それはバイトの帰りのことだった。
黒いスーツ姿の強面の兄ちゃんたちが数人、やってきて、彼らは囲まれた。
「おい、坊主。お前長瀬智也か?」
兄ちゃんの1人が名前を呼ぶ。
「・・・・・・・そ、そうですけど・・・・・・・・・・・・」
ビビりながらも、彼は返事をした。
横にいた親友の後ろに隠れて小突かれはしたが。
「じゃあお前が松岡昌宏だな?」
「そうですけど、何の用ですか」
親友はビクつきながらも、凛々しく答える。
次の瞬間。
「死んでもらおう」
そう言って向けられたのはいくつもの火を噴く鉄の筒。
「「!?」」
いきなりのことに硬直する2人。
まだあのゲームクリアしてなかったのに、とか、明日給料日なのに、とか、心残りが2人の頭を駆け抜けた。
そして目を閉じて。
「「?」」
銃口は一向に火を吹かなかった。
「誰だ貴様!!」
火を吹く代わりに聞こえたのは兄ちゃんの声。
「名乗らない奴に名乗る名前なんてないね!」
そして別の声。
恐る恐る目を開くと、小さい影が立っていた。
「こいつらに手を出した罪は重いぜ!」
その影はこちらに背を向けていたから、きっと味方なんだろう。
2人は少しほっとした。
小さい影はどこからともなくその身長と同じくらいの長さの棒を取り出した。
「おらぁ!!」
かけ声一声。
小さい影は強面の兄ちゃんたちの銃撃をものともせず、その棒1本でバッタバッタと倒していく。
そして数分もしない内に立っているのはその人だけになった。
その人は棒をコンパクトに片付けると、スタスタと2人に近付いてくる。
「あ、ありが・・・・・・・・・・・・」
「お前ら弱過ぎ!!」
感謝を述べようと彼が口を開いたのを遮って、その人は怒声を上げた。
短い髪に吊り上がった大きな目。
幼く見えるその顔は自分たちとそう変わらないように見えるが、雰囲気はとても威圧的だった。
「うぁ、は、すみませ…ん?」
ビビって思わず謝るが、それも何だか違う気がした。
「あんな短銃でビビってんじゃねぇよ!勝つ自信がないなら逃げるぐらいしろってんだ!
 俺が来なかったらあのまま死ぬつもりだったのか、アホ!!」
マシンガンのように吐き出される説教に、彼と親友は口を開けっぱなしに呆然と言われるがまま。
「ったく、何で13代目はこんなガキを選んだんだか・・・・・・・・・・・・・」
大きくため息をつきながら、その人は肩を竦める。
そして。
「俺の名前は国分太一。今日からお前等の教育係になったから」
「「は?」」
「叙仁組14代目組頭候補長瀬智也、及び補佐候補松岡昌宏。明日から特訓を始める。昼に迎えに行くから準備しとけ」
尊大に言い切ったその人──国分太一の台詞に、今度こそ2人の開いた口は塞がらなかった。









「ってなことがあったんですよ!昨日の帰り!!」
「へぇ〜」
エプロンをつけた青年、長瀬はカウンターに身を乗り出して、カウンターの向こうにいる笑顔のマスターに昨夜のことを話していた。
「で、どうなったんだよ」
長瀬の横、カウンターに座って一緒に話を聞いていた常連客が訊いた。
店の中に客は彼だけだ。
「そのまま国分さんはどっか行っちゃいました」
「へぇ〜」
笑いながらマスターが相槌を打つ。
「わけわかんないです。何ですか?じょーにん組って」
眉を寄せ、長瀬は首を傾げた。
「あれだよ、いわゆるヤクザ」
アイスコーヒーのストローを指示棒のようにぴろぴろ動かしながら、客は言った。
「え、ぐっさん知ってるんですか?」
「叙仁組って有名だろ」
「有名じゃないよ」
カウンターの横手から別の声が否定を入れる。
「あ、マボ」
エプロンを着けながら入ってくる背の高い青年に長瀬が声をかけた。
「やめてよ兄ぃ。長瀬に変なこと教えるの」
おはようございますと言いながらカウンターから出てきて、松岡は客に文句を言う。
「ただでさえバカなのに、もっとバカになっちゃう」
「えぇ!?マボヒドい!!俺バカじゃないよ!!」
「うるせー。試験前付き合ってやったのに赤点3つも取りやがって」
抗議の声を上げる長瀬の額をぱちんと叩く。
ごめんなさい。
小さく呟いて長瀬はシュンとなった。
「いや、あながち変なことでもないで」
のほほんと2人のやりとりを眺めていたマスターが、別で沸かしていたお湯を、常に沸騰させているポットに注ぎながら言った。
「裏では有名やんなぁ」
「何でアンタが知ってんの」
ニコニコと言った彼を松岡はジト目で睨む。
「ここは夜はバーやからね。そういう人も来るんよ」
なぁ、山口、とマスターは客──山口に同意を求めた。
「まぁね」
「ホントかよ!2人で嘘ついてない!?」
松岡が声を上げた時、カランカランと入り口のベルが客の来店を告げる。
「「いらっしゃいませ!」」
反射的に笑顔を作って客を迎える松岡と長瀬。
「お好きな席へ・・・・・・・・・・・」
その続きを長瀬が口にしかけて、はたと止まる。
そして2人揃って指さし、声を上げた。
「「あー!!!!」」
そこにいたのは吊り目短髪の背の低い童顔の青年。例の『国分太一』だった。
長瀬と松岡の反応に、鬱陶しそうに片眉を跳ね上げる。
「うるせぇなぁ」
不機嫌そうに2人を睨み、カウンター、山口と1つ席を隔てた所に腰掛けた。
「アイスコーヒー」
「はい。松岡、水出したげて。それと長瀬はアイスの準備な」
マスターに言われて、2人は慌てて準備を始める。
「お疲れのようですねぇ」
樽のような独特の形の金属製のグラスにコーヒーを注ぎ、マスターは笑いかけた。
「さっきまで仕事でしたから。ようやく終わりましてね」
「残業ですか?」
「いいえ。完璧ですよ」
朗らかに笑って国分は答える。
「そうですか。それはお疲れさまです」
マスターはそう微笑んでコーヒーを出した。
そしておもむろにパンを切り始める。

(今の話、最後噛み合ってなかったよな!?)
(でも茂君普通に話してましたよ!)
レジ付近でカウンターの様子を眺めながら、ひそひそ話し合う松岡と長瀬。
(怪しすぎますって!)
(でも見た目普通だぜ、アレ)
ぼそぼそ喋る2人を、国分はじろりと睨めつける。
「何だよ、おめーら」
「「何でもないです」」
「これ飲み終わったら行くからな」
そう言って、ストローでコーヒーの最後の一口を吸い上げる国分。
「というわけでバイト君借りていきますね」
「ええ。話は伺ってますから」
よろしくお願いしますね、とマスターは微笑んだ。
「ええええ!!!?何言ってんの茂君!!!!?」
「え?そういう連絡もらったから」
「聞いてねーよ!!!」
「やって言うてへんもん」
「可愛い従兄弟が知らない人に攫われてくのを助けてはくれないんですか!!!!?」
「え?勉強に行くんやろ?この人が教えてくれはるって」
「「違・・・・・!!!」」
ほえほえと返してくるだけで何の役にも立たないマスターであり、長瀬の従兄弟である城島に
2人は声をハモらせて抗議をするが、その最後の言葉は国分の一睨みで止まった。
「大丈夫やで。今日の残り時間は僕の長年来の親友であるこの山口達也殿が手伝ってくれる言うとるから」
「はぁ!!?俺そんなん聞いてねーぞ、シゲ!!!」
カウンターの向こうで驚きの声を上げる山口を無視して手を振る城島。
その視線の先には、悲鳴を上げて抵抗する松岡・長瀬と、それをものともしない力で引っ張っていく国分の後姿。
カランカランと、店の扉は平和な音を立てて閉まった。
「ま、頑張って強くなってもらわんとねぇ」
苦笑を浮かべる城島に、山口はため息をついた。

















2人が連れてこられたのはどっかのビルの最上階。
何も無い、がらんどうとしたコンクリート剥き出しのワンフロアに正座した2人は、
その前に仁王立ちした国分に特訓する、とだけ説明を受けていた。
「で、質問は?」
その言葉に、呆然と話を聞いていた2人は、ハッと我に返る。
そして、おずおずと松岡が手を上げた。
「確認してもいいですか?」
「早くしろよ」
「ここはどこですか?」
「それは言えねぇな」
「これから特訓するって言ってたけど、何をするんですか?」
国分は眉を寄せた。
「・・・・・お前ら、説明受けてねぇの?」
「説明って・・・・・・誰から・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あのクソ13代目・・・・・・・・・後でシメる・・・・・・・・・・・」
松岡が首を傾げると、国分は物騒な言葉を口にした。
「・・・・・とりあえず簡単に言うとだな、お前らはうちの組の次のボスと、その補佐役の候補者だって事だ」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「候補者は数組いる。で、その中で最も相応しい奴が選ばれる。
 選ばれた奴らはしばらく今のボスの下でいろいろ学んで、次の代のボスになるって仕組みなんだ、うちはな」
「はぁ」
「しかもこの選抜、教育係の評価も同時にされる。選ばれた候補者の教育係は出世できるって事。
 つまり、だ。俺はお前らの出来次第で首が飛ぶかもしれねーし、昇格できるかもしれねー。
 不本意ながら俺の将来はお前らにかかってるって訳」
「で?」
「で?・・・・・・・・まだわかんねーかな・・・・・・・・・・・・・・。これからの訓練っていうのは、
 他の候補者を蹴り落として選ばれるための戦闘技術を身につけてもらう訓練なんだよ」
呆然として話を聞いている2人を見て、国分はため息をついた。




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長くなりそう&先の話に詰まったので、諦めました。
っていうか、これ、WJのRボーンのパクリですよねー;
893ものは難しいです。

2006/08/22




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