Principle



短編にて



-----------------------------------------------------------




Reason



踏みしめた砂が小さく音を立てる。
正面で交差する道を、慌てた様子の男達が走り抜けていく。
それを目で見送って、太一はその十字路を直進した。
のんびりとした足取りで、一歩ずつ進んでいく。
遠くの方から鐘の音が聞こえた。そして微かに喧噪。
それを気に留めることなく、歩みを止めることもない。
しかし、不意に足を止めた。
視線を上げる。コンクリートの塀に腰掛ける影。
鼻歌を歌うその陰は、太一の姿を認めると、軽い足取りで飛び降りる。
「おまたせ」
太一の言葉に、その青年は愉快そうに笑みを浮かべた。
「お誘いした覚えは無いんですけどね」
「でも待ってたんだろ?」
「いかにも」
自身ある口調の太一に、青年はわざと恭しく答える。
「俺たちの考え、判ってたんですか?」
そしてそう訊いた。
「・・・・・そう言えたら格好いいけどね。勘だよ、勘。リーダーが何となくそうじゃないかってね。
 ま、知ってるのは俺とリーダーだけだよ」
そう言って、太一は肩を竦める。
「じゃあ奇襲作戦は、一応成功なんですね」
楽しげに、青年は笑った。


のんびりとした空気。
けれども互いにそれ以上距離は詰めない。
「正直なところ」
青年が口を開く。
「本当にこの国のためを思って活動してんのは、俺ら5人の中では3人だけなんですよ」
自嘲のような台詞。
意図を掴めず、太一は眉を顰めた。
「あぁ、もちろん他の人たちもちゃんと活動してますよ。
 本当にこの国の将来を憂いて、何とかしようとしてる」
青年は視線を下げる。
「俺もね、あの人もね、動機は不純なんですよ。
 正直なところ、この国がどうなろうと知ったこっちゃありません。
 俺はただ、あの人の傍にいたかっただけなんです」
そして、青年は一歩踏み出す。

キン

銀の弧が走って、甲高い音が響く。
「でもね、あの3人は本気だ。命を懸けてる。
 なら、理由がどうあれ、俺も命を懸けなきゃいけない」
抜きかけの太刀の刃が青年の刀をギリギリで止めている。
「きっと腕や足なんてあっさり捨ててくるでしょう。もしかしたらもう帰ってこないかもしれない」
太一は身を翻すと同時に、隠し持っていた小刀を青年に向かって投げつけた。
小さな金属音と共に、青年が太一から距離をとる。
「でもね。そもそも俺たちにはもう、帰るところなんてないんですよ。アナタ達と違って」
太一は何も言わず、太刀を鞘から抜いた。
青白い刀身が月の光を微かに反射する。
「出来れば俺は刀は抜きたくなかったんだけどなぁ」
苦笑交じりに刀を眺める。
「そんなこと言って、知ってますよ、アナタが一番容赦なく敵を切るって事ぐらい」
「いや。うちの“鬼”には敵わないけど?」
「でも容赦はしないでしょう?」
「確かにね」
青年の挑戦的な言葉に、太一は笑った。
「来いよ。右手の怪我はハンデにくれてやる。
 それだけ言うなら、お前の覚悟、見せてみなよ」
「ハンデですか。俺の事甘く見てると、腕一本、失くしますよ?」
「面白いじゃねーか」
瞬間、空気が張り詰める。
その次には、白銀が2本、閃いていた。




-----------------------------------------------------------




Spite



廊下がドタドタと鳴る。
庭の方から聞こえた爆音に走って駆けつけてみれば、屋敷内にいた隊士達が呻き声を上げていた。
パチパチと炎が爆ぜる音。焦げ臭いニオイ。
煙独特の臭気が鼻を刺す。
微かに烟る視界の隅に人影が映る。
長瀬はいつでも刀を抜けるようにして、足を止めた。

火の粉がちらちらと降る。
煌めくそれに一瞬焦点を合わせ、そして煙の向こうの人影に視線を向ける。
庭の砂が音を立てた。ざりざりと踏まれるたびにそれは悲鳴を上げる。
そして次の瞬間、長瀬は刀を抜いた。
ギンと刀が鳴る。
互いに込められた力がぶつかり合って、接触した部分が火花を散らした。
長瀬が力任せに刀を薙ぎ払い、そして相手の咽喉元に向かって突き上げる。
それを紙一重でかわし、相手は一歩飛び退いた。
煙が晴れてきて、その姿が露わになる。
火が勢いを増して、近くの襖に燃え広がった。

「どうも。こんばんわ」
霞の向こうから現れた青年は、人好きのする笑顔を浮かべて長瀬に声をかけた。
その朗らかな様子とはかけ離れた物を手に携えて。
それは通常使われる太刀よりも一回りも二回りも大きな刀。
「お久しぶりです」
それに付いた血を振り払って、青年は微笑む。
「・・・・・・・・・お前がやったのか」
「そうですよ。・・・・・そして予想通りアナタが出てきた」
嬉しそうな口調に長瀬は眉を寄せた。
「こんな事して、本当にこの国を護れるとでも思ってんのかよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ、それですか」
長瀬の言葉を青年は鼻で笑う。
「それね。もうどうでもいいんですよ。
 この国が他国の植民地になろうが、生き残ろうが、俺にはもう興味の無い事です」
「・・・・・・・・は?」
彼が属するはずの組織の主張とは異なる青年の言葉に、長瀬は思わず刀を下げた。
「・・・・・・・・・・・・だって・・・・・・・・・・・・・お前・・・・・・・・・・・・・」
「アナタは覚えてなんて無いんでしょうけど」
長瀬の言葉を遮って、青年はそう切り出す。
「俺は今まで一日たりとも忘れた事は無いですよ。
 あの日、アナタに付けられた傷だって未だに残ってる」
少し変わった口調に、長瀬は再度刀を構えた。
「・・・・・・・・忘れるもんか・・・・・・・・・・・・あんな屈辱・・・・・・・・・・・・・」
刀を持っていない方の手で額を押さえ、青年は小さく呟く。
次の瞬間、議員と鈍い音がして、咄嗟に身を退いた長瀬の刀が刀身半ばで綺麗に折れた。
折れた切っ先は弧を描いて庭の地面に突き刺さる。
長瀬は折れた刀を迷わず捨て、傍に落ちていた刀を拾う。
そして今度は2本の刀が交わった。
「・・・・・っ・・・・・・・・」
「ゾクゾクしますよ・・・・・・・やっとアナタを叩っ斬る事が出来る・・・・・・!!!」
喜々の色を瞳に滲ませて、青年が声を上げた。
青年の刀を間近で見て、長瀬は息を呑む。
砥がれた形跡の無い、ボロボロの刃先。
錆び付いて鋸の様になったそれは、斬るというよりも抉る事を目的としているよう。
これで斬られれば、必ず痕が残るだろう。
そして、同時に沸き起こってくる別の感情に、長瀬は身体を震わせた。
「・・・・・・・・いいぜ。やってみろよ」
青年の刀を振り払って、長瀬は青年に挑発の視線を投げかける。
楽しくて堪らないといった笑みを浮かべて。
「返り討ちにしてやるよ」
その次の瞬間、二振りの刀が火花を散らした。




-----------------------------------------------------------




Desperate



(M vs M)



-----------------------------------------------------------




Anxiety



(J vs O)



-----------------------------------------------------------
拍手にするつもりで挫折

2008/01/18



close