腹に一発蹴りを入れられて激しく咳き込んだ。
二発目を相手が構えたとき、相手を殺すつもりで睨みつける。
「・・・・・・・・・・・・・・っ今回はこれで勘弁してやらぁ」
それに気圧された相手集団はそう言い残して逃げるように去っていった。
姿が見えなくなって、咳き込みながら身体を起こす。
殴られたときに口の中を切ったらしく、鉄の味がした。
血の混じった唾を吐き捨て、口の端を拭うと、何かが自分の横に立ったのを感じた。
【無事か?雅紀】
声が直接頭に届く。
「生きてるよー。めっちゃ痛いけどね」
視線を向けると炎のように揺らぐ、四つ足の生き物が見える。
【殺すか?】
それは犬のような形を取って、彼にすり寄ってきた。
どこかで聞いたことある台詞だとぼんやりと思う。
『ダメだよ』
不意に懐かしい記憶が蘇ってきた。
* * * *
「そんな事しても意味ないよ、相葉ちゃん」
いつの間に来ていたのか。
横に大野が立っていた。
「立てる?」
そう言って差し出された手を、彼は見ただけ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・何で?」
「ぅお?」
「何で意味ないの?やられたらやり返さなきゃ」
その言葉に、大野はその場にしゃがみ込んだ。
「じゃあやり返したら俺らの主張は認めてもらえる?」
「・・・・・え・・・・・」
「幽霊とか妖怪とか視える、存在してる、っていう主張は認めてもらえっかな」
「・・・・・・・・・・・」
「俺たちがどんなに存在してるって主張したって、あの人たちには視えないんだよ。
そういう可哀想な人たちにやり返しても意味ねぇし、無駄だよ」
大野はそう言って立ち上がり、ついでに彼の手も掴んで起こし上げる。
「・・・・・可哀想・・・・・?」
「だって可哀想じゃね?幽霊も妖怪も友達になれるものなのに、視えないんだぜ?可哀想じゃん」
「・・・・・・・・・・・」
「って茂君が言ってた」
へへっと照れた笑いを浮かべる。
「だから、さ。やめとこうぜ」
* * * *
「・・・・・・・・・・やっぱいいや」
すり寄ってきた頭を撫でながら、彼は興味なさそうに答える。
【いいのか】
「うん」
【・・・・・・・・・・それは城島の当主に言われたからか?】
彼は片方の眉を跳ね上げてそれを見た。
【城島の庇護を受けてはいるが、その配下に降ったわけではないのだろう?
ならば従う必要はないではないか】
その言い種に彼は苦笑を浮かべる。
「・・・・・確かにそだねー。茂君に従わなきゃなんない訳じゃないし、茂君も強制はしてこないし?
でも違うよ。そうじゃない」
そう言いながら立ち上がり、服の埃を払った。
「キャプテンとの約束」
【約束?】
「う〜ん、約束でもないかな。一方的に俺が約束だって思ってるだけかもだけど」
【・・・・・・・・・・そうか。よく解らないが、それならば私は雅紀に従おう】
「ありがと、氷焔」
彼はニカっと笑って歩き出す。
「あぁ、でもやっぱムカつくなー。ほんの少しだけ怖い思いさせてあげよっか」
【解った】
「死なせちゃダメだからねっ」
彼の言葉を受けて、犬のようなものは姿を消した。
「さてと、今日の夕飯何かなー」
そして彼は鼻唄を歌いながら家路についた。
相葉さん。
実は誰よりも冷静な人だと思う。
2007/07/26
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