結局、俺達は互いに騙し合って暮らしていたんだ。


だけど、それでもあの5年間は、幸せだったと思う。







liar, liar







十月某日。
あるテロリストが軍に出頭した。
その男は自らの保身と引き換えに、所属していた反体制派グループの構成員の情報を軍に流した。

男が所属していたのは国内最大のグループで、今まで一切情報を得ることができなかった組織でもある。

その情報を元に、軍は手配書を作成した。
手配された人間は百にも及ぶ。
その中には、この国の大統領や議員、官僚を暗殺した犯人も含まれていた。
ランクはCからSまでさまざま。その中にランクSの手配者は10人。

十一月。
軍はその手配書を元に、大々的な検挙を行った。

















その日は曇りの日だった。
この国は北の方に位置していて、十月後半には雪が降り始める。
冷え込んだ空気が痛くて、太一君なんかすでにセーターを着込んでいた。
山口君は相変わらず薄着だったけれど。

その日、俺の所属している部隊は俄かに活気付いていた。
先日、追っていたテロ集団の謀反者が軍に出頭し、その情報を元に手配書が作られた。
それがようやく現場にも回ってきた日だったから。

最初に目を通したのは太一君だった。
手配書は約百枚。
その中には今まで捕まえ損ねてきた奴の顔もちらほらあった。
太一君は一枚一枚、丁寧にそれに目を通し、テロリストの顔を覚えていた。
俺達の部隊の中で太一君はそういう役目だった。
もちろん俺達も覚えるけれど、そんなに多くは覚えられない。
だから太一君がメインに覚えることになっていた。

ぱらりぱらり。
紙をめくる無機質な音が響く。
山口君と松岡君は先日のテロ事件の報告書を書いていた。
俺はというと、特にすることもなくて、ぼんやり窓の外を眺めていた。
窓の外には曇り空。
もうすぐ雪でも降るのかもしれない雲行き。
そろそろ灯油を買い足しておかなきゃ、とふと思った。

その時だった。
ちょうど最後の手配書に目を通そうとしていた太一君が、動きを止めた。
表情が、文字通り固まっていた。
その異変に気付いた山口君と松岡君が、太一君の方を向く。
「・・・・・・・・・・嘘だろ・・・・・・・・・」
異様な空気が流れる中、太一君は口元を押さえて呟いた。
「どうした、太一」
「・・・・・・・っこんなん嘘だ・・・・・・・・こんな・・・・・・・・こんなことあってたまるかよ!!!」
ばぁんと机が音を立てた。
太一君が手配書を机に叩きつけたのだ。
「・・・・・・何・・・・・・?どしたの・・・・・・」
太一君の傍に座っていた松岡君がその手配書を覗き込んで、眉間にシワを寄せた。
「・・・・・・・・・・・嘘だ・・・・・・・・・・・・・・・」
俺と山口君もそれを見た。


そのテロリストのランクはS。
前大統領暗殺や、多くの一般人や軍人が亡くなったテロ事件の実行犯とされる人物。
“マモン”と渾名されていた、最凶最悪のテロリスト。
その情報に反して、そこには柔和な笑みを浮かべた人物の顔写真が載っていた。


手配書に記載されていた名前は城島茂。


俺達が5年前から同居している小さな本屋の店員だった。

















十一月の半ばには、Sクラス7人を含む56人のテロリストが逮捕もしくは射殺されていた。
たった一人の反逆者によって、国内最大のテロ組織は壊滅に追い込まれていった。

















それを同僚に伝えることなく、俺達は自宅に戻った。
嘘だと確認したかったから。
本人が否定すれば、何かの間違いだと判るから。
けれど、茂君がいたはずの部屋の中は、帰った時にはもうすでにもぬけの殻だった。

茂君に初めて出会ったのは、5年前の今頃だったと思う。
反体制派のテロ活動が激しくなって、軍はついに隊テロ班を組織した時だ。
地方の単なる一兵卒だった俺が、どうしてか判らないが、それに徴収された。
それで中央に来て、そこで初めて山口君や太一君、松岡君と出会った。
彼らも同じように徴収されて中央に来た、地方の憲兵に過ぎなかった。

俺たちはすぐに仲良くなった。
4人とも地方から来た田舎者だということもあったから。
中央勤務になっても金がないのは変わらなくて、4人でルームシェアをすることになった。
借りたのは5LDKの大きなアパート。
部屋は4つで構わなかったんだけれど、縁起が悪いからと建てられてないらしかった。
どうせだからもう1人見つけよう、ということになって、そこで茂君と出会った。

当時テロは横行していたものの、内乱が終わったばかりで、中央は多くの人で賑わっていた。
地方に疎開していた人や仕事を求めて出稼ぎに来た人。
内乱中に財を蓄えていた人などが発展している中央にやってくるパターンもあって、地価の高騰が一気に起こっていたのだ。
多くの地主は土地を売り、大金を手にしていた。
それは安価なアパートの大家も同じことで、自分の所有するアパートを高級マンションに建て替えて儲けようと躍起になっていた。

茂も今まで住んでいたところを、そういう理由で追い出されてしまったと言っていた。
そういうわけで、5人の同居生活が始まったのだ。

















十二月に入って、軍は反体制派グループの指導者を逮捕した。
彼は見せしめとして公開処刑とされた。
人道的だと言われ、使われ続けた非人道的な方法で。
ギロチンによる斬首刑は、十二月の半ばに行われた。
中央の広場には多くの人が集まった。
刃が落ちる前、彼は、彼らにしか解らない言葉を、一言、口にした。
それが彼の最期の言葉だった。
そして、恙無く、処刑は行われ、導師と呼ばれた男はその命を散らした。

同じ日、国内十数カ所で自爆テロが起きた。
駅や公共施設といった人が集まる所が狙われ、
何百人もの人間と、手配されていたテロリスト数十名が死んでいった。

















茂君は物静かな人だった。
言葉は少し訛っていて、西の方出身だと言っていた。
いろんなことを知っていた。
いろんなことを教えてもらった。

そして、茂君は少し鈍臭かった。
何もないところで躓いたり、何年も暮らしてるはずなのに迷子になったり。
それでも、彼はいつも笑っていて、その穏やかな笑顔が、俺は大好きだった。

十二月に入って、俺たちは情報提供者の元テロリストに会った。
そいつは俺よりも若かった。
そいつはテロリストとは思えない屈託のない笑顔を浮かべて、相葉と名乗った。
「貴方達が茂君と同居していた方々ですね」
相葉は俺たちを見て、そう言った。
「あれは本当なのか?」
松岡君が相葉を問いつめた。
「本当です。5年前まで一緒に活動してましたから」
「・・・・・・・・・・・・・・・1つ訊いていいか?」
おもむろに、太一君が口を開いた。
「何で仲間を売ったんだ?」
その問いに、相葉は曖昧に言葉を濁し、寂しそうに笑うだけだった。

















半分瓦礫に埋もれた廃墟を、埃っぽい空気が満たしていた。
カツカツと靴音が響く。
柱の陰から人影が現れた。
「・・・・・・・・・・おかえりなさい、って言うのも変ですけど」
髪を立たせた青年が、自嘲気味に笑う。
「ただいま」
彼も笑い返した。
「状況は?」
「手配書にばっちり載っちゃいました。俺はAで茂君はSです」
「・・・・・・・・・・相葉やろ?」
「・・・・・・・・・・導師は処分を決定しました」
別の所からもう一人現れる。
「俺に行かせて下さい」
「翔君」
「導師は何て?」
「茂君に行かせろと」
「お願い!俺に行かせて!!ちゃんとやるから!!」
桜井は彼に縋りついた。
彼は目を背ける。
「・・・・・・・・大野」
その言葉に、青年が桜井をの腕をとった。
「離して!離せよっ!!さとっさん!!」
有無を言わせず大野は引っ張っていく。
それを見送って、彼は来た道を戻り始めた。

「何で!!何でだよ!!!何でやらせてくれないんだよ!!!!」
「・・・・・・・・・・・翔君には出来ないよ」
悲痛な叫びを上げる桜井に、大野は言った。
「翔君だけじゃない。松潤もニノも、俺だって出来ないよ。絶対に」
「・・・・・・・・・・・・何で・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・こんなんでも人間だからだよ・・・・・・・・・・・・」

















茂君は内乱の一番酷かった地区の生まれだと言っていた。
両親も兄弟も友人も、全部内乱で亡くしたそうだ。
茂自身も大怪我を負ったとかで、背中全面に大きな火傷の痕が残っているのを見たことがある。

相葉との面会で、あの手配書に間違いがなかったことが判明した。
帰り道、太一君はすごく怒っていた。
絶対に連れ戻して罪を償わせると意気込んでいた。
松岡君もそれに賛同していた。

山口君は何も言わなかった。
よく考えれば、手配書ができた頃から何も言ってなかった気がする。

俺は、判らなかった。
茂君を連れ戻したいのか、更正させたいのか、どうしたいのか、全くもって判らなかった。

けれど、会いたいと思った。

















カチャリ。
ノックもなく扉が開いた。
無機質な内装の部屋の中、扉に向かって椅子が置かれ、何の障害物も無い。
そこに座っていた相葉はゆっくりと伏せていた顔を上げた。
「来ると思ってました」
そして、にっこり微笑む。
撃鉄が起きる音とともに、その銃口が相葉の眉間を向いた。
「・・・・・・・・・・・・・・言い残すことは?」
その言葉に、相葉が苦笑を浮かべる。
「変わったね。茂君」
見上げる相葉に、城島は片眉を上げた。
「5年前の貴方だったら、そんなことを訊く前に引き金を引いてましたよね。
 ・・・・・この間、茂君が同居してた人たちに会いましたよ。話もしました。
 怒ってましたよ。貴方を絶対に連れ戻して、更正させるって。罪を償わせるって」
相葉は笑顔で続けた。
「それを見て、俺はとても羨ましかった。この5年間、貴方は幸せだったんだって。
 あんなに思ってくれる友人が出来て、楽しく、幸せに暮らしてたんだろうって。
 ・・・・・・・・・・・俺は思いましたよ。もし、民族統制なんて行われなかったら、
 内乱が起きなかったら、俺達も5人であんなふうに暮らしていけたのかなって。
 智君や翔君や、松潤とニノと、5人でバカやって、歳を取っていけたのかもしれない」
視線が、城島を射抜いた。
「もう終わらせなきゃいけないんですよ。こんな憎しみの連鎖なんて、無意味です。
 茂君だって解ってるんでしょう?テロなんてやったって、死んだ人は戻ってこないって。
 憎しみが消えるわけも無い。憎しみが憎しみを生んで、第二・第三の俺達が生まれるんですよ。
 人間には憎しみ以外の感情があるんです。誰かを愛したり、幸せを感じたり、誰かの死を悲しんだり。
 それが無いなんて、もう人間じゃない。俺は、もうみんなのそんな姿見たくないんです」
泣きそうな顔。城島は、いつの間にか銃口を下に向けていた。
「まだ、戻れる。まだ戻れるんです。お願いですから、もうやめてください。
 生きて、今までのこと全部赦して、今までのこと全部償ってください。貴方を待ってる人がいるから!」
動けなかった。
多分、きっと、ずっと前から解っていた。

それでも、自分がここにいるのは。


「智君と翔君と、松潤とニノに伝えてください。
 俺は、もういくけど、みんなは生きてって。みんなの分の罪は俺が償うから、幸せになってって」
そう笑って、相葉は突然血を吐いた。
「相葉!!!?」
「・・・・・・・・・・・・大きな声出しちゃダメですよ。バレちゃいますから・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・初めから・・・・・・・こうするつもり・・・・・・・・・でし、た・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・お前・・・・毒、を・・・・・・・・・・・・」
椅子から落ち、膝を着いて虫の息なのに、相葉は、城島の足を掴む。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
聞こえるか聞こえないかの声で、最期の言葉を残して、泣きながら、息絶えた。


城島はそこからしばらく動けなかった。

















年も暮れる頃、自首した男は命を絶った。
配備されていたSPが殺されていたことから、口封じかと思われたが、
男の部屋に、彼が用意したと思われる毒薬と、それを服用した痕跡が見付かり、世間は自殺だと判断した。
遺書は残されていなかった。

それから数日経って、官僚が1人、事故で死亡した。
Aランクで手配されていたテロリストも同じく死亡した。
事故を装った殺人として、容疑者死亡のまま、処理された。

















ある時、茂君が、もうダメだ、と言った。
それは俺しか聞いてなかった。
山口君も太一君も、松岡君もいなかった。
2人きりの時に、突然茂君はそう呟いたのだ。
何がダメなのかは解らなかった。
それは今でも解らない。
訊いても、笑って有耶無耶にされて終わってしまったから。

茂君には恋人がいたそうだ。幼馴染の子だったらしい。
大人しくて、恥ずかしがりやで、すぐに顔を真っ赤にして黙ってしまったと笑っていた。
結婚の約束もしていたらしい。
小さな家で、猫を飼って、静かに暮らすのが夢だったと言っていた。
彼女もまた、内乱で命を落としてしまったそうだ。
もともと丈夫な方ではなかったらしく、心労が祟って、あっさり死んでしまったらしい。
懐かしそうに、寂しそうに、茂君は語ってくれた。

思えば、内乱で命を落としたのは、他民族だった。
特に、今手配書が回っている組織の大半を占める民族は、民族統制の名の下に、殺されていった。
内乱の原因は、それだったのだ。
戦前の政府は一民族優位主義を唱え、他民族の排除を行った。
それを発端に内乱が始まり、他国の介入を経て、今の政府に落ち着いたのだ。

よく考えると、殺された官僚は皆、戦前から政府内に籍を置き、
民族統制に関わりながらも訴追を逃れた人物ばかりだ。
軍人として、そんなことを思ってはいけないのかもしれないけれど、
俺は、仕方ないのかもしれない、と、思ってしまった。
一般人を巻き込むのは、最低だと思う。
けれど、テロリスト達は、政府の暴走を止めなかった一般人も恨んでいるのかもしれない。

余計に、茂君を見つけて、どうしたいのか、解らなくなった。

















「茂君、俺、もうこれで終わりにしようと思います」
意を決した様子で、大野が言った。
「翔君はあの時の官僚を1人殺して逝きました。松潤とニノは軍に射殺されました。
 相葉ちゃんも逝ってしまった。相葉ちゃんには悪いけど・・・・・俺はもう、生きてる意味がない」
「・・・・・・・・・・・そうか・・・・・・・・・・・・」
「導師も死んで、仲間も死んで、もう、残ってるのは、俺と茂君だけなんです。
 幸い、あの時の官僚は、あと1人です。俺がやれば、終わる」
大野は、笑った。
「俺は、こんなことしても意味がないって、ずっと前から解ってました。
 相葉ちゃんに言われるまでもなく、解ってたんですよ、ずっと、ずっと前から。
 でも、赦せなかったんです。家族も友人も故郷も、全部奪ったあいつらが。
 今だって、結局唯一残ってた大切な人たちも、全員死んでしまった。
 だから、俺はやり直せないんです。赦すことができないから。
 でも、茂君はまだ大丈夫です。まだ戻れるところにいる。引き止めてくれる人たちに出会えたから。
 すごく楽しそうでした。あの人たちといる時。みんなが恐れる人打なんて思えないくらい幸せそうで。
 本当は、俺たちだって、ああやって幸せになれてたかもしれない。そう思うと、悔しい。
 もう、決して俺の手に入ることはないけど、でも、茂君が手にしてくれるならいいやって思えるんです」
そうして、動けずにいる城島の手を取った。
「だから、生きてください。幸せになってください。俺たちは、茂君に夢を託したんです」
にっこりと微笑んだ大野に、城島は何も言えなかった。
笑うことも出来なかった。

















一月下旬。
ある男に握手を求められた議員の一人が、その男とともに吹っ飛んだ。
その議員は、戦前に一民族優位主義を一番に掲げていた人物だった。

彼の死によって、本来なら戦犯として処罰を受けるはずだった人物全てが死亡した。
そして、手配書が作成されたテロリストは、残り一人になった。

















二月。
「潜伏先が見付かった」
山口君が言った。
「どうしたい?」
何故か山口君はそう訊いた。
「多分、どんなに恩赦を求めても、極刑は免れられないかもしれない」
「それでも、連れ戻す」
太一君と松岡君は、迷わずそう答えた。
「長瀬は?」
俺はすぐには答えられなかった。
茂君にどうしてもらいたいか、判らなかったから。
でも、これだけは判った。
「俺は、茂君には死んでもらいたくないです」
その答えに、山口君は満足そうに笑った。
「じゃあ、迎えにいこう」

















そこは断崖絶壁の土地に建った、小さな教会だった。
三手に分かれて、太一君と松岡君は中に入っていった。
山口君は後ろの森へ、俺は海の方に行った。

冷たい潮風が吹きぬける。
空にはどんよりと雲が垂れ込めて、今にも雪が降ってきそうな色を見せていた。

断崖の先には、1メートルほどの高さの石の柱が立っていて、そこに、茂君もいた。

「茂君」
俺は呼んだ。
「・・・・・久しぶり、長瀬」
しかたないなぁ、という苦笑を浮かべて、茂君は振り返った。
「・・・・・・・・・誰の、お墓ですか?」
俺は、何を言っていいのか判らなくて、そう訊いた。
「僕の家族、友人と散っていた同胞の墓や。骨もないけどな」
煙草の煙がゆらゆら揺れる。
茂君はヘビースモーカーだった。
「死なないで、ください」
「僕が何者かわかっとるんやろ?無理なお願いやで」
「でも俺は死んで欲しくないです」
「僕は元大統領も、何百人もの罪もない人々も殺した殺人犯や。死刑以外ありえない」
「そんなこと言わないでください!!」
俺は思わず声を上げた。
「死刑だなんて、俺は嫌です!!確かに、茂君がやったことは酷いことです!!
 でも、俺はアナタに死んで欲しくない!!生きていて欲しいんです!!
 だって、何も無い所で転んじゃうくらい鈍臭いのに、テロなんて出来るわけないじゃないですか!!」
俺の言葉に、茂君は呆けていた。
「長瀬、それ言いすぎ」
クスクスと笑う声が後ろから聞こえた。
そこには山口君と太一君、松岡君がいた。
「確かに、何年も同じ街に住んでいながら道に迷うような人に大統領が殺せるとは思えないね」
太一君がそう言って、笑う。
「本当は怒ろうと思ってたんだけどね。こんな雰囲気じゃ怒れないよ。
 茂君、アンタがもし了承するなら、俺たちは是非、今までと同じ暮らしを続けたいんだけど?」
「・・・・・・そんな・・・・・ありえへん、そんなこと・・・・・・」
「もちろん、罪は償ってもらうよ。それ相応のことをしてるんだからね」
「待ってるから。アンタが出てくるまで、待っててあげるよ。俺達優しいから」
松岡君がそれに続けた。
「言っとくけど、今逃げたとしても俺達追いかけるから。覚悟してよね」
最後に、山口君が笑った。
「・・・・・・・・・・・僕だけ、生きてくなんて・・・・・出来ん・・・・・」
「生きてって、言われたんでしょ?」
ほら、と、差し出された手紙を見て、茂君は崩れ落ちた。

















二月中旬。
最後のテロリストが逮捕された。

検挙されたのは総勢で73名。
残りは自殺や軍との撃ち合いによって命を落とした。

こうして、国内最大の反体制組織は壊滅した。



















どういった経緯かは判らないけれど、茂君は死刑を免れ、今は刑務所で罪を償っている。
もう何年かは出ては来れないだろうけど、模範囚としてがんばってるらしい。


俺たちは宣言通り、彼を待っていた。
いつ帰ってきてもいいように、ちゃんと茂君の分の部屋は用意してある。


あれから俺たちは、もっといい家に引っ越したのだ。
アパートなんかじゃなく、ちゃんとした一軒家に。


この国は平和になったんだと思う。
けれど、絶対に忘れちゃいけないんだ。
その裏で、死んでいった人たちのことを。



最後に。
茂君が受け取った手紙は、同じくテロリストだった友人からの手紙だったらしい。
内容は知らないけれど、茂君を思い留まらせてくれたその人に、感謝したい。






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10000打&20000打リクエスト作品でした。
トキさん以外報われてないので下ろしたのです。
時期的にピンポイントだったのもあったし(英国テロ計画発覚)、ちょっと控えようと思いまして。
ホントはもっと救いの無い作品だったんですけどね。
リーダーは生きてませんでしたから・・・・。
うん。ヤバイヤバイ。

2006/08/14




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