
何でさん付けからそれに変わるんだ。
「え、ダメ?」
俺のツッコミに相葉が首を傾げる。
「・・・・・・・・や、別にダメじゃねぇけど・・・・・・・・」
期待した目で見てくる3人に、俺は思わず妥協してしまった。
すると、松兄ぃだ松兄ぃだ、と騒ぎながらハイタッチをし始める。
「・・・・・・・・何なんだ、こいつら・・・・・・・・・・」
ぼそっと呟いた俺の言葉は届かなかった。





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2007/07/07




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