ブオォォォン・・・・・・・・・・・・・







轟音を立てて、背後の大通りを大型トラックが走り抜けていく。

その音にハッとして、彼は顔を上げた。

目の前には影。

視界を遮って、誰かが立っていた。

「大丈夫ですか?」

その人はしゃがんで、彼と視線を合わせて、そう訊いた。

「あ・・・・・・・・・・大丈夫です・・・・・・・・・・」

「体調悪いなら、一緒に病院行きましょうか」

「え、いや、ホント大丈夫です。最近寝不足で、今もちょっとウトウトしてて・・・・」

彼が慌ててそう答えると、その人はホッとした様子で、彼が座っていたベンチに腰掛けた。

「レポートか何かの期限でもあったんですか?・・・・・大学生、ぐらいですよね?」

「あ、はい。大学生です。ちょっと難しい課題が出てて、今日、ようやく提出できたんです」

「そうですか」

彼が苦笑を浮かべると、その人も笑顔を浮かべた。

「此処で、何されてたんですか?」

「え?」

「よくこの公園通るんですけど、君、いっつもここにいますよね。このところ見なかったけど」

「えっと・・・・・・・・・・・・・・待ってるんです」

「待ってる?」

「はい。・・・・・・・・・・・・自分でも馬鹿げてるって思うんですけどね」

彼が苦笑すると、その人は、いえ、と否定した。

「誰を待ってるんです?」

「誰か判んないんです」

「判らない人を待ってるんですか?」

「えと・・・・・・・・何て言えばいいんだろ・・・・・・・・・。・・・・・・・・・夢、を、見たんです」

「夢?」

「はい。よく状況が判んないんですけど、5人で暮らしてる・・・・・・・のかな・・・・・・・・・・・・
 とにかく5人でいるんですよ。俺と、男が4人。俺が一番年下で、すっげぇ可愛がってもらえて。
 でも、突然一番上の人がいなくなって、その次の人もいなくなって、4番目の人もいなくなっちゃって。
 3番目の人と俺だけになっちゃったんです。
 ・・・・・・・・・・この後はよく判んなくて、気付いたら、また5人で暮らしてるんです。
 ・・・・・・・・・・・でも、俺、そこでみんなに酷い事しちゃったんです・・・・・・・・・・」

「酷い事?」

「・・・・・・・・・・・・・みんなを閉じこめて、何処にも行けないようにしたんです」

「へぇ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・結局、その生活も終わってしまいました。・・・・・・・・ううん、違う。
 俺が壊してしまった。壊れてほしくなくて、いろいろやって、結局俺が壊してしまったんですよ」

彼はそこで1度、言葉を切った。

「・・・・・・・・・・・・・・・でもね、そんな酷い事したのに、みんな、また、待ってろって言ってくれたんです」

「それで、待ってると?」

「はい。・・・・・・・・・でも、夢の話、なんですけどね・・・・・・・・。何か妙に現実っぽかったから・・・・・。
 だから、馬鹿げてると思うんですけど、何か、待ってなきゃいけない気がして・・・・・・・・・・・」

「そうですか」

「・・・・・・・・・・・その、最後まで一緒にいた3番目の人、怒るとメッチャ怖いんです。普通に殴ってきて。
 で、ケンカしてると2番目の人に怒られて、一番上の人に2人で慰めてもらうんです。
 その間、4番目の人はオロオロして、家の中をウロウロしてるんですよ」

嬉しそうにそう言って、彼は苦笑した。

「幸せでした」

小さく呟く。

「きっと、俺はみんなに許してもらえないと思います。でも、やっぱり少し期待してしまうんです。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・馬鹿げてるでしょう?」

彼は苦笑しながら、その人に訊いた。

「約束の場所はここなんですか?」

その人はそれには答えず、彼にそう訊く。

「え、いや、そういうわけじゃないんです。でも、ここで初めてその夢を見たから・・・・・」

彼が慌てて弁明すると、その人は笑った。

「そこまで覚えてて、どうして気付かないかな」

「・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

彼がその意味を理解できずに固まると、その人は立ち上がって、彼の頭にコツンと拳骨を乗せた。

「お前、変わんねぇな。そういうアホなところは、さ」

そう言ってその人の笑顔を見て、彼の中で何かが繋がった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・太一・・・・・・・・・君・・・・・・・・・・・・・・?」

自然と彼の口を継いで出てきたその名前に、その人は満足そうに笑みを浮かべた。

「残念、今はそういう名前じゃねぇ!!・・・・・・・って言いたいところだけど、生憎、今の名前も太一なんだな、これが。
 ・・・・・・・・・・・・・・・遅くなってゴメンな。でも、ちゃんと迎えにきたぞ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・嘘・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「嘘じゃねぇよ。ほら」

そして、その人は横手の方を指差した。

その指先には。

「・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・」

泣きそうに顔を歪めた彼を見て、その人は楽しそうに笑う。

「言ったろ?みんな連れて迎えにいくって。今度こそ、俺は約束を守った。んで、お前も守った」

彼はその人の顔を見る。

「今の俺はあの時の俺じゃないし、お前もあの時のお前じゃないだろ?もう、許す許さないの問題じゃないんだよ」

「・・・・・・・・・・・・でも・・・・・・・・・・・・・・・・」

「変わらないところもあるけど、時間とともに人も自然も世界も全部変わっていく。それで、いいんだよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「約束をしたのは『俺達』じゃない。でも、こうやってお前を見つける事が出来たんなら、それが運命って事だろ?」

そう笑って、その人は手を差し出した。

「この手を取るかどうかは、お前の自由だ。俺らは強制しない」




──────── 行こう




「でも、お前が望むんだったら、俺らは拒否しねぇよ」








ずっと、欲しかったものがある


家族がいて、友達がいて、足りないものは無いのに、何か足りない


生まれた場所じゃなくて、何処か判らないけれど、帰りたい


生まれる前から、きっと、精神とか、そういったところが求めてるもの








「・・・・・・・・・・・・・いいの?」

「・・・・・・・・・・いいよ。じゃなかったら迎えに来ないよ」

「・・・・・・・・っ・・・・・・・・・」

彼は無意識に出てきた涙を拭って、その手を取った。

「お前こそ、いいの?」

「うん」

彼が笑顔でそう頷く。

その人も、嬉しそうに笑った。















姿形、心が変わっても、魂が変わらないなら、また出会えるから。



きっと、あの記憶は、今、ここで出会うための道のり。






暗い世界は終わりを告げて、また、新しい生が始まる。









fin...

ということで、終わりです。
何が言いたいか判らないまま終わってしまいましたが、特に主題も決めずに始めたものなので、 こんなもんじゃないでしょうか。
そもそもこの話は『わかりやすく、読みやすく』ではなく、『書きたいものを書く』をモットーにして書きました。
なので、わかりにくいことが多かったと思います。いろんな伏線も、結局自己完結してますしね。
でも書きたいシーンが書けたので満足です。

試作品の段階でGOサインを出してくださった方々、ありがとうございました。

そしてここまでお付き合いくださってありがとうございました。

2006/12/11



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