スパール・キャンディー







「何だそれ」



袋の説明を読んでいた俺の手元を太一君が覗き込む。
「キャンディーです」
この前どっかの怪しい雑貨屋で買って、忘れてたんです。
俺がそう言うと、太一君は袋を俺から取り上げた。
「『このキャンディーは、舐めた人を素直にします』?怪しすぎ」
そして袋を俺に投げ返した。
「だから買ってみたんですけどね」
そう答えた時、マボが部屋に入ってきた。
雑誌を読んでいるリーダーと山口君に挨拶して、こっちにやってくる。
「何してんの?」
首を傾げるマボに、俺と太一君は一瞬顔を見合わせる。
「何でもないよ。ところでマボ、これあげる」
そう言って、俺は袋から飴を1つ取り出して、マボに渡した。
「?ありがと」
そしてマボはそれを何の躊躇いもなく口の中に放り込んだ。
「レモン味か」
マボは小さく呟いて、ソファに腰掛けて雑誌を読み始めた。
「・・・・・・・・・・・・・・何にもならないね」
「てか何かなったら困るしな」
それだけやりとりして、俺は飴を放り出して携帯を操作し始め、太一君もパソコンを触りだした。








それから30分ぐらいした時だろうか。
「あ、そうだ。リーダー」
そう言って、何か思い出したようにマボが立ち上がった。
「ん?何やぁ?」
リーダーは雑誌から目を離してマボを見る。
「どうした、松岡?」
首を傾げるリーダーに、マボは普通に言った。
「死んで」
あまりに普通だったから、何を言ったのか、リーダーでさえも解ってなかったと思う。
そうやって俺達が呆然としてる間に、マボは本当にさりげなくパイプ椅子を振りかぶって、リーダーに叩きつけた。


ごっ


硬いものが砕けるような音と、びちゃっという音が響いた。
リーダーはそのまま椅子から崩れ落ちる。
少し変形した頭から真っ赤な血を流して床に倒れた。

「・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・」

白いタイルに赤い水溜りができる。
俺もぐっさんも太一君も、呆然として、何も言えなかったし動けなかった。
「・・・・・・・・・・マボ」
それでも辛うじて出た声は、すごく掠れていた。
「何?」
それに返事したマボはすごく普通だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・何で」
訊きたいことはいっぱいあったのに、言葉として出てきたのはそれだけ。
「だって、生きてたら俺のものにならないだろ?」
そうして、マボは不思議そうに俺達を眺めていた。
その目は狂ってるわけでもなくて。
本当に、いつも通りのマボだった。















スパール・キャンディー

このキャンディーは、舐めた人を素直にします







ご使用には十分ご注意を



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所要時間1時間。・・・・・・・・・・・本当にごめんなさい(汗)

2006/11/28


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