ガチャリ。

重々しい金属音を立てて鎖が外される。
厳重に何十にも施された鍵を開錠して、石造りの分厚い扉を開けた。
ギシギシと、石同士が擦れて耳障りな音を立てる。
扉の向こう、真っ白な部屋の中には、両足を鎖で繋がれ両手に枷が付けられた男が椅子に座っていた。
「調子は如何ですか?」
部屋を開けた男は、目を閉じている彼にそう尋ねる。
「・・・・・・・・・・・・・・最高さ」
彼が掠れた声でそう答え、目を開いた。
腰の辺りまで伸びた髪の間から鋭い視線が覗く。
「なんて言うとでも思ったのかね?」
くつくつと咽喉を鳴らして、彼は口角を上げた。
「さぁ、下らない社交辞令などやめるがいい。何の用だね、こんな所に」
拘束された両腕を上げて彼は不敵に笑う。
その様子に男も笑顔を浮かべた。
「約束を果たしに来ました」
「流石、誠実と賞されるだけはある」
「そんな二つ名は戴いてませんよ」
男は苦笑しながら彼の手枷を外す。
「ならば私が触れ回って差し上げようじゃないか」
「お気持ちだけ戴いておきます」
次いで足を繋いでいた鎖が外された。
「ふん、封印が施されていなければただの板切れと鎖なんだな」
「朗報、と言えるのかは判りませんが」
手を握ったり開いたりしている彼に、男がそう言う。
「今、彼はアダムと暮らしてますよ」
男の言葉の中に含まれていた単語を耳にして、彼は眉を跳ね上げた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほう。これはこれは懐かしい御名だな。創世の史実にも出てきていた名前じゃあないか」
愉快そうに口の端をつり上げて笑う。
「書庫に行ってもいいですよ。通行証、お渡ししましょうか?」
「そんなことをしたら君の立場が危うくなるのでは?」
男の言葉を鼻で笑い、彼は自分を拘束していた物を手に取る。
「もう一度着けてくれないか?もちろん封印はしないように」
「・・・・・・・・・・・・・どうなさるおつもりで?」
男は首を捻りながら彼の言葉に従った。
封印を施されず再度拘束具を着けられて、彼は満足そうに笑った。
そして雷を放ってそれらを破壊する。衝撃で木片や金属の破片が飛び散った。
「悪役は悪役らしい行動をとらねばならんだろう」
垂れ下がる長い髪を後ろに流し、彼は氷で作った刃で肩の辺りで髪を切った。
「私は今封印を破ってここから脱走した。それに気付いたのは封印を施したはずの君。
 そして私は書庫からアダムに関する文書を奪って行方を眩ます。素晴らしいシナリオだろう?」
そして彼は窓側の壁を壊して漆黒の羽根を広げた。
「アイツはさぞ怒るだろうなぁ」
クスクス笑いながら彼は男の方に向き直る。
「では後は頼んだ、眞王陛下」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・成功することを祈ってますよ、前王殿」
「ふふ、失敗すれば地界が吹っ飛ぶだろうよ」
そして彼は自ら開けた風穴から飛び立ち、男はそれを見送った。






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2007/04/15




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