「しげるくん!アレ食べたい!!」
とある屋台を見て、相葉が目を輝かせながら城島の傍に走ってくる。
「んー?どれやー?」
「げー!リンゴあめなんて食べるのかよ」
「だっておいしそうじゃん!」
「俺も食べたいです」
ギャンギャン騒ぐ相葉と松本の横から長瀬が城島を覗き込んだ。
立ち止まっている城島たちを振り返って、先を行っていた櫻井と、手を繋ぐ大野と二宮が走って戻ってくる。
その後ろを、太一と松岡がのんびりと戻ってきていた。
「何してんの」
呆れた様子で太一が声をかける。
「この子等がリンゴ飴食べたい言うて・・・・」
ニコニコと城島が最後まで言い切る前に、鈍い音が2つ響いた。
「いってー!!!?」
「何で殴るんですか!!」
「買い物は祈祷が終わってからっつっただろアホ!!我侭言わない!」
下の子達のここ数年前から躾係となっている太一の言葉に、2人は半泣きになりながら謝った。
「ながせくん、あっちみにいこー」
「おー。太一君良いですか?」
長瀬の手を取って引っ張る櫻井をその場に留めて、長瀬は振り返る。
「10時からだからな。それまでに本殿に来いよ」
「はーい。よし、行くか翔!」
「うん!さとしくんもニノもいこ!」
小さい子どもたちが長瀬とともに神社に隣接した森の方に走っていった。
「まつおかくんもいこー!たいちくんも!」
「俺も!!?」
「うわっ押すなって相葉!」
腰の辺りをぐいぐい押されて松岡がたたらを踏みながらも仕方なしについていく。
「太一ー。危ないからついてったってー」
城島が笑いながら声をかけると、控えめに太一を待っていた松本の顔が輝いた。
「ほら、行くぞ!」
溜息をついて太一が駆け出すと、嬉しそうに松本がその後を追いかけていった。


「ガキども元気だなぁ」
走っていった後姿を呆れ返りながら見送って、山口はそう呟いた。
「達也も行けばえぇやん。こっちおっても手伝いせなあかんだけやで?」
「やーだよ。結局鬼ごっことかして遊ぶんだぜ?こっちいた方がいい」
もちろん手伝わないけど、とニヤリと笑う。それに苦笑を浮かべて溜息をつくと本殿に向かって歩き出した。
「何でー?この神社はお前を祀っとるとこやんかー」
「それこそ俺が踏ん反り返っとかねーとダメじゃん」
ケラケラ笑いながら山口は城島の横に並ぶ。
「まー。実際のところ、祭られてんのは俺じゃねーけどなー」
「そうなん?」
「俺っていうか、『アイツ』だからさぁ。俺は関係ないよ」
「へぇ」
城島が履いていた草履をわざと引き摺るように歩いた。それに合わせてざくざくと玉砂利が音を立てる。
地域の神社であるため、参拝客はそれほど多くない。
帰っていく親子連れを横目で眺めながら、山口は並ぶ屋台に目を通す。
「俺焼きそば食いてぇな」
「帰りになー」
「シゲは食わねーの?」
「達也の一口ちょうだい。全部は食べれん」
「もー。そんなんだからいつまで経っても細いんだよ」
「しゃーないやんか」
肩を竦める城島に、今度は山口が溜息をついた。
「まぁ、俺みたいにガッシリとされても困るな。守り甲斐がないし」
「せやろ?やからほどほどにしとんねん」
「今考えただろ、その理由」
「バレたか」
隠そうともしない城島の。楽しそうなその様子を受けて、山口は笑いながら城島の横っ腹を肘で小突く。
「痛いがな。骨折れるわー」
「折れねーよ。どんだけ弱いんだよ」
「ははっ。冗談や、冗談」
判ってるよ、と山口が笑うと、満足そうに城島も笑う。そしてそのまま視線を本殿の方に向けた。
「まー。今年と言わず、これからもよろしくお願いしますわ、山口さん」
「・・・・・・・・。・・・・・・はいはい。ちゃんと守ってあげるから、もっと強くなってくださいよ茂さん」
少し間があって山口がそう返した。
おやと思い城島が視線を戻すと、頬を少し赤く染めて山口は明後日の方を向いていた。
「・・・・何。照れとんの?」
「照れてねーよ」
「顔赤いやんか」
「寒いからだよ」
「はいはい、お2人さん。そこでイチャつかんとってくれはりますー」
言い合いをする2人の横手から声がかかり、山口は驚いて飛び上がる。
城島は判っていたかのように笑顔を浮かべ、声のした方を向いた。
「あ、光ちゃん。おめでとお」
「おめでとうございます、茂君」
お互いにやんわりとした空気を漂わせて、ほのぼのと話し始める。
「お久しぶりです、山口さん」
「おう、久しぶり」
後ろから現れた先代の式神に、山口は軽く手を上げた。
「・・・・・・・・1つ訊いてもいいですか?」
「何だよ」
「あの2人って仲良いですよね?」
「・・・・・・・・・・・・」
剛の問いかけに、山口は一瞬言葉を忘れる。
確かに、山口は城島しか見てはいないが、先代に対する敵対心たっぷりな発言しか聞いたことがない。
「俺普段、茂君に対する嫌味しか聞かないんですけど」
「大丈夫だ。俺も似たようなもんだから」
頭の上にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げる剛を見て、山口は肩を竦めた。
「俺らには理解できねぇよ、あの2人はさ」
だからしょうがないと、すでに本殿の方に行ってしまった2人を追いかけて山口が歩き出す。
「そうですね」
その言葉に納得して、剛ものんびりと後ろを追いかけた。













おまけ

(その頃の勝利さん)

元旦の日の出から怒涛の勢いで押し寄せた挨拶参りを何とか乗り越えた後だった。
「坂本君、行くよー」
「んー。ちょっと待て・・・・・・まだお年玉の準備が・・・・・・・・・」
襖の向こうから聞こえた唸り声に、長野は思いっきり襖を開けて覗き込んだ。
「お年玉?誰の?」
「智達だよ。今城島の本家に戻ってるだろ。今から行くんだから準備しとかないと・・・・」
「え?俺じゃないの?」
「誰がお前にやるか!俺より金持ちだろ!」
さも当然のように言った長野の言葉に噛み付くように坂本が言い返す。
「えー。まぁ、確かにそうだけどさ。剛達にはあげないの?」
「あー?あいつらいつ帰ってくんだよ。流石に英国までは行けねぇよ」
「明後日ぐらいじゃない?また岡田から電話あるでしょ」
「ああ、そうか」
ようやく準備が整ったのか、坂本が立ち上がって部屋から出てきた。
「お待たせ」
「じゃあよっちゃん拾って行こっか」
「おー」
ギシギシ鳴る廊下を進みながら、坂本は庭の塀の向こうにある森を見る。
「おい!留守番頼むぞー!」
足を止めてそう叫ぶと、烏が数匹飛んできた。
【お任せください、鳶の院】
「明日には帰ってくるからな」
肩に乗ってきた烏の頭を軽く撫でて、坂本は長野を追いかけた。
「お節楽しみだなー。毎年城島のお家は豪華だもんね」
「頼むから今年はタッパーに入れて持ち帰るのはやめてくれよ」
スキップでもしそうな様子な長野の呟きに、坂本は溜息をついた。





2009/01/02