二ヶ月と少し前、太一君の誕生日。
その日、どこかに行っていた太一君は、暗くなってから帰ってきた。
どことなく落ち込んでいる感じがして、でも尋ねてみても、何でもないとしか言ってくれなかった。
そのあと一緒にご飯を食べに行ったときは元気そうにしてた。
もしかしたらリーダー関連で何かあったのかもしれないなぁと、何となく俺は思った。
太一君が慕ってたリーダーは、去年の太一君の誕生日に死んでしまったから。
かぜはしるあおぞらのしたで
今日は俺の誕生日だ。
こんな日に休みをもらえるなんてツイてる。
もしかしたらマネージャーが気を利かせてくれたのかもしれないなんて感謝しながら、俺は大きな鞄を取り出した。
その中に、パソコンとか音楽プレイヤーとか、読みかけの雑誌も適当に突っ込んで肩にかける。
そして部屋の中の鍵という鍵を全部閉めて、外から誰も入れないようにした。
携帯は机の上に置いておく。
俺はすべての準備を整えると、お気に入りのスニーカーを手に持って、リビングのど真ん中で目を閉じた。
大きく深呼吸をして、石造りの床を思い出す。
そしてゆっくりと一歩、踏み出した。
俺のような奴のことを『稀人(まれびと)』というらしい。
滅多にいない人という意味と、大昔の『まろうど』という言葉をかけてあるらしい。
いつだったか、リーダーがそう教えてくれた。
俺は『うてな』に自由に上ることができるのだ。
目を開くと想像通りの床と、いくらか雲の近い空が見えた。
俺は持っていたスニーカーと鞄を床に置くと、そのままごろりと仰向けに転がった。
そして目を閉じる。
自由に上ることができると言っても、屋上に行くことができるだけで、中に入ることはできない。
中から許可を貰えない限りは何もできないから、気付いてもらえるのを待つことにした。
「また来たのかよ」
いつのまにか寝てしまっていたみたいで、かけられた声に驚いて目を開ける。
真上から覗き込む顔に焦点を合わせると、見慣れている呆れた表情が見えた。
「あ、マボ」
「あ、マボ、じゃねぇよ。来たらノックでも何でもしろっつってんだろ」
マボはそう言いながら俺のオデコにデコピンをする。
これが意外と痛かった。
「いって!」
「大袈裟に言うんじゃねぇよ」
叫びながら起き上がると、今度は後頭部を叩かれた。
今度はそんなに痛くなかった。
「も〜、マボひどいよ〜。ノックって、扉なんて無いじゃん」
「床叩けば聞こえるよ」
何回言えば分かるんだよ、と、マボはため息をつく。
「次から気を付けます」
俺はそう言ったけど、きっと次もやらないと思う。
このやり取りが好きだし、マボは絶対に気付いてくれるから。
「今日はお休み?」
「そうだよ。今日は何となくお前が来るような気がしたから、外行かなかったんだよ」
「ありがと〜」
マボは照れ臭そうに顔を背けた。
そして、勢いよく俺の向かい側に腰を降ろす。
「じゃあイノッチが中にいるの?」
「おう。あいつ、もうすぐ任期終わるから、色々と焼き付けておきいんだと」
「えっ!?」
マボの言葉に俺は驚いて声を上げた。
イノッチはもう一人の『火群番』だ。
ここに初めて来たときから、ずっとマボと一緒にいたもう一人。
俺が来るときはだいたいマボが休憩のときだから滅多に会うことはなかったけど、
中に招かれたときには、絶対お茶やお菓子を出してくれて、俺をもてなしてくれた。
『火群番』は二人と決まっているらしい。
その一人のイノッチがいなくなるということは、新しい人が来る、ということだろう。
「イノッチ、いっちゃうの?」
「ああ、何か、待ってた奴が来たんだと」
「そっか・・・・・・・・そうなんだ。何か寂しくなっちゃうなぁ」
『うてな』は、いつでも迎え入れてくれて、マボがいてイノッチがいるものだったから、
決まってしまったものは仕方ないけど、やっぱり寂しく思う。
「・・・・・・・そういう顔すんなよ。仕方ねぇだろ。いつまでもここにいるわけにはいかないんだから」
マボはそう言って、少し拗ねた様子で俯く。
マボもやっぱり寂しいに違いない。だって二人ともすごく仲が良かったんだから。
「そうだよね。でも、イノッチも待ってる人が見つかってよかったよねぇ」
俺がそう笑うと、そうだよ、とマボも笑った。
後に残してきた弟を待っているのだと、イノッチ本人から聞かせてもらったことがある。
何があったかとかは訊かなかったし、訊ける感じでもなかったけど。
でもその人に会えたならそれは良かったことであるに違いない。
「ちょっと寂しいけど、良いことだよね」
「あんま寂しい寂しい言うんじゃねぇよ。それに、ちゃんと次の人来るんだから」
「そうだよ!その人にマボは会ったの?」
俺が勢いよく顔を近付けると、マボは驚いたように仰け反ってから俺の顔を押し返す。
「会ったよ。まだここには入れないけど、先々月のその人の命日に戻ってきてるからさ」
「どんな人?」
「優しそうな人だったよ。初めて『うてな』見たとか言ってたけど、そんな奴いるんだな」
マボはそう言いながら立ち上がる。
そして空に向かって大きく伸びをした。
「そういえばさ」
大きな欠伸を一つした後、マボはそう言って俺を見降ろす。
「今日、お前誕生日なんだろ?おめでとう」
急な言葉に俺は呆気にとられて、そのままマボの顔をじっと見つめた。
「・・・・・・・・・・・・・・何だよ。違うのか?」
「あ、ううん!俺言ったかなと思って!」
「まぁ、いろいろとな。井ノ原といろいろ準備したからさ、中に来いよ」
「ホント!!?」
マボの言葉に、俺は勢いよく立ち上がる。
今日は誕生日だからってわけじゃなく、マボとイノッチとのんびりしたいなと思って、『うてな』に来たんだ。
それなのに誕生日を祝ってもらえるなんて、これ以上の幸せは無いと思った。
「行こうぜ。今日は風強いからちょっと寒くなってきたし」
マボは肩の辺りを擦りながら、いつの間にか現れた『うてな』の中に続く階段を下りていく。
俺はそれに続きながら、一段下りてから足を止めて空を見上げた。
イノッチの後に来る人はどんな人だろう。
次の人とも、イノッチみたいに仲良くなれればいいなぁと思う。
『うてな』に呼ばれた人だから、きっと仲良くなれるに決まってる。
風が強いのか、雲が急ぎ足で走って行くのが見えた。
*
おめでとうベイベ!
最近あんまり顔を拝見できませんが、
ときどき奪取で見る貴方は元気にやっているようで良かったです(笑)
この一年が貴方にとって最高の一年でありますように!
分さんの続きと言いましょうか・・・・・。分さんのとき以上に祝えてない・・・・・(ガックリ)
もうちょっと深いところまで突っ込んでいきたかったんですが、そういう流れに出来ませんでした。
次こそは!リーダーの時は頑張る!
改めて、おめでとうございます!ベイベ!
2010/11/7
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